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リア達が呪いの根源と対峙している間の王宮では、被害にあった地域の報告が絶え間なく飛び交っていた。
「西側の避難完了しました!」
「北門付近に黒い影のようなものが立ち込めてます!」
「地方都市からも異常報告が増加中です!」
その中心で、レオニスは冷静に指示を飛ばしていた。
「北側の医療班を東へ回せ」
「物資は第二倉庫を開放し、直ぐに運べ」
「中央の避難民受け入れは王立学園側へ、自力避難が困難な者もそこへ移送しろ」
報告は途切れることなく届く。
それでも、レオニスの判断は一度も止まらなかった。
一切の迷いなく、即座に処理する。
「……流石はレオニス様」
「王太子殿下不在でも王宮が回っている……」
「いや、むしろ今は——」
一部の貴族達は、既に次代の王としてレオニスを見るようになっていた。
レティシアはその様子を静かに見つめる。
(.……何と隙のない人なのか。)
(殿下が冬の凍てつく大地なら、この男は夏の陽だまりのよう)
人を懐柔し
自然に従わせ
気付けば中心に立っている
レティシアは、ふっと目を細めレオニスに声をかけた。
「殿下とは正反対ね」
レオニスが書類から視線を上げる。
「……何の話かな?」
「貴方は貴方で皆を上手く手なづけている」
レティシアは、にこりと微笑む。
「まさか、玉座を狙っておいでで?」
王になる気など無いと知りながら、その姿に嫌味を言わずにはいられなかった。
レオニスは数秒ほど沈黙し、小さく息を吐く。
「……興味ないよ」
淡々とした声。
「私は、王には向いていないからね」
「まあ、ご謙遜を」
「事実さ」
レオニスは再び、報告書へ視線を戻した。
「人を統治する事と、人に希望を与える事は別だ」
「……」
「レイは、後者を持っている」
レティシアは、僅かに目を見開いた。
意外だった、もう少し競争意識のようなものがあると思っていた。
だがこの男は、本当に玉座を見ていない。
ただ“支える側”として立っている。
レティシアは、小さく肩を竦めた。
「……随分と買っておりますのね」
「買っている訳ではない」
レオニスは静かに言う。
「王は、ただ人を従わせているだけでは駄目だ」
「…孤独になる」
その言葉にレティシアは、ふとリアを思い出した。
あの少女が現れてから、確かにレイは少しずつ変わっていった。
凍った王子だった男が、いつの間にか人らしい顔をするようになった。
「……っ」
レティシアが何かを言いかけたその時、王宮の窓の外でふわりと白い雪のような光が舞った。
レオニスが立ち上がり外を見る。
冷たいがどこか優しさを感じる光が落ちてゆく。
レティシアも窓へ駆け寄った。
白い光の粒子が静かに王都へ降り始めていた。
それはまるで誰かが泣いているようだった。
国全体へ光が降り注ぎ、全ての黒い呪いが消えて行く。
空には、月の光そして満天の星が見えるようになった。
「終わったのね……」
(……あの子はやり遂げたのね、でもこれからが大変ね。)
レティシアは空を眺めながら呟き、そんな事を考えていた。
その隣で、レオニスも静かに空を見上げていた。
そして、ふっと肩の力を抜いて伸びをした。
「……これで、肩の荷が下りる」
いつもの余裕ある笑みではなく、ほんの少しだけ疲れた顔だった。
レティシアは、そんなレオニスの表情を初めて見た。
「何かあったら、どうしようかと思った」
レオニスは小さく呟く。
レティシアは、僅かに目を見開いた。
いつも余裕があり、何でも分かっているように振る舞う彼が、そんな不安を抱えていたことを初めて知った。
「綺麗……」
王宮では、皆が空を見上げていた。
そして同じ頃、王国各地でも――
長く黒い影に覆われていた空から、白い光が降り注いでいた。
人々は窓を開け、外へ出て、その光を見上げる。
誰もが、長い夜が終わったことを感じていた。




