近づいた距離
書き溜めストック減ってきたので更新ペース落ちます。
この先の話考え中です。
あの後、リアは今日は休むようにと言い渡された。
レイたちは、戻った瞬間から次々と人に呼ばれている。
報告
被害確認
復興へ向け各地への指示
やるべき事が山積みなのだろう。
リアは与えられている自室へ帰ろうとすると、侍女に丁寧に一礼されながら言われた。
「お身体を綺麗にして、お召し物を変えましょうか?」
「その後で、軽く召し上がれるものをご用意いたしますね」
「……お願いします」
そう返しながら、リアは自分の着ている服を見る。
確かに汚れていた。
山に登り、藪の中に入り、霧の中を歩き回った。
泥に塗れていた。
(皆に汚いって思われてた……?)
急に恥ずかしくなり顔が熱くなる。
侍女は特に気にした様子もなく、静かに浴室へ案内する。
王宮の浴室は、リアの想像よりずっと広かった。
白い石造り
磨かれた床
柔らかな湯気
恐らく、住み込みの侍女や従者たちも使う場所なのだろう。
身体を洗い流し、そっと湯へ浸かる。
「……温かい……」
思わず声が漏れた。
こんなに広い湯は初めてだった。
家では、桶へ水を溜めて身体を拭き、髪は洗いで乾かした後に香油を少しつけて終わりで、それが当たり前だった。
湯の熱がじんわり身体へ染み込み、張り詰めていた緊張が少しずつ解けていった。
戦いは終わったのだとようやく身体が理解し始める。
湯から上がると、侍女が髪を丁寧に梳いてくれた。
柔らかな布で水気を取り香油を薄く馴染ませる。
さらに、腕や頬へ保湿用の香料を塗られリアは少しだけ落ち着かなくなった。
「な、何だかすごいですね……」
侍女が小さく笑う。
「リア様のお肌が乾燥しませんように」
「…とても良い香りがしますね」
「そうでしょう、これは隣国から取り寄せたローズオイルでとても良い香りなのです」
腕の包帯も、新しいものへ巻き直してくれた。
用意されていた服は、普段よりずっと柔らく肌触りが良い部屋着だった。
「ありがとうございます」
リアが頭を下げると、侍女は微笑む。
「恐れ入ります」
部屋へ戻ると、テーブルには温かい紅茶と軽食が並べられていた。
リアは椅子へ座り、一口紅茶を飲み息を吐く。
口から鼻を抜ける優しい香りが広がった。
ぼんやりと、王宮へ来た日からの事を思い返す。
レイ、ルシアン、アルヴェインなど沢山の人との出会い。
霧を消し続け、北へ行くことになり、ユースティアに会い、そして原初の王の呪いに立ち向かった。
気づけば、あっという間に1年弱が経っていた。
始めて出会った日が遠い昔のようにも感じる。
「……不思議」
しばらく一人で静かな時間を過ごしていると、扉が叩かれた。
入ってきた侍女が、食器を下げながら言う。
「明日の朝、謁見の間にて国王陛下ならびに大臣方へ、今回の件のご報告をとの事です」
リアの動きが止まる。
「……え?」
(急すぎる、いや確かに必要なのは分かる分かるけれど…)
国王
大臣
謁見の間
リアの顔からすっと血の気が引いた。
侍女はそんな様子を見て、少しだけ困ったように笑いながら気遣いの言葉をかけてくれる。
「殿下やルシナス様もご一緒されますので、きっと大丈夫ですよ」
侍女が退出した後、リアはそのまま寝台へ倒れ込む。
身体は柔らかく沈んで行くけれど、頭の中は全然落ち着かない。
(何話せばいいの……?)
(失礼があったらどうしよう……)
(というか怖い……)
悩み始めると止まらない。
そのまま、ぐるぐる考えているうちに疲労が限界を越えリアはいつの間にか深く眠りへ落ちていた。
どれくらい眠っていたのだろう…リアはゆっくりと目を開けた。
部屋は暗く、窓の外はもう夜になっているようだった。
ぼんやりした頭で少しずつ記憶を辿る。
湯浴みをして
軽食を食べて
それから…
(明日、国王陛下や大臣の前で報告……)
思い出した瞬間に、胃がきゅっとした。
その時、コンコンと扉が叩かれる。
「っ」
慌てて身体を起こし、少し寝ぼけたまま返事をした。
「……はい」
急いで髪を整えながら、ぱたぱたと扉へ向かう。
扉を開けると、そこにいたのはレイだった。
「眠っていたのか?」
「い、いえ……起きてました」
レイが部屋を見渡す。
「部屋が暗いが?」
「……ちょっと寝てて、今起きたところです」
途端に何故か恥ずかしくなった。
「い、今灯りつけますね」
リアは慌ててランプへ向かい明かりを着けた。
その光の中でレイは静かに室内を見渡す。
少し跳ねた髪
皺の寄った部屋着
乱れた寝台
……どう見ても、直前まで熟睡していた様子だった。
レイは視線を逸らし、何となく見てはいけないものを見た気分になった。
だが、顔には出さずに自然を装い声をかける。
「起こしてしまったようだな」
「だ、大丈夫です」
「ちょうど目が覚めたところだったので」
リアは必死に誤魔化しているが、寝起き感は消えていない。
レイは少しだけ口元を緩め、そして自然な動作でソファを示す。
「とりあえず座れ」
「は、はい……」
リアは素直に従い座ると、当然のようにレイが隣へ腰掛けた。
(近い、近すぎる…)
「ち、近いです」
思わず声に出して言ってしまった。
「馬車でも一緒だっただろう」
「あれは……!」
リアが顔を赤くする。
「色々あって気にする余裕が無かったというか…皆様もご一緒でしたし……」
そこまで言って二人とも黙り、静寂が流れる。
先に口を開いたのはレイだった。
「……もう、近づいても何も起きないんだな」
リアは小さく頷く。
「そうですね…良かったです」
レイは静かに息を吐き、そして言った。
「明日の報告が終わったら、家へ戻るといい」
「リアの処遇が決まり次第また迎えに行く」
リアは少し目を丸くする。
「じゃあ……しばらくお別れですね」
その言葉に、レイの視線がゆっくりリアの手に落ちた。
そっと、リアの手を取り言い淀む。
「……その」
レイは珍しく少しだけ言い淀む。
「殿下って呼ぶの、やめてくれ…名前で呼んでほしい」
「でも、私……」
リアは瞬きをしぽかんとする。
相手は王太子だ、簡単に名前で呼んでいい相手じゃない。
レイはそんなリアを見ながら、少しだけ意地悪く言った。
「嫌いか?」
「っ!?」
反則みたいな聞き方にリアが顔を真っ赤にする。
嫌いなわけがない、むしろ好きになってしまったから困っているのに。
霧の中でリアが言った言葉を、レイは覚えていた。
《好きな人と、ちゃんと気持ちを伝え合って、一緒にいたい。》
だから、逃がす気はなかった。
「嫌いじゃないです……」
リアが小さく呟く。
「好きか?」
追撃をする、リアの顔が限界まで赤くなり視線が泳ぐ。
レイはそっと耳元へ顔を寄せた。
「私はリアが好きだ」
低く、優しい声で囁く。
「だから名前で呼んでほしい」
(心臓がうるさい…)
リアは顔を両手で隠しながら、しどろもどろになった。
「わ、私も……」
「レ、レイ様が、すすす、好きです……」
レイが一瞬止まり、そして口元が少しだけ上がった。
「……こっちを見ながら、もう一回言ってくれないか?」
「っ……」
(ひどい、絶対分かって言っている)
リアは指の隙間から、ちらりと上目でレイを見ていう。
「……レイ様、好きです」
自分で言わせたくせに、レイは不意打ちを食らったように呼吸が止まる。
視線を逸らし、呼吸を整えている。
リアはそれに気づいた。
(あ……レイ様も照れてる)
何だか少し嬉しくなり、ふふっと笑ってしまう。
レイはすぐ平静を取り戻し、リアの顎へそっと触れこちらを向かせてきた。
(近い、息が止まりそう)
レイは少しだけ、リアの顔を見つめた。
それから、静かに唇を重ねた。
一瞬だったけれど、口に熱が残る。
離れたあと、リアは完全に固まった。
遅れて一気に顔が赤くなる。
「っ……!?」
声にならない。
レイはそんな様子を見ながら薄く笑った。
「これで、ルシナスの上書きができたな」
「!?」
リアの顔がさらに赤くなる。
レイは満足したように立ち上がった。
「もう夜も遅い」
「しっかり休め」
扉へ向かいながら最後に振り返る。
「明日はよろしく頼む」
そう言って部屋を出ていった。
扉が閉まり部屋は静まり返る。
リアはそのまま、真っ赤な顔で寝台へ行き倒れ込んだ。
(キスされた……)
思い出しすと、また顔が熱くなる。
布へ顔を埋めごろごろ転がる。
さっきの事が頭から離れず、朝まで全然眠れそうになかった。
ほとんど見てる人いないだろうから言う、書きたかった雰囲気からどんどん離れてしまった。
ルシナス行ったらそこで話終わるし、途中でリア消失させてレイを喪失に落とすのも考えた。
途中で止める気は微塵も無いけど、もっと陰鬱にしたかったな…。




