帰還
王都フォグが見えたのは、まだ昼前だった。
遠くに見える白い城壁は、何も変わっていないようでいて、どこか別のものに見えた。
丸一日離れただけで“日常”だった場所が、急に遠い記憶のように感じられる。
馬車が門をくぐると、被害にあった場所を片付けたり危険箇所の見張りをしていた衛兵たちが整列する。
帰ってきことに気づいた住民達は、自宅や避難所から慌てて外へ出て来る。
「……戻ってきた」
「本当に?もう、あのおかしな異常気象は起きないの?」
「あれは何だったんだ?」
「あの天変地異をどうやって収めたのやら」
事実を知らない民衆から、不安そうな声があちこちで漏れていた。
馬車が王宮に到着し、先に降りたのはレイだった。
その姿を見た瞬間、残っていた騎士、衛兵や従者たちの背筋が一気に伸びる。
「殿下……!」
次にアルヴェインとルシナスが降りる。
ルシナスは周囲を見渡し、愛想笑いで雰囲気を少し和ませた。
そして次に、リアが降りた。
傷の残る腕、疲れが滲む目、それでもしっかりと前を向く。
「……あの子が?」
「本当に…あの子が止めたのか?」
誰かが小さく呟く。
そのとき、王宮の扉が開きレオニスが現れた。
いつも通りの穏やかな笑みを浮かべ一言だけ言う。
「……お帰りなさい」
それだけで、状況をすべて把握しているのが分かる。
レイが一歩前に出る。
「報告は後だ、まず民や都市部、地方の状態を」
「ええ、すでに確認しています」
全てにおいて即答する、彼の隙のない仕事を物語っていた。
ルシナスが軽く肩を竦める。
「相変わらずだな」
「やれることをやっているだけだよ」
レオニスは笑うが、その笑みは少しだけ疲れていた。
視線がリアに向き一瞬、空気が止まる。
「……君が終わらせたんだね」
柔らかな声だった。
リアは小さく頷く。
「みんなで、です」
その答えに、レオニスは目を細めた。
「そう言えるのが、君らしい」
それだけ言うと、すぐに背を向けて戻って行った。
王宮の廊下に足を踏み入れると、途端に帰ってきたのを実感する。
リアの日常は以前とは同じ形ではなくなっていた。
歩きながら、ふと窓の外の青く晴れ渡る空を見る。
「……終わったんだよね」
誰にも聞こえない声で呟いたはずなのに、レイは聞いていた。
「終わったのは“呪い”だけだ、今後どうするかが一番の問題だ」
リアはレイを見て微笑む、この先に何が待ち構えていても今なら乗り越えられる…そんな気がしていた。
もう国を守っていた霧も呪いもない。
けれど、リアには新たに怪しい影が近づき始めていた。




