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王都のさらに北から煙のようなそれが夜空を裂くように噴き上がる。


“意思のないはずのものが、明確な意思を持って広がっていく”


騎士の一人が叫ぶ。


「視界不良!北側黒い何かに呑まれています!」


次の瞬間、王都全域に二度目の警鐘が鳴り響いた。


レイとルシナスは弾かれるように顔を上げる。


北の空から夜を侵すように、黒い何かが広がっていく。


「黒い霧、いや煙……?」


呟き、レイはゆっくり立ち上がる。


ルシナスも険しい顔で北を見た。


先ほどまでの空気はもう消えていた。


その直後、塔へ駆け上がる足音が響く。


「殿下!」


アルヴェインだった。


息を乱しながら、塔の上へ辿り着く。


「やっと見つけました……!」


肩で息をしながらも、すぐ報告へ入る。


「北より吹き上がる黒い影ですが、霧とは明らかに異なります」


レイは北を見据えたまま問う。


「どう異なる」


アルヴェインは一瞬だけ言葉を選ぶ。


「全くの別物です」


「霧とは真逆の構造です」


空気が張り詰める。


「何に反応している」


その問いに、アルヴェインは静かに目を伏せた。


だが、答えは既に見えていた。


「……殿下の“選択”にです」


沈黙。


ルシアンが眉を寄せる。


「選択?」


アルヴェインは続けた。


「殿下が塔へ向かわれた瞬間から霧の挙動が変化していました」


「そして今、黒い何ものかは北からこちらへ向かって広がっています」


レイの拳がわずかに強く握られる。


(ここまで来ると、偶然ではない)


ルシナスの腕の中で、リアが小さく息を呑む。


「……行かなきゃ」


か細い声にレイが振り返る。


「何だ?」


リアは青ざめた顔のまま、ゆっくり首を振った。


「声じゃない……」


「でも……感じるんです」


震える指が、無意識に北を指す。


「北の方から……誰かが叫んでる」


ルシナスの表情が変わる。


レイも息を止めた。


アルヴェインが静かに呟く。


「……崩壊が始まりましたか」


王都の防壁よりさらに北から流れる黒い煙の様な影が更に形を変えていた。


ただ漂うだけではない。


“道”のように、こちらへ一直線に伸びてきている。


まるで、何かを誘導するように。


黒はそこからこちらに向かって、這うように進み続ける。


レイは決断する。


「北へ行く」


アルヴェインが一歩前へ出る。


「殿下、王都は?」


「レオニスに任せる」


迷いはなかった。


ルシナスが腕の中のリアを見ると、リアはまだ震えていた。


だが、視線だけはしっかりと北を向いていた。


まるでそこに、答えがあるかのように。


レイは静かに言う。


「行くぞ」


そして――


王都フォグの門が開かれる。


黒く続く道へ向かって…

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