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29

あの後、四人は塔を降りた。


夜の王宮は騒然としていた。


警鐘が鳴り続け、廊下を騎士や役人たちが慌ただしく行き交う。


窓の外には、霧と黒いモノが混じり合い黒い霧が漂っていた。


塔を降りたところで、レイが足を止める。


そして、静かにリアの方へ向き直った。


「……すまない」


低い声だった。


「夜が明けたら王都を出る、ついて来てくれないか」


リアは少しだけ目を伏せた。


怖くないわけではない。


だが、北へ向かわなければならない。


あれからそんな感覚が胸の奥にずっとある。


小さく頷く。


その横で、ルシナスが眉を寄せた。


「大丈夫か? リア」


「無理しなくても――」


だが、途中で言葉を止める。


顔を見れば、もう行くことを決めているのが分かった。


代わりに今度はレイへ視線を向ける。


「そもそも、その聞き方じゃ“はい”以外答えられないだろ」


「嫌って言おうが、結局連れて行くつもりだったんじゃないのか?」


レイは何も返さない。


ルシナスは肩を竦める。


「声が聞こえるのも、感じるのもリアだけだからな」


「……レイだけじゃ心配だから、俺も行く」


一瞬レイは眉をひそめたが、すぐに表情を和らげ


「迷惑をかけるな、リア」


「今日はもう休め、朝は早い」


そう言ったあと、直ぐに王太子の顔へ戻る。


「アルヴェイン、今すぐ夜明けの出立に向けて準備を整えろ。各方面への連絡も」


「はっ」


アルヴェインが即座に動き出す。


レイもまた、慌ただしく廊下の奥へ消えていった。


その背を見送りながら、ルシナスは小さく息を吐く。


「……ほんと、忙しないな」


そして、リアへ視線を戻した。


「部屋に送る」


ルシナスはリアの部屋の扉の前で足を止める。


慌てて駆け寄ってきた侍女へ


「休ませてやってくれ」


「夜明けにレイと一緒に王都を立つ予定だ、その準備も頼む」


とルシナスは伝えた。


侍女たちは深く頭を下げる。


ルシナスはリアへ軽く手を振り、


「また朝にな」


そう言い残し、静かに去っていった。


王宮は慌ただしいまま夜が更けていった


夜明け前、庭に面した回廊でレオニスは外を眺めていた。


黒い煙の様な影は、王都北側からこちらへ向かって空を覆っている。


その背後にレイが現れ、レオニスは振り返り薄く笑い言った。


「留守は任せて、うるさい大臣たちは何とかするよ」


レイは静かに頭を下げた。


その姿に、レオニスが目を見開く。


「やめてくれ」


苦笑混じりに言う。


「レイは今、やるべき事をやるだけだろ」


短い沈黙の後、レイは再び前を向いた。


まだ薄暗い早朝、リアはほとんど眠れないまま寝台の上に座っていた。


そこへ、侍女が静かに声をかける。


「そろそろ起きて、出立の準備をしましょう」


用意されていたのは、動きやすい服装だった。


王宮で普段着させられていた華やかな服ではない。


旅へ出るための服。


着替えを終えると、侍女が髪へ手を伸ばした。


「今日は服装に合わせて、髪も結いましょうか」


長い髪が、高い位置で一つに束ねられていく。


鏡の前でリアは、髪を結われていく自分をぼんやり見つめていた。


顔色が悪い。


少し迷ってから、口を開いた。


「……皆さんに心配をかけたくないので。少しだけ化粧をしたいです」


「こんな顔色じゃ……不安にさせちゃう」


侍女は一瞬、言葉に詰まる。


こんな時まで、周囲を気遣うのかと。


気持ちを察した侍女はすぐに明るく返事をした。


「はい」


「ちゃんと顔色を整えましょうか」


「こんな時だからこそ、少しでも気分が晴れるように」


リアは少しだけ目を丸くし――


ほんの少し笑顔を見せた。

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