表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/54

27

塔の上を吹き抜ける夜風の音だけがしていた。


リアは泣き腫らした目のまま呆然としていた。


唇へ触れた感覚に驚きで涙も止まっている。


ルシナスは、そんなリアを抱き寄せたままゆっくりレイを見上げた。


「落ち着かせただけだ」


淡々とした声。


レイの胸の奥で、何かが軋む。


「そういう問題ではないだろう」


絞り出すような低い声だった。


ルシナスは鼻で笑う。


「じゃあ、どういう問題だよ」


空気が張り詰める。


リアは、二人を見上げた。


レイは、ルシナスの腕の中にいるリアから目を逸らせなかった。


ルシナスがいなかったら本当に落ちていた。


その恐怖が、まだ身体に残る。


そして今目の前にいるのは、自分ではなくルシナスへ縋るリア。


レイは胸が痛む。


ルシナスは、静かに口を開く。


「……お前さ」


「どこまで追い詰めたら気が済むんだ」


レイは目を逸らしながら


「違う」


即座に返す。


「私は――」


だが、言葉が続かなかった。


(何も違わない、距離を置いた)


(突き放して、守っているつもりだった)


その結果、リアは死のうとしていた。


ルシナスは、レイを真っ直ぐ見据える。


「王になりたいならなればいい」


「正しい王でいたいなら、そうすればいい」


「でもな」


ルシナスの声が低くなる。


「そのために、こいつが壊れるのを見てるだけなら」


「お前に、こいつを好きになる資格はない」


リアが息を呑む。


レイは、正論に何も言えなかった。


ルシナスは、ずっとリアを見ていた。


追い詰められていく彼女を、どうにか救えないかと近くで見守っていた。


そして今夜、消えようとしていたのを見つけた。


レイは拳を握り締める。


(自分は、何を守ろうとしていた?)


(国か、王位か、正しさか…一番守りたいと思ったはずの少女を、壊した)


三人の間に沈黙が流れる。


やがて、リアが震える声で言う。


「……やめてください」


二人の視線が向く。


リアは、涙で濡れた顔を伏せたまま小さく首を振った。


「殿下は、悪くありません……」


「全部、私が――」


「お前のせいじゃない」


今度は、レイが遮った。


強い声だった。


リアが目を見開く。


レイは、ゆっくりリアへ近づく。


ルシナスは止めなかった。


レイはリアの前へ膝をつき、いつもの威厳に満ちた王太子とは思えないほど静かな声で言った。


「……すまなかった」


「お前を守ると言いながら、私はお前を一人にした」


リアの瞳から、また涙が零れる。


そこで、初めて迷いを捨てた目をする。


「もう、お前を一人にはしない」


ルシナスの腕の中で、リアは泣き疲れた顔のリアが驚いた表情でレイを見つめる。


乱れた呼吸


涙で濡れた頬


まだ僅かに震えている身体


(今、触れたら壊してしまいそうだ…)


その瞬間、王都全体へ強い風が吹き抜けた。


白い霧と黒い影が、激しくぶつかり揺れる。


まるで、レイの“決断”へ世界そのものが反応したように。


そして、リアの耳元でまたあの声が聞こえた。


今度は、静かに悲しそうに。


『……また、同じ道を選ぶのね』


リアの顔色が変わる。


その言葉を聞いた瞬間、王都の北側から、黒い影のようなものが噴き上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ