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霧の中で泣いていた少年

初投稿です。何となく何か書いてみるかと思い立って書いてみました。

全然よく分かってないので、大目に見てください。

この国は、全ての領土が白く薄い霧に覆われている。


王都の外れ、そこには白い霧ではなく“深く沈むような霧”があった。


人の声を吸い、光を鈍らせ、世界の輪郭を曖昧にする場所。


それは王都の中で、もっとも見られてはならない領域だった。


その日、その場所に一人の少年がいた。


ルシナス・ヴァルクレイン


王家に連なる血を持ちながら、その名が意味を持たない存在である。


本来、彼がいるべき場所は王宮だった。


ヴァルクレイン家の子息として、王族に近い教育を受け常に比較されながら生きる。


優秀な双子の兄――レオニスと


「レオニス様は既に剣術も――」


「兄君は本当に素晴らしい」


「やはり次代を支える器は――」


そんな言葉を、ルシアンは幼い頃から聞き続けていた。


兄が嫌いだったわけじゃない。


むしろ、自分を気にかけてくれていた。


だからこそ苦しかった。


比べられることにも、期待されないことにも。


“兄の隣にいる自分”であることに。


そしてその日、ルシナスは監視の目を抜け出した。


王宮を離れ、馬も使わず、ただ気の向くまま歩いた。


誰にも見つからない場所へ行きたかった。


王族でも、ヴァルクレインでもない場所へ。


そうして辿り着いたのが王都東の端にある小さな町のさらにその奥、普通の町民すら近づかない裏路地――スラム街だった。


子供一人が踏み込めばどうなるかなど、分かりきっていた。


高価な服、洗練された立ち振る舞い。


隠そうとしても滲み出る、“上にいる人間”の空気に、最初は優しく笑っていた大人達も次第に目の色を変えた。


「坊ちゃん、迷子か?」


囲まれ、逃げようとして転び、一方的に殴られ、奪われていく。


そして今、ルシナスは霧の底で一人倒れていた。


「……どこにも、帰れない」


誰にでもなく、そう呟く。


帰る場所はあるはずだった。


だがそこには居場所が無かった。


そのときだった、霧がわずかに揺れる。


「……だいじょうぶ?」


囁くような声に、ルシナスは顔を上げた。


そこにいたのは、小さな少女だった。


まだ幼い自分より年下に見える少女が、こんな場所にいるのはあまりにも不自然だった。


ルシナスは理解できなかった。


(なぜここに…なぜ一人でここにいる?)


「……危ないよ」


少女はそう言いながら一歩近づいた。


その瞬間だった。


霧が、ほんのわずかに“薄くなる”


ルシナスは息を吐いた。


(何かがおかしい…)


少女は彼の腕に視線を落とす。


「……血、出てる」


そして、そっと手を伸ばした。


その瞬間――


身体が少しだけ“軽く”なった。


痛みが遠のき、呼吸が戻る。


ルシナスは目を見開いた。


「……なに、これ」


少女は首を傾げる。


「……わからない。でも、苦しそうだったから」


その仕草はあまりにも自然で、この世界の理から外れていた。


そのときだった、遠くで怒号が響く。


「そっちだ!ガキが逃げたぞ!」


足音が複数、霧の奥から迫ってくる。


ルシナスの身体が強張る。


「……っ、逃げろ」


反射的にそう言った。


関われば巻き込まれる、そう思った。


だが少女は動かない。


「なんで?」


少女は不思議そうに聞いた。


足音がだんだん近づいてくる。


少女は、静かに目を伏せた。


そして――


意識的に、力を閉じた。


周りを漂う霧が濃くなっていく。


それはまだ暴走ではない。


“見えなくするための選択”だった。


少女は、ルシナスの視線の先を隠した。


追ってくる大人たちの気配を、その存在すらも。


「……ここにいていいよ」


その、小さな声にルシナスは息を呑んだ。


何が起きているのか分からない。


霧の奥からの気配が、少しずつ薄れていく。


まるで最初から誰もいなかったかのように。


少女だけが、そこに立っていた。


そしてこのときはまだ誰も知らない。


霧の構造そのものに“初めて人の意思が介入した瞬間”だったことを。

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