表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/54

距離

(それでも私が来るのを…助けを…待ってる人がいる。)


役に立てているのか疑問を持ち限界が来てから1週間、リアはその気持ちだけでギリギリ自分を支えてきた。


その間、リアの部屋にあの黒髪の王太子が来ることはなかった。


毎日の終わりに必ず現れていた気配が途絶えた。


「……殿下、お忙しいのかな」


リアは小さく呟く。


自分に言い聞かせるように。


理由は分からない。


何かしてしまったのか、それとも本当に王宮の仕事が増え忙しいだけなのか。


ただ胸の奥に、説明のつかない空白と寂しさが残った。


それを埋めるかのように、ルシナスだけが時折顔を出した。


「元気?」


軽い声、いつも通りの調子。


だがレイの話をすると、ほんのわずかに表情が曇る。


「……レイは今、忙しいから」


それ以上は語らない、語ろうともしない。


リアはそれ以上聞けなかった。


一方、王宮の外では、霧の動きが変わり始めていた。


一週間が過ぎた頃、リアは気づく。


「……減ってる?」


霧を消しに回る件数が、明らかに減っていた。


ゼロではない。


だが、以前のような“連鎖的な発生”は抑えられていた。


そして翌週、会議が開かれていた。


「濃霧の発生頻度は減少傾向にある」


「王都周辺は特に顕著」


「ただし完全に無くなったわけではない」


報告が読み上げられる。


地図の上には、うっすらとした白の揺らぎが残っていた。


王都は確かに安定しつつある。


だが王国全体には、まだ不規則な霧が散っている。


アルヴェインが静かに口を開く。


「王都は……均衡に近づいています」


「彼女の負担がある限り、ですが」


その言葉に、一瞬だけ空気が重くなる。


レイは書類を見つめたまま動かない。


この一週間は感情を押し殺してきた。今までもそうだったので、平静を装うのは容易なことだった。


冷静で合理的、完璧、ときには冷酷な王子とも呼ばれて来たのだ。


やがて、低く呟いた。


「国王へ報告する必要があるな」


その声には、わずかに苦いものが混じっていた。


“成果”としては成功。


だがそれは同時に、彼女をさらに縛りもう関わるなという結果でもある。


レイは奥歯を噛む。


(これしかない…)


思考が交錯する中、会議は淡々と進んでいった。


王宮の中では、誰もが忙しさに追われていた。


アルヴェインは、霧の構造をさらに解析しながら感じていた。


(これはもう……)


確信に近い。


霧は“形を変えている”。


そして、それはリアの存在と明確に連動している。


偶然では説明できない。


アルヴェインは静かに目を伏せる。


(戻れない、もう出会ってしまっている)


レイはリアを忘れることはない。


そしてリアもまた、気づかぬうちに確実に惹かれている。


それは、偶然ではなかった。


最初から決まっていた“流れ”だ。


濃霧はまだ消えていない。


そして、この均衡は──


いつか必ず、崩れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ