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16

翌日、王宮ではまた会議が開かれていた。


「昨日もフォグ東部で濃霧を確認」


「南部でも濃霧による視界不良発生」


「農地への被害は継続中です」


報告が次々と並べられていく。


財務大臣ヘルマン・ドルクが、低く言った。


「問題なのは、あの少女が休養していた数日間から、濃霧の発生数が増加していることです」


「昨夜も別地点で新たな濃霧が確認されました」


宰相オルヴァンは、机上へ広げられた地図へ視線を落とした。


「霧は本来、この国を外敵から守る結界現象として存在してきた」


「王国全土を薄く覆うことで、他国の侵略を免れてきた」


「周辺諸国から“神秘の国”と呼ばれている理由でもある」


静かな声だった。


だが、その場の誰もが理解している。


もし霧が崩れれば、王国そのものが危ない。


オルヴァンは続ける。


「しかし最近、王都以外でも霧の異常が確認され始めている」


「国境付近では不安が広がり、隣国へ避難する民まで現れています」


重苦しい沈黙が流れる。


その時、軍務大臣バルド・シグレインが、苛立ちを隠さず口を開いた。


「ならば原因を断定すべきだろう」


「霧が悪化したのは、あの少女を連れてきてからではないか?」


空気が張り詰める。


レイは静かに視線を上げた。


「……早計だ」


それだけで、場が静まり返る。


「原因の特定が先だ」


誰も反論できなかった。


その中で、アルヴェインが静かに口を開く。


「現在、禁書庫の記録を含め調査を続けています」


「千年前の記録には、王族と“白い女の存在”に関する記述が断片的に残されていました」


「さらに、霧の変動時期と王宮内の状況を照合した結果…」


そこで一旦、言葉を切る。


「ある仮説が浮上しています」


空気が変わった。


「仮説だと?」


軍務大臣バルドが眉を寄せる。


アルヴェインは淡々と続けた。


「霧は、単純な自然現象ではありません」


「王族と何らかの形で結びついている可能性があります」


「そしてリア様が王宮へ来て以降、確かに霧の異常頻度は明確に増加している」


「加えて」


アルヴェインの視線が、わずかにレイへ向く。


「殿下と彼女が接触した直後に、局所的な濃霧発生が確認された事例が複数あります」


場が凍った。


「……何?」


誰かが呟く。


アルヴェインは静かに続ける。


「まだ断定はできません」


「ですが、二人の接触そのものが霧へ何らかの影響を与えている可能性があります」


皆、沈黙した。


次の瞬間、バルドが机を叩いた。


「馬鹿げている!」


「そんなおかしな話を聞かされてどうしろと言う!」


「静粛に」


レイの一言で、空気が凍りつく。


バルドは口を閉ざした。


レイは淡々と言う。


「仮説段階なら、これ以上の議論は無意味だ」


「調査を継続しろ」


そのまま、会議は終了となった。


大臣たちが徐々に退室していく中、アルヴェインは静かに資料をまとめていた。


やがて、会議室に残ったのはレイとアルヴェインだけになる。


レイは窓際へ歩きながら、低く問う。


「……続きを話せ」


アルヴェインは目を伏せた。


「先ほど申し上げた通り、まだ確証はありません」


「ですが、霧は王族の判断に連動している可能性があります」


「特に殿下が、あの少女と会話した直後に濃霧発生が集中している」


「偶然とは思えません」


レイは何も言わない、アルヴェインはさらに続ける。


「千年前の記録では、王が“白い女”へ惹かれた際、呪いが発動したと残されていました」


「もし、今回も同種の現象なら」


その瞬間、レイの表情が消えた。


そして小さく息を吐く。


「……父には報告できないな」


低い声だった。


「こんな馬鹿げた話を、国王へ持っていくわけにはいかない」


アルヴェインは黙ったまま、レイはしばらく考え込んだ。


「確認する」


数秒後、レイは短く言った。


「数日、いや……一週間」


「彼女との接触を控える」


アルヴェインが顔を上げる。


レイは背を向けたまま続けた。


「その間、濃霧の発生が減るなら仮説は正しい」


そして、ほんのわずかに苦しげな声で呟く。


「……あの少女には、もう一週間耐えてもらう」


そのまま、レイは部屋を後にした。


残されたアルヴェインは、閉じられた扉を見つめる。


「……本当に、それだけで済めばいいのですが」

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