13
部屋は静かだった。
リアはゆっくりと目を開けると、何か柔らかいものが額に触れていた。
「……パパ?」
掠れた声が漏れる。
優しく頭を撫でる感触がした。
昔、熱を出した時に父がよくしてくれたものと似ている。
だが次第に意識がはっきりしていく。
家ではない天井
王宮特有の装飾
そして視界の端に映った黒髪
「……で、殿下!?」
リアは飛び起き、とっさに布を掴んだ
自分が寝間着姿だと気づいたからだ。
レイは一瞬だけ目を丸くしたあと、小さく笑った。
「……父親ではなくて悪かったな」
「ち、違……っ」
リアの顔が真っ赤になる。
余計に恥ずかしい。
布をぎゅっと抱え込みながら視線を逸らした。
そんな様子を見ながら、レイはどこか穏やかな顔をしていた。
以前のような、王太子としての冷たい圧迫感が薄い。
「体調は?」
問われ、リアは反射的に答える。
「だ、大丈夫です」
レイは少しだけ沈黙した。
そして静かに口を開く。
「少しでも不調があるなら、我慢するな」
リアは目を瞬かせる。
「“大丈夫”で片付けるな」
その声は厳しいが、優しさを感じた。
(心配している?)
リアは少し戸惑う。
この王太子は、もっと冷たい人だと思っていた。
自分の力を利用するためだけに近づいているのだと。
けれど違う、彼は確かに“リア自身”を見ていた。
そう気づいた瞬間、胸の奥が少しだけむず痒い。
リアは小さく視線を落とす。
「……少々、身体がだるいです」
「あと……なんとなく頭痛のような……」
レイはふっと笑う。
その表情は、王宮で見てきた誰よりも自然だった。
「なら今のお前は絶対安静だ」
「休んでいろ」
そう言って、また頭を撫でる。
優しい手だった。
リアは胸の中が落ち着かなかった。
レイは立ち上がり扉へ向かう、その背中をリアはぼんやりと見つめた。
そして扉が閉まったあと、布を顔まで引き上げる。
「……っ」
顔が熱い。
理由が分からない。
ただ、王宮へ来てから初めて少し安心した気がした。
その頃、王宮の廊下では、アルヴェインが静かに待っていた。
レイが部屋から出てくる。
その顔を見て、アルヴェインは小さく目を細めた。
「……随分と気にかけておられますね」
レイは歩みを止めない。
「保護対象だ」
淡々と返答する。
だが、アルヴェインは長い付き合いだった。
(だから分かる、それだけではない)
「殿下、忠告を」
静かな声で言う。
レイの足が止まる
アルヴェインは続けた。
「平民の少女です」
「今は救世主として扱われていますが、それは“必要だから”です」
「状況が変われば、立場も簡単に変わる」
「……何が言いたい」
「あまり入れ込みすぎないほうがいい」
アルヴェインは真っ直ぐ告げる。
「殿下が思っている以上に周りは厳しいでしょう。」
廊下に沈黙が落ちる。
レイはしばらく何も言わなかった。
やがて静かに視線を伏せる。
「……分かっている」
だがその声は、どこか苦しかった。
アルヴェインは気づく。
レイ自身、もう止められなくなり始めていることに。




