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幕間 ルシナス①

レイが連れてきた不思議な女の子は、幼い頃に王宮を抜け出したあの日、霧の中で出会った少女だった。


朧げだった記憶が、静かに鮮明さを取り戻していく。


(また、会えた…今度は俺が)


あの時、かけてくれた言葉だけが、消えることなく心に残っていた。


『……ここにいていいよ』


そんなふうに声をかけてくれる者は、今までいなかった。


見知らぬ少女の言葉だったが、自分が存在していてもいいのだと…そう思えた。


今度は助けられる側ではなく、いつか誰かを助ける側になりたいと帰還後は剣術や魔術の鍛錬に励んだ。


両親は自分に関心を示さず、家出をしたことよりもレイに迷惑をかけたことを咎めた。


それでも、本気で心配し自分を探してくれていた兄と、見知らぬ少女の言葉に救われ、前を向くことができた。


なのに今、少女は自分ではなくレイの隣にいる。


あの冷酷で感情の読めないレイが、少女の緊張を和らげるように言葉をかけていた。


その光景は、意外だった。


「……可愛いね」


すべてを胸の内に隠したまま軽口を叩くと、レイの視線がわずかに鋭くなった。


(ああ…なるほどね)


レイも少女のどこか掴みどころのない雰囲気に、自分でも気づかぬうちに惹かれているのだろう。


最初に出会ったのは俺なのに、なぜか遠い存在のように感じられた。


翌朝は廊下で待ち構え、霧を消しに向かう少女に声をかけた。


「おはよ」


待っていたことを悟られないように、怖がらせないようにと、明るい声を意識したつもりだった。


少女の肩が小さく跳ねる、驚かせてしまったようだ。


「…あ、おはようございます」


少女は消え入りそうな声で返事をした。


「無理はするなよ」


そう言って、無意識のうちに頭を撫でていた。


少女は呆然とし、言葉を失っている。


(あー…やってしまった)


そのまま、軽く手を振って立ち去った。


その日から、自然と毎日会いに行くようになっていた。


数日もすれば、少女も以前ほど緊張せずに話してくれるようになった。


「リア大丈夫か?」


疲れた様子で帰ってきた少女に、声をかけた。


「ルシナス様、大丈夫です」


そう言って微笑む少女に、胸が締めつけられる。


(彼女が逃げたいと願うなら、国を敵に回してでも手を貸すのに)


少女の視線の先にいるのが、自分ではなくレイだという事実に、胸の内に苦い感情が滲む。


それでも、その視線がいつか自分へ向くことを願い、声をかけ続けた。


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