第二章〈晴輝〉三話
六月三十日、『Revealize』の活動第一回を終えて天花寺と凰牙が家を去る。
「じゃあな、今からでも遅くないから考え直したり相談したいこととかあれば言えよ。」
「すまない、ありがとう」
「何か分かったらすぐ連絡してね。期待してる」
どうせ何も掴めないだろうけどと言ったかんじの意図が含まれた言葉を天花寺に投げつけられ玄関の扉が閉められた。晴輝は扉の前で数秒立ち尽くした。
昼の二時から三時半くらいまでの活動であったが妹の死に関する怒涛の一週間と同等の疲労を感じられた。天花寺夕妃、本当に面倒なヤツだ。それに凰牙にはかなり申し訳ないと思っている。晴輝の為を思って計画を止めろと言ってくれたのにそれは無視し、更に凰牙の良心を利用して計画に巻き込んでしまっているのだ。その罪悪感もあり気分はどん底だった。先程までは幼稚園児十人を同時にあやすような忙しさであったのに、急に無になり辺りには静寂が押し寄せてくる。母も今日は仕事で、その後は友達と飲みにでも行くのだろう。夕食は自分で作るよう言われた。抜け殻のような母であったからそれで少しでも回復して欲しいものだ。
『晴輝のお母さんも、まだ分からないよ』
不意に頭の中で鳴り響いた。母が犯人である可能性は、無くはない。晴輝が寝たあとで犯行を行い、そのあとは何知らぬ顔で暮らしていれば良い。だが理由が分からないし、あの抜け殻状態が演技とは思えなかった。
『晴輝も、まだ分からないよ』
俺はやってない。二重人格の方が殺したという物語もあるが、ここは物語の中でも何でもない現実だし二重人格が存在するかのような兆しはこれまで生きてきて一度も見られなかった。俺はやってないのだ。
『犯人がいればね』
妹が自殺ということなのだろうか。そうだとして理由が分からないし、第一妹は手を後ろで拘束された状態で見つかっている。それも前ならまだしも後ろでだ。結束バンドは頑張れば自力で後ろで手を拘束することは可能かもしれない。だがそんな状況で刃物を脇腹に突き立てられる訳が無い。先に刃物を脇腹に突き立ててから手を拘束したという可能性もあるが痛みを感じる人間にそんなことが出来るだろうか。それに死ぬなら出来るだけ楽に死にたいというのが人間では無いのか。それは人それぞれかもしれないが、酷く苦しみながら死にたいとは考えにくい。
ということはやはり警察関係者の仕業であるというのか。全国で発生した大規模な殺人事件が同一組織によるものだとするならば、それが警察によって引き起こされたという事になる。政府の何らかの計画に国民が巻き込まれたのか。確かに政治家は自分のことしか考えていない、金の奴隷のような印象が強く根付いていると思うが、少子高齢化が進み人口が減少し続ける現代で人口の削減を行う必要があるのか、こんなにも目立つ形で。それは考えにくい。
色々考えてみて、どれも可能性は無くはないと思う。だが決定打に欠けるし、あまり現実的でないというような印象だ。だがあるとすればこの中であると思う。天花寺がそう言っていたし、晴輝自身もそれ以外の可能性は思いつかなかった。
そういえば天花寺は妹の殺人と、全国で発生している事件についての関連性は特に言及していなかった。それはどういうことなのだろうか。なんの関係性もないのか、それともあるのか。
情報が頭の中を動き回るが、どれも確かな繋がりを持たず存在し続けた。やはり自分だけの力で何かを思いつくということは難しそうだった。
『期待してる』
最後のあのセリフに自分の無力さを痛感させられ腹が立った。何か手がかりを掴んでやりたい。妹の事件と全国で発生した事件の共通点は何だろう。もしそれがあったならば同一犯の可能性が高くなる。まず事件発生日と現場は同じだ。六月二十三日に一斉に遺体が発見されている。他に何かないだろうか。
その時気がついた。遺体を発見したのは晴輝だけでは無い。同じように遺体を発見した人がSNSに情報を上げている可能性がある。晴輝は遺体の発見者として、警察から事件の情報は捜査に大きく関わるから絶対に第三者に漏らさないようにと厳しく言われていたためそんなことはしていないが、うっかり上げてしまうような人は一定数存在すると思う。晴輝はすぐさまSNSを開いた。なんと検索すれば良いだろうか。試しに
『同時多発殺人』
と調べてみる。勝手な憶測に乗っかりこのような投稿をする人に対して言いたい事はあるが、今は言っている場合では無い。一番注目を集めやすいであろう、このワードを投稿に入れてしまう人は多いはずだ。
『犯人まだ捕まってないの怖すぎる…また同じことが起きる気がして夜も眠れない…』
▶
『怖いですよね…私は近所で事件が起きてしまってそれ以来あまり眠れていません。』
▶
『俺も同じだ。辛いですが頑張って乗り切りましょう。きっと安心して眠れる日が来ます。』
『詳しい状況あんまわからないけど集団自殺の説無いか?ここまで大規模な犯罪を起こせる組織が野放しにされているのは無さそう』
▶
『闇バイトとかなら行けるんじゃね?それなら幹部級のやつになると多くないから、捨て駒で事件を起こすことは可能だと思う』
▶
『闇バイトとかもう古すぎね。話題にはなってたけどさ。規制も強化されてるし今はちょっと難しい気がする』
『そもそも警察は曖昧な言葉しか使っていない!!関連性は不明だとか、調査を進めているとかそんなのはどうでもいいんだよ!!世間が混乱してると言うのに最初の報道から何も進展が見られない、なんとか言ったらどうなんだ。一週間も経ってるんだぞ。税金泥棒だ辞めちまえ』
▶
『ほんまにそれ。慎重になってるのか知らんけど明らかな事さえ言わない。だからこんなに混乱してんのにバカしかいないんか』
『【ガチ考察】同時多発殺人の真相を暴きます。動画は下のリンクからどうぞ!!』
▶
『見てみたけどガチコレあるかもしれん』
▶
『マジでみんな最後まで見て欲しい。鳥肌立った』
▶
『言うほどか?誰でもわかることを整理してちょっと考察つけ加えてるだけじゃね。結局断言するには証拠が足りなさそうだし』
『みんなうるさいよ暗い事件のことばっかり、そんなんじゃ日本は明るくならないよ。私の胸でも見て落ち着いて(画像添付)』
▶
『ふざけてる場合じゃねえだろ。不謹慎すぎるわマジ同じ日本人として恥ずかしい』
▶
『これだから女は…バカすぎるだろ』
▶
『その発言もやばいと思うよ。みんなで袋叩きにして楽しい?』
▶
『いや元の発言した人が百悪いだろ。叩かれて当然』
『あの事件以来物騒すぎますね…警察の皆さん叩かれたり操作妨害の殺害予告とかも来ているらしいですが頑張って欲しいです。応援することしか出来ず悔しいです。』
▶
『警察は無能』
▶
『もう誰も期待してない』
目眩がした。大荒れの南極海を一人で漂っているような感じだった。心が乱れている人が多いせいか攻撃的な投稿が多く、見ていて不快だった。攻撃的な投稿は人の感情を奮起させる、その結果投稿が伸び、更に多くの人の目に入るという負のスパイラルがあちこちで起こっている。人間の心はここまで弱いのかと思い知らされた。晴輝自身も何度か、心無い投稿に物申したくなったが今は刺激をしないのが一番良い鎮静させる方法だと自分に言い聞かせた。また、SNSがこのような状況になっているため情報を持っている人が仮に投稿をしたとしても見つけ出すのは困難のように感じた。
『期待してる』
ここで終わらせることは晴輝には出来なかった。ここで折れて全て天花寺に任せたとしたら、もし犯人にたどり着くことが出来ても最後の最後で踏みとどまってしまうような気がした。何も掴めなかったとしてもここで諦めてしまう選択肢は無い。寝るまで事件について考えるか、もしくは今と同じようにSNSの投稿を探すか、やってみるしかない。
気がつけば深夜二時となっていた。目が痛い。何度擦っただろうか、目薬も二回ほどさした。それに肩や首が重い。ずっと文字を見つめるという作業は晴輝には慣れないものだったから心身ともにボロボロだ。一日中ゲーム画面を見つめ続けることが出来る人を少し尊敬した。
午後四時前くらいからこの時間まで休まず探し続けたが、重要そうな情報はひとつも見つけられなかった。被害者の家族は情報を漏らさないようにしているらしい。少し具体的な情報を投稿している人がいたが、すぐに嘘だとわかった。その人の情報では手の拘束のことが書かれていなかったり、刃物が突き立てられている場所が妹の件とは全く違っていたりなど明らかに異なる事件について述べていた。恐らく単なる想像か、以前発生した類似事件の詳細を述べただけであろう。それに情報が多すぎるというのもあると思う。もしかしたら有力な情報があったかもしれないが見つけ出すのは厳しそうだ。
情報は掴めなかったが、今日を最後までやり切れた事について自信を持つことが出来たから後悔はない。作業を終わろうとSNSに再び目を向ける。最後に検索したワードは『六月二十三日』であった。最後の方は検索ワードのネタ切れであまり事件に繋がりそうなワードを選ぶことが出来なかった。このワードも十分ほど探して見たが特に重要そうな投稿は発見できなかった。最後に二、三回ほど文字をスクロールする。
『今日六月二十三日は私の誕生日です!!沢山祝って貰いました。二十五歳も一年頑張ります!!!』
『あの事件が起こったのって確か六月二十三日だよね?前日に偶然友達と朝まで飲んでたからマジでよかった…』
『本日六月二十三日は沖縄慰霊の日です。この日は、第二次世界大戦中の沖縄戦で亡くなったすべての人々を慰霊し、平和への祈りを捧げる日とされています。全国の皆さんで一緒に黙祷を捧げましょう』
『六月二十三日』
『六月二十三日に握手会を開催します!!予約はこちらから↓↓』
何か心を引かれる投稿があった。
『六月二十三日』
日付だけを投稿したものでありイイネは一つも付いていないが、少し気になる。投稿されたのが六月十六日であるのだ。何故一週間前に、この日付を投稿しているのだろう。
投稿主のアカウントを見に行くと、フォロワーはゼロ人であり、投稿は二つのみであった。一つは『六月二十三日』であり、そしてもう一つは
『七月三日』
時刻は二時三分、日付は七月一日に変わっていた。そしてこの投稿がされたのは七月三日のちょうど一週間前の六月二十六日であった。一週間前の日付の投稿と六月二十三日に起こった事件。関係があるように感じてしまった。これは事件の予告なのではないか?だとすればおよそ一週間後の七月三日にも同様の事件が発生してしまう。ただの悪ふざけかもしれない。ただ今の晴輝にはこれが偶然であるとはどうしても思えなかった。リミットは今日を入れて二日しかない。晴輝はこの投稿についてすぐさま天花寺に連絡をした。焦りと嬉しさの混ざったような、不思議な感覚だった。しかし僅かながら嬉しさや楽しさの感情が勝っているのを確かに感じた。




