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017 バドガールがバトミントン

 ディスプレイに映る銀髪魔女のスルガは、グラスの赤ワインを口に含んだ。


 (うん、コス的には正しい。)

 とその姿を見てとった私は、

「そうだな。今日は仕事も定時ちょいで上がったこともあり、残業してやろう。今宵の御腐酒おふざけは、精神科医サイトウとして話をしよう。」

と言い、ハイヒールの素足を組み直した。



 そこから、私はスルガに、コウを初診してから、昨晩の夢中むちゅうの怪異とのフルダイブ戦を経て、今日のコウの再診に至るまでの経緯をかいつまんで話した。そして、リアリテスの治験準備のことも。

 

 私が一通り話し終えるまで、赤のグラスを片手に静かに話を聞いていたスルガは、

 「まぁ、仮想現実支援機器リアリティ・クリエイターだというリアリテスが、人の脳におかしなことをしそうな気は、前に聞いたときからしていたよ。治験前のリアリテスは、まさにサイトウのおもちゃだな。」

 と言った。

 

 「おもちゃではなく、おもちゃじみたゲームやおもちゃじゃないゲームに耽溺アディクトしちゃった依存症の患者さんが、社会に再参入するための現実感の構築を支援する機器なんだけどね。」

 と、私は気弱げに笑う。

 

 そして、

 「よし、今の私の内面の状態を、バトミントンするバドガールだとして説明してやろう。」

 と言う。

 

 スルガは、

 「そんなことも、あったなぁ。」

 と苦笑いした。

 

 そう、私は腐立医大に通っていた大学2年生の冬に、大阪のキタでバドガールの週末アルバイトをしたことがあった。人生はじめてのお金をもらうお仕事だった。スルガには「引きこもり腐女子がまた思い切ったことを。」とわらわれたが、お部屋系女子であるだけに私の肌は白く、手足は伸び切っていたけれど幼な顔であった私。キタのおにいさん、おっちゃんたちは、皆、(おねえさん、めっちゃセクシーですやん。)と思っていたはず、多分。まだ完全体のボン・キュッ・ボンではなかったため、胸には厚めのパッドを入れていたけれども、日本人女子の平均よりは少しばかり背が高い私のバドガール姿はけっこうさまになっていたのだった。

 密かに磨いていたコスプレ力でわずかばかりのお給料をいただくようになった私は、大学3年生になった頃に人生初の大モテ期を迎え、そして、ボン・キュッ・ボンは彼らのもの、という三角関係に陥るのだった。まぁ、完全にうぶだった私が、いきなり陥ってしまった三角関係。精神衛生には、よろしくない。その関係はほどなく破綻してしまい、大学病院の先生に精神安定剤トランキライザーを処方していただくほどに、私の精神状態は乱れてしまった。

 腐女子仲間のスルガたちにもけっこうな迷惑をかけながら、大学を留年した私。そんな中で、私は、バドガールバイトの中で奇跡的に腐女子要素を持っていた後輩の子に精神面メンタルを献身的にサポートしてもらい、そして、彼女とお付き合いすることになった。そう、腐立医大を留年中の私には、人生初のステディな彼女ができたのである(彼女は同じ医療業界の人なので仮名のUさんとしておこう)。

 

 かくして、Uさんとお手々をつないで精神面メンタルを立て直すことができた私。夏休みに久しぶりに東京に帰省した私に、薬学部の大学4年生となっていたスルガは、さんざん迷惑をかけた罰ゲームをするから、と、バドガール水着を持参するよう命じたのだった。

 私は、バドガール水着(注、仕事着ではなく、バドガールコスプレ用のもの)を持参し、東京オリンピック会場跡地にオープンした湾岸のスパ併設型のプールに向かったのだった。

 大笑いするスルガたち腐女子を前に、私は、バドガール水着でいくつもの立ち姿ポーズを決めさせられた後に、かつてのバイトで鍛えたモンローウォーク風の歩きで臀部でんぶふるってみせた。ぷりんぷりん。

 そして、ちょっとだけ泳いだ後に、バトミントン部出身者2名(うち1人はスルガ)を擁する腐女子たちは、離れにあるバトミントン遊技場に向かったのだった。

 

 ☆

 

 「仮に、バドガール水着姿の私がバトミントン部出身だとしよう。その時、私は、コートで初心者女子2人を相手にする。」

 と、あの時にした、バトミントン部出身者1名対腐女子2名の対戦を引き合いに出す。

 

 「サイトウは、今でもバドガール水着を部屋着にしてそうだものな。」

 と笑う。

 (いや、さすがにもう着ないぞ。きつそうだし。まぁ、思い出の品の一つとしてクローゼットの奥にしまっているけれども。)

 

 「とにかく、バトミントンでコートを介して相手と向き合うように、精神科医である私は、基本、患者さんとは一定の距離を取って向き合う。面接時間を限定してな。今回のコウちゃんの場合は、精神年齢9歳くらいの姫王閣下ひめおうかっかと精神年齢は女子高生の生まれ変わり者のコウという二重人格者だから、私が1人で、彼女たちはダブルスとなる。今までの精神医学的面接インタビューでは、私は姫王閣下に2回、女子高生コウに1回、話をした。」

 

 私は一息ついて、シャンパングラスのハイルを少し飲んだ。

 

 「ところが、今晩に気がついたことは、私の方もいつの間にかダブルスになっていたのだ。バドガールのおねえさんの私と海パン姿のおにいさんとの男女混合ダブルスのな。」

 と、私はSSコスの上着を脱いで、ヤオイな六つ子さんコス用の海パン姿となり、ゲーミングチェアを降りて、赤いハイヒールでポーズを決めた。昨晩に引き続きオッパイぽろりんだが、地上波に流すわけではなく腐女子の旧友に見せるだけなので構わない。

 

 「用意がいいな。」と、苦笑したスルガは、

 「なんというか、新しい設定だな」

 と言う。

 

 (いや、設定ではないのだ。本当に、私の中の海パン男子は女子高生コウのことを恋い焦がれているのだ。)

 と私は思ったが、本当は私の中の萌え設定なのかもしれないので、言葉を飲み込んだ。

 

 ☆

 

 その後は、スルガと馬鹿話を続け、最後に、年明けから始まるリアリテス治験のコーディネーターにスルガを誘った。既に専門会社の若いMRさんがコーディネーターに入ってくれていたが、ゲームとゲーム症に理解のあり精神科医の処方にも詳しい薬剤師が治験チームには必要なのだった。スルガは適任者だった。

 それも酔った上のネタと捉えたスルガは、「考えとくよ。」と笑いながら、ディスプレイをオフにした。

 

 御腐酒おふざけ話として、内面のやもやしたところをスルガに話すことができた私は、少し気分が楽になっていた。

 そして、バスローブに海パン一丁のまま、炬燵おこたに戻り、ゲーミングノートPCでOUKINの魔法使い百合ゆりワールドに帰っていった。

 

 ☆

 

 早朝目覚めた私は、バスローブに海パン一丁のままの寝姿だった。炬燵こたつに海パンのお尻の半分くらいを器用に入れたまま、なぜだか足に赤いハイヒールを履き直していた。

 

 (どんなヒロインの決めポーズなんだ。)

 と、寝ぼけまなこでまたもベッドに戻ることを忘れていた深夜の私にツッコミを入れた。

 

 それにしても、カップ酒1杯とクロビールのハイルが3缶だけで、ハイヒールを履き直した記憶も残らないとは。精神科医局一の酒豪である私サイトウにとって、それは珍事であった。

 

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