016 御腐酒
私は、スルガに、
『ちょっと御腐酒しようぜぃ。』
と、いつものメッセージを送った。
☆
私の腐女子おねえさん街道も、今や七坂三十路坂を越えつつある。かつての同級生の腐女子仲間とはその手のトークをする機会は減っている。ただし、二児の母のスルガとは、今も年に何回か、お酒を片手に腐女子トークをするオフ会ならぬ、夜の御腐酒会をしている。前回は...部屋でお風呂上がりの全裸に、囚人服を来てスルガと御腐酒したからハロウィンの時,か。そうか、別に全裸になるのは、昨晩に限ったことではないな。お風呂ではいつも全裸だし。
...と、カップ酒片手に納得しかかった私だったが、いや、自宅の風呂で全裸になるのと職場の研究室で全裸になるのは、やはり違う、と思い直す。
Missing you. いや,ユウではなく、コウを思う私は、どこか平時の私とは違う...
「平時ではない。すなわち、今や戦時。」
と、呟いた私は、少しだけ残ったカップ酒をカッと飲み干すなり、冷蔵庫に向かった。
そして、こうした時の,私の勝負酒のハイルの缶をありったけ出して、炬燵の上に並べた。さらには、勝負酒の黒が映える最高級のシャンパングラスをも。
そして、勢いよく、お風呂場に向かうと、私は全裸となった。そう、全裸はお風呂場に限るのである。浴槽にお湯をはることもなく、漢らしく真冬のシャワーを浴びた私は、ボン・キュッ・ボンのボディの上にバスローブだけをはおり、ウォークイン・クローゼットにモンロー・ウォークで歩いていった。
真冬の御滝を浴びた私は、今やゲルマン魂あふれるおにいさん男子。そんなゲルマン男子の制服と言えば、全裸にSchutzStaffel風コス、SSが正装に決まっている。私は脱ぎ捨てたバスローブを一顧だにせず、かのゲルマンの軍事国家を統べる閣下にお仕えするSS風の正装を上着にまとった。
そして、下にチョイスしたのは、どこぞの五つ子さんだか六つ子さんだかの男子がお揃いで身についている海水パンツ。脇になぜだかおいてあった真っ赤なハイヒールも油断なく履いた私は、ゲーミングチェアを引きずりながら炬燵に戻った。
レンガ風の壁面に埋め込まれたディスプレイには、
「しばし待て。」
という、スルガからのそっけないメッセージが表示されていた。
脱兎のごとくシャワーと着替えを済ませたため、さきほど冷蔵庫から出し炬燵の上に置いた勝負酒はまだ冷たかった。最高級盃に勝負酒の黒々としたイチモツを波々と注ぎ、立ちポーズを決めたまま一口飲んだ私は,
「Bereit、perfekt.」と、いささか怪しげな発音なところはあろうものの、純粋なゲルマン魂を込めて呟いた。
そう、今宵の私の準備は、完全に整ったのである。
☆
そこからゲーミングPCの傍らにあった軍師用扇子を片手にした私は、ゲーミングノートPCをもう片方の手に持ち、炬燵に陣取った。そして、しばらくの間はネットワークゲームOUKINにログインし、魔法使いとなった。
御腐酒が始まるまで、私は、最近2周目の薄い本が盛り上がっている魔法使いユリキュラのキャラクターの黄色髪の方の子になりきることにしたのだ。相棒のみっくるんるんだが紫髪と共に、正義の鉄槌をOUKIN異世界の悪どもに下していくのだ。
シャンパン代わりに黒麦酒のハイルを飲むSSコスの私は、いまや...美少女の百合百合を密やかに愛するおにいさん。
暖房を強めた部屋で、私は、キャラクターを操り、百合百合な魔法戦を展開していく。
☆
アクションゲーム用に設置した壁面のスピーカーが、スルガからの着信を告げた。大画面のディスプレイがスルガの銀髪魔法使いコスを映し出す。
スルガは、開口一番、
「なんだ、サイトウ、突然に。
また、最低な話か。」
と言う。
「私の話は、最低ではないぞ。
いつだって私にとっては、私の話は最高なのだ。」
と、自己肯定的に答え、ゲーミングチェアに素足を組む。素足に赤いハイヒールな私は、どことなく煽情的ね。
そして、シャンパングラスに入ったハイルをグビリと飲んだ私を見やったスルガは、
「なんだ。今日は久々にゲルマン腐女子全開な格好だな。」
と笑う。
私は、
「姫王閣下の中の人を愛でる正装なのだ。」
と呟いていた。
スルガは苦笑し、
「ヒトラー閣下の中の人? 設定が中年臭いな。そっちの最低か。」
との突っ込む。
SSコス的には間違っていないのかもしれないが、私としては違う。
「違うのじゃ。身に異世界の姫を宿った閣下が、一度は姫を拒絶するも閣下は結局は、姫と百合百合な関係になると、という類の設定なのじゃ。」
と、朕言葉風に私は応えた。
「まったく、まったく分からん。」
と、中年魔女という設定ならばドンピシャのコスであろう銀髪魔女姿のスルガは言う。
今宵の御腐酒会は少し長くなりそうだ。




