018 リハ科チームとの合同カンファ
今日は年の瀬、晦日の12月30日。
かつては自宅にこもり気味であっていた私も、病棟をバタバタと行き来する合間を見ては、仮想現実支援機器リアリテスの研究室にひきこもっている。
未だに現役腐女子の私は、年の瀬なんてことは関係ない。病院で新年を迎える入院患者さんたちのケアとリアリテス治験準備の日々を送るのだ。ありがたいことにそれなりの超過勤務手当なんてお給料もいただけるのだけれど、どうせ何か良からぬものや良いものやらを買い込んで消えて行くのだろう。
午前は、精神科内会合だった。年内最後だけに、私のチームからの参加予定者は普段よりは少ないが、代わりに、リハビリテーション科のメンバーにも参加してもらうことになっていた。
年明けから始まるリアリテスの治験を前に、リハ科の療法士チームの皆さんには、脳機能に問題がない患者さんへの治験参加のお声がけを手伝ってもらっていた。
リアリテスの仮想現実支援機能には、ゲーム依存症患者さんの方々の現実感覚の再獲得を容易にする作用の他、日常的な諸動作を行うことが難しくなってしまっている患者さんへの動作機能の維持と再獲得を支援する作用も期待されている。
今朝はカンファの場で参加してくれる療法士の皆さんたちに、リアリテスの脳への作用機序を簡単に説明した後、ドイツの病院で実証が進められているリアリテスを活用してのリハビリテーション支援の現況を話す予定だった。
国内の他院に先がけて、この二女医大病院にリアリテスが導入されたのは、次期院長と噂されるリハビリテーション科の綾瀬先生の多大なご協力があってのことだった。また、そもそものところでは、精神科の患者さんたちの中には長期に渡り入院をしたり家にこもりがちになることを通じ、日常の生活動作に支障が出てしまっている方々も多い。作業療法士さんたちを中心に、リハ科のメンバーと、私のチームは連携して、患者さんたちをケアしていく必要がある。そんなこともあり、私はリハビリテーション科のメンバーの前ではデキる女医であろうと努めている。
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...努めてはいる、のだが、私が朝一で目を通しておく予定だった、ドイツ語で書かれた実証経過報告を読むスピードがなかなか上がらない。リアリテスの国際共同治験の申請書には、(数ヶ月だけれど)ミュンヘンの病院に勤務し治験に参加した経験があるドイツ帰りの精神科医サイトウとして紹介されている、私。当然、ドイツの治験チームはサイトウはドイツ語大丈夫だと思ってくれているの。だが、ゲルマン魂を内に秘めた私サイトウは勉強不足でドイツ語を読むのが得意ではないのである。
(あぁ、ドイツっ娘ちゃん、恐ろしい子。)
ドジっ子だが、どこのどいつか分からない魔力を秘めた、めがねっ子魔女「ドイツっ娘ちゃん」。魔法使いユリキュラの薄い本のいずれにも、そんな子は出てこないのだが、私は勝手にめがねっ子のキャラ設定を考えて現実逃避しつつ、報告書をプチっと英語に翻訳した。
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今日もカンファレンスの司会進行役は遠藤女史だった。
はじめに私のチームのメンバーから、新しい患者さんたちを簡単に紹介した後で、療法士チームから精神科の患者さんたちのケアの状況について、説明がある。
最後にレシュメに従って、ドイツの病院で実証が進められているリアリテスを活用してのリハビリテーション支援の現況を私が説明した。
実証を進めるドイツのチームが現状で肯定的と考えているのは、立ち上がる、起き上がる、歩く、といった身体の基本動作のリハビリテーション支援だ。いわゆる理学療法士さんたちの領域にあたる。他方で、他のリハビリテーション職領域の患者さんの動作獲得支援にも取り組んでいくことをドイツのチームは視野に入れている、そういったことを5分ほどで参加者に伝え、カンファレンスはお開きとなった。
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年の瀬の今日は外来の予約もなく、業務は入院患者さんたちとの面談が中心となる予定だった。早めに上がって仮眠した後、深夜にカナダの研究者とリアリテスAIの横断結合実験について話し合う予定を入れた。
格子窓の外の風景を横目に、病棟の廊下を歩きながら、
(研究者といっても、研究者のたまごっちな17歳の美少女の葵ちゃんなんだけどね。おい、私の中の海パンおにいさん、葵をあんま見ちゃダメだからね。あなたはコウだけにしておきなさい。)
と私は、勝手に海パン男子と決めつけた私の別人格もどきに警告を出しておいた。
葵が《リトル》と名付けている新技術。それは私の内面に大きな変化をもたらすと共に、後には、人類の仮想世界に大きなインパクトをもたらすことになるのだった。
以後、しばらくはリトルとアイカクの世界の方で話が進みます。
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