013 朕、改め、美少女コウへの治療的介入方針
既に深夜1時である。1時間近く前に仮想現実支援機器リアリテスの最終試験を終え、既に脱力気味である私サイトウだったが、
『みかしー・ミコット・バンド』なるなかなか良さげなメイドカフェの経営者であるという、臨床心理士のミカ氏の言葉に一段とすっかりと目が醒めていた。
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ここで、もう少し良さげなメイドカフェのことをお聞きしたい私ではあったが、ここで話題を変えた。臨床心理士のみかちゃんとは明日朝に、中学1年生の入院患者さんコウの治療的介入方針の打ち合わせをするはずだったのだが、お互いにこんな状態で起きているからには、朝の打ち合わせは流れてしまう可能性がある。
私は、仮想現実支援機器リアリテスの試験の件を含め、コウとメイドのイープと執事の山田に関する、一切合切をみかちゃんに話した。境界例さんの支援を専門として、とてもタフガイな聞き手であるミカ氏は私があまりまとまりなく話の全てのちょっとだけウルウルした目元のまま、全て聞いてくれた。まったく、私と3歳ほどしか変わらない1999年生まれ、すなわち三十路坂に差し掛かっているミカ氏のくせに、なんで、そんなに百合百合した気分が盛り上がりそうなホンワカさんなんだよ、と。
その時、私はミカ氏のことではなく、精神科医サイトウハルヒ、つまり自分に関するある仮説を思い起こしたのであるが、医療者としての職務を優先し、ミカ氏とそのまま患者さんコウの話を続けた。
結果、私がコウへの治療方針として一致したのは以下の2点である。
1、コウが自殺企図等につながりかちな境界例の気質を有しているかはまだ分からないが、少なくとも短期入院である冬休みの間に境界例的な症状が現れる可能性は低いであろうこと。なぜなら、そもそも12歳という年代は、発達段階的に境界例を発症するには早すぎるから。従って、コウが境界例的な症状を呈するかどうか注意深く観察は続けるにしても、他の治療的介入を優先して良い。
2,朕と名乗ったコウの別人格のひとつについては、その凝った設定からして、やはりゲーム依存症とPTSDか何かを併発しての多重人格症状であるものと推測される。礼文家とコウとのいささか例外的な関係を鑑みるに、コウに近しい者との連携を密にしながら、治療的介入戦略を練り上げていく。仮想現実支援機器リアリテスの国際共同治験へのコウの参加については、隔日のペースでコウを見舞う予定のイープとも話し合いを持ちながら年明けまでに方針を固める。
両者とも、私にとっては穏当と思われる。幸い、コウのご実家、礼文家は余裕がありそうである。治療に多少お金と時間がかかっなも、コウをサポートする体力が礼文家にはあるであろう。
そう結論づけ、明日のコウの件については満足した私は、ミカ氏を別室へと誘った。
せっかくだから、今晩は私の研究室に置いてあるソファベットかどこかで、ミカ氏とちょっぴり百合百合っぽくお休みしよう。私、精神科医サイトウハルヒは己の欲望に若干忠実にそう考えたのである。うん、これは上司によるセクハラとかパワハラではないんだよ。だって、百合百合な私はソフトタッチするだけだしぃ。と、軽く気弱げな(えへへ)笑いを心の中で浮かべる私なのだった。そう、先程、夢の中のイープの嗤いにお漏らししちゃった私には、ミカ氏の癒やしが必要なんだよ。分かってね、ミカ氏。私、ほんとに怖かったんだから。
そんな百合百合モードの私とミカ氏が選んだのは、先程まで私サイトウハルヒが居た実験室だった。そこに設置された仮想現実支援機器リアリテスのべットは結構広くて、女子二人が抱き合いながら眠る分には全然問題がないくらいなのだ。そう、いくらワタシがボン・キュッ・ボンだからといってそれは、横方向にボン・キュッ・ボンというわけではなく普通にセクシーおねえさん系に縦方向にボン・キュッ・ボンであるのだからして、抱き合って眠る時にはさほど床面積を必要しないのである。
もちろん、抱き合って、というのが最大のポイントである。上司である私サイトウハルヒは、部下の臨床心理士ミカ氏とこれまで抱き合って眠ったことはない。当然である。上司と部下との関係は、本来、そのようなものではないのであるから。しかし、本日のミカ氏はどうやらそんな流れを当然のこととしているようなのである。むろん、精神科医である前に一人の腐女子である私サイトウハルヒにそのことに異存はない。いや、むしろ大歓迎である。
しかし、そんな百合百合ばっちこーい的な展開を前に、私は別の世界線のことを考えはじめていた。そう、私、サイトウハルヒの中の人は、他の世界線でも女子なのだろうか、と。この2日ほどの私の展開は正直少しおかしい。なんていうか、一人の腐女子の域を逸脱した知識量をサイトウハルヒは有している気がするのだ。それは電撃姫王のミコットちゃんのことをいろいろ思った時のアプローチのちょっとした方向性の違いからである。男子中高生からも、ガチ腐女子勢からも萌えアプローチが可能な軌跡の作品ミコットちゃんシリーズ。しかし、やはり男子的なアプローチと腐女子的なアプローチは本来異なるものなのだ。先程の私サイトウハルヒのアプローチは何か男子臭がしたぞ。この臭いはどこから...もしや、別の世界線から。
そう思った私は、午前3時、除々に訪れる睡魔を前にミカ氏に尋ねた。
「あのね、ミカ氏。別の世界線ってあると思う?」
それまでとはかなり異なる表情で、ミカ氏は
「それは、禁則事項です。」
と言い、テヘペロ笑いを浮かべた。
別の世界線のことを否定されなかった私サイトウハルヒは、ミカ氏と二人、ソフトに抱き合ったままお休みし。そして、夢の中でサイトウハルヒはミカ氏あるいはミックルンルンとソフトに結ばれた。ミカ氏あるいはミックルンルンは、ご想像どおり、ボン・キュッ・ボンな私の中年間近オッパイより大きくてふわふわで素敵だったよ。たとえ、私サイトウハルヒが別の世界線では男子だったとしても、私のことだ、きっと801しまくっているのだ。生涯愛する女子はただ一人。そう、ミカ氏あるいはミックルンルンなのさ。夢の中でも白衣姿なサイトウハルヒはそういって厨二ポーズを決めた。
翌朝、ミカ氏より早くにめざめた私は、あくまでソフトタッチでミカ氏の素敵な胸部をさわりつつ、呟いたのだった。
「あれ、私の世界線には絶対に欠かせないはずの貧乳はステータスな戦艦長門はいずこに?」
と。
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さて、午前6時半。既に目覚めてスイッチも入った。
今日の昼間の私サイトウハルヒも、患者さんへの愛をもって全力疾走だぜぃ。
「いくぜ、いくぜ、いくぜぃ。」と私は12歳のコウの病室の方を向いて呟くのだった。
そして、心の中では
(あ、美少女コウ君。未だ12歳の君はもちろん、まだ微乳ちゃんなのだけれど、サイトウおねえさんはちゃんと精神科医としてわきまえているから、君のことを腐女子サイトウのステータスとかはもちろん言わないから、安心してね。)
と言いながら。そう、コウ君、君は私の大切な後輩ちゃんなのだ。年代的には私サイトウハルヒの娘でもおかしくないんだけど、さ。




