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012 ミカ氏、ミカ氏ぃ

 部屋を出た時は午前0時半だった。

 私は身体は最後の方のあのせいで、疲れてはいたが、眠くはなかった。何しろ、2時間以上も横たわり、おそらくはそのうち1時間半くらいは寝ていたのだ。必要に応じての夜勤も未だに全然大丈夫な私は、ふだんから1時間半くらい眠れれば、けっこう回復できる。

 

 私個人の研究室に荷物を置いた私は、ちょっとお茶でも飲もうと思い、休憩室へと向かった。話し相手が欲しかったのである。その休憩室には、これ以上はない話し相手がいてくれた。境界例ボーダーを専門とする臨床心理士のミカちゃんだ。

 深夜モードでこっそりと背後からミカちゃんに近づいた私は、

 「ミカ氏、ミカ氏ぃ」

 とアキバ風に声をかける。


 「サイトウ先生。」

 昼夜問わず、誠実そうな返事をしたミカちゃんが振り返った。

 

 深夜なので、白衣のまま、私は厨二病的なポーズを決めて、ミカちゃんの振り返りを迎えた。当然の事である。

 まったくもって、夜のミカ氏は、なんだかチョッビリだけぽわんとしていて、β世界線の、かの、まゆしぃママみたいなのだった。この、ふだんはポワン系なミカ氏でなければ、いろいろと振り回してくださります境界例ボーダーの患者さんとの長時間の面談は務まらないだろう。症例についてのレポートの方はポワンとしてなくてしっかりしているという、もうなんていうか、医療者にとってこうあってほしいというパーフェクトなまゆしぃだよ、ミカ氏は。

 もう、こんなときには古の厨二病ボーズを決めずにはいられないのである。中学時代は細身だった私は、ボン・キュッ・ボンになってしまって久しいので体型はあまり似ていないが、どちらかというと私は、α世界線のクリスティーヌ系だ。そう、30代も半ばをすぎても厨二病全開な私も、かの秋葉原を舞台とした世界線ものとなんだかんだと相性が良いのだ。私はただの黒髪だったが、その髪型としてはクリスティーヌに結構近いのだぞ。


 

 さて、妄想はここまでにして、ミカ氏とお話だ。と思い、ミカ氏の脇に座ろうした瞬間に私は気がついた。サディスティック・ミカ子と近しい名前の子がこんな近くにいたことに。座りながら、私は思う。そもそも、この私の 「ミカ氏、ミカ氏ぃ」という呼び方はどちらかというと、主人公の相棒にしてでっぷりアキバ系の彼である。実はイケメンかもという噂のある彼だったが、とにかくもデップリとしているのは事実である。そう、サディスティック・ミカ子の名を冠したお店でメイド服姿のSM嬢に、お尻を叩かれて恍惚こうこつとするのが似合いそうな、見事な体型のデップリなのである。別にイープとそんな話をした記憶はないが、イープとその他5名の戦闘メイドコスをした皆さんが、お店でお尻をムチ打つ対象者の少なくとも過半数は小太りかデップリなはずだと私は思っていた。そして、比較的、症例ケース数が少ない境界例ボーダーを専門とする臨床心理士のミカちゃんは、我々のチームのいわばスーパーサブ的存在。お仕事が良くお出来になるので存在感はたっぷりなのだが、ともあれ週2日の非常勤なのだ。残りの5日間を、どこでどう過ごしているのかを私は知らない。

 

 席につき、サディスティック・ミカ子という名のお店を知らないか、と聞こうとした私だったが、

 (違う!)

 と心の声が伝えてきた。私の基底意識エスは先程までのリアリテス試験によって一部はなお超覚醒状態なのかもしれない。

 

 そう、その刹那に概ねのところが見えてきた。デップリな彼が行く女の子のの店はたった一つしかないのだ。それに、ミカ氏からはあのメイドのイープの嗤いような、恐ろしいものを感じたことはない。24時間、ただの人間という気がするのだ。

 

 先程は、リアリテスのところで(ただの人間には興味ありません。)とか言っちゃってごめんね、私は異世界人よりただの人間の方が好きよ、だって私は人間たちにお仕えしている精神科医サイトウなのですものと、私は心の中で呟きながら、

 「ねぇ、ミカ氏ぃ。ミカって名を冠したメイドカフェって知らない?」

 と聞いた。

 

 ミカちゃんは,

 「知ってるよ。『みかしー・ミコット・バンド』ね。」

 と即答した。

 

 なんじゃ、そのまんますぎるそのお店のお名前は。「みかしー」は、まぁさておいて、「ミコット」と言えば、とある、あのシリーズのスピンオフ作としてこの冬イチオシのweb連載漫画の主人公様ではないですかー! 最近創刊されたばかりのweb雑誌『電撃姫王』は、とあるお嬢様中学校の雰囲気を引き継ぎつつも、さらに百合百合ゆりゆりっとした世界感を実現しつつも男子中高生需要も取り込みつつあるという、近年まれにみる奇跡のような作品なのだ。ちなみに、私が中学でサイトウハルヒの名を恥じていた時に放映されていた、古のどこぞの軽音楽部は一部の男子中高生のおかずとしては最高だったのだろうけど、少なくとも私の周りの女子中高生たちには全然響かなかったのだからね。そこんとこ忘れないように。かつての男子中高生改め、私と同年代のおっさんたちよ。と私の心の中のハルヒがビシッとおっさんたちを指差した。といっても、私の中のハルヒはただの中年間近な精神科医にして腐女子のサイトウハルヒなのだけれど。

 そんなことはさておき、とにかく、まずはミコットのことだ。ミコットたちは、学園都市とは別の世界線を生きている。簡単に言えば、あの右手を持ったツンツン頭がいない世界線だ。とはいえ、可能性として、ツンツン頭がいる世界線との関係が閉ざされているわけではない。かつての名作とあるシリーズを全巻1文字残らず読んだ者には分かる伏線がミコットのなかで見事に回収されていっているのだ。まだ連載が開始されたばかりであるため、ここから先は私の推測となるのだが、巫女姿の電撃姫のミコットがテレポーターと心理掌握者のどちらと結ばれるかということは、学園都市の存亡に関わる重要時である。そう、とある世界の方では、ビリビリちゃんは心理掌握者の方と合体し超絶電撃攻撃を身につけ学園都市に叛旗はんきをひるがえしたのだが、巫女のミコットちゃんの方は学園としてでは裏方の黒子役に徹してきたテレポータと百合百合ゆりゆりに合体し、すんごい必殺技を開発するかもしれないのだ。

 精神医学は同性愛的機序を必要とする。801に青春を捧げた私は、高いレベルの百合百合ゆりゆりだって深く信奉しているのだ。ただ、両者は混ぜるな危険というだけのことである。

 ここまでのことを軽く考えるまでに、この現実世界で要した時間は2秒ほどであろうか。私はミカに質問を返す。

 「ミコットって、電撃姫王のこの冬のキラーコンテンツよね?思い切った名前つけたお店よねー。」

 と。

 

 ミカちゃんは、

 「そうなのよ。私の会社と、電撃姫王の版元との合弁メイドカフェなのよ。」

 と衝撃のお答えをなされた。

 

 「ええっ、ミカ氏。それって...」

 百合百合ゆりゆり業界(?)的に衝撃の展開に、さしもの私も口ごもった。

 

 だが、しかし。ありえない話ではない。何しろ、ミカ氏は臨床心理士になる前に学部課程の心理学部で優等生だった統計数理の知識を活かし、webマーケ&アドテク業界でもかなり活躍していたと聞いている。その話どおりなら、エセリケジョの私なんかよりはるかに数学がお出来になることであろう。そんなミカ氏がwebマーケ系の会社を経営し、どちらかというとwebに未だにうとい、出版社とコラボするといった展開はありえないわけではないだろう。

 

 口ごもる私を前に、ミカ氏は、

 「えへへ、まゆしぃ、ね。メイド喫茶を経営してwebマーケ支援している会社の社長さんでもあるのね。」

 と、さらっと、私の思いを全て織り込み済のようなことを一人称をとりかえて言う。

 

 おそるべし、ミカ氏ぃ。

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