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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第六章 「真夏の海と輪廻の華《ファイアーワークス》」
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チャプター 8-8

前回のあらすじ

→島の探索中、ヤバそうなところに辿り着いた。



「…………」

「あの、ケン?」

「…………」

反応がない。まるで……

「……ん? 呼んだか?」

「え? ええ。 あの……」

なんだ……生きてるんじゃない……

「……いつまで歩くのかしら?」

かれこれ1時間ほど歩いてる気がするけど、一向にケンの足が止まる気配がしない。

どこへ向かうかも聞いてないし。

「島を1周するまでだ」

「……冗談でしょ?」

本気で計測するつもりらしい。

「ひゃー。 じゃあ、まだまだ歩かないとだね」

「なに呑気なこと言ってんのよ……」

正直、腕が日に焼けて痛くなってきていた。

ここまでなにもないと、逆に退屈して来るというのもある。

「……ていうか、なんの機器も用意してないみたいだけど、ちゃんと測れてるわけ?」

「ああ。 もちろんだ」

間髪入れずに答えると、ケンはあたしの背中に手を回した。

「ひぅっ!?」

「ほら、これだ」

「え……?」

ケンが手に持っていたのは、小さな機械。

おそらく、何かの受信機だろう。

「……いつの間に付けてたの?」

「今夜のことを話した時さ」

ああ……食堂で耳打ちされた時ね……

「ほら、ちゃんと測れてるだろ?」

もう片方の手で携帯端末を取り出すと、画面を見せてきた。

そこには、ちゃんと今まで歩いてきた距離が示されていた。

「……結構歩いてるわね……」

「もうそろそろ半分だから、頑張ってくれ」

「はーい」

ヒヨの機嫌が良い気がする。何かあったのかな……

……それにしても……

「……モンスターはどこに行ったのよ……」

「……そんなに、モンスターと戦いたいの?」

ヒヨに訝しげな目を向けられた。

「い、いえ。 そういうわけじゃないんだけど……」

……そうじゃない、そうじゃなくて……

「……不安なのよ。 さっきまであれだけの数確認できたのに、いざ行ってみればいませんでしたなんて、嫌な予感しかしないのよ」

「んー……」

「…………」

2人が不意に立ち止まって右手の森を見た。

つられてそちらの方を見ると、

「……確かに、ヤバそうだな」

ケンがポツリと呟いた。

木々の間からこちらを見る何かが見えた。

その目が、2つ4つ8つ……と増えていく。

その光景に、ふと頭をよぎったのは、ホラー映画のワンシーン。

「…………」

「ひ、ヒヨっ!?」

フラッと倒れそうになるヒヨを、慌てて抱きかかえた。

「ちっ……頼んだぞ、ローザ! 日陰に避難させたらすぐに合流する!」

「え、ええ!?」

ケンはあたしからヒヨを奪うように抱えると、そのまま走って行ってしまった。

「うそ……でしょ……?」

仕方なく、視線を戻す。

こちらを見る目はさらに数を増やしていた。

……うぅ……気味が悪いわ……

あたしは背中から大剣を抜くと、クリスタルをセットした。

「……見ているだけでいいのかしら? 来ないというのなら……」

そして、振りかぶって、思い切り叫んだ。

「こっちから行くわよっ!! ≪ブラスト≫!!」

瞬間、沸き起こる暴風。

目の前の障害物を、そこにいたモンスターごと吹き飛ばしていく。

「ヒヨの元には、行かせないわよ!!」




*********


*********



「ど……どないするんや、隊長さん……?」

「俺に聞かれても……」

いつの間にかあたりは真っ暗で、蛍の様にふわふわと飛び回る光が、ぼんやりとあたりを照らしている。

そんな中、見たことのないモンスターたちが、俺たちをじっと見ていた。

……あれ……?

「……トル、聞こえるか?」

ディスプレイが乱れ、映っていたマップが突然消えてしまった。

「ポル、トル、返事をしてくれ……」

慌てて2人を呼んでみるも、うんともすんとも言わない。

代わりに、混線しているような雑音が響いている。

「一応、敵意はなさそうやけど……」

「…………」

言われて正面に向き直る。

数も種類も圧倒されるほどだが、確かにいつもと違って敵意が感じられない。

どちらかといえば……

「えっと……」

こうしていても仕方ないので、ダメ元で話しかけてみた。

すると、サーチャーの雑音がさらに大きくなり……

『……聞こえるか?』

ノイズ混じりに聞こえてきたその声は、ポルやトルのものでも、ましてやステラのものでもなかった。

「え……?」

『……聞こえるのだな?』

横に並んでいたゴーレムと思われるモンスターが、左右に分かれた。

まるで道を開けるかのように。

『……こんなことは初めてじゃ』

……いや、俺もだよ……

なんて無粋なセリフは言わずに飲み込む。

『ほれ、もっとこっちへ来んか』

ステラの方を見る。

目が合うと、大丈夫と言う様に頷いてくれた。

俺はそれに頷き返し、歩を進める。

ゴーレムに見守られる中、目に見えたのは……一羽のフクロウ。

立派な髭を生やし、木でできた杖を持っている。

この感じからして、かなり偉いやつっぽい。

『……おぬし、≪クリストロン≫を知っているか?』

「≪クリストロン≫?」

なんだよ、それ。 クリスタルの出来損ないか……?

『……いや、お主はわしらと同類じゃ。 見れば分かる』

「は、はぁ……?」

『せっかくじゃ、この際教えておいてやろう。 わしらのことを理解してもらうためにもな』

フォッフォッフォ、と笑ったそのフクロウは、杖で地面を叩いた。

『そこの女子おなごにも伝わるように、少しだけわしの能力を使わさせてもらうぞい』

柔らかな光が、フクロウを包んだ。

モンスターが能力を使うときに見られる現象に近い……というか、同じだろう。

『……どうじゃ? 聞こえるかの?』

「わっ、な、なんや!?」

突然頭に直接響いてきたフクロウの声。

リリのESP(テレパシー)と同じものだろうか。

「落ち着け、ステラ。 このフクロウが何か言いたいことがあるらしい」

「え? わ、わかった……」

ステラも超常現象には慣れている方だったらしく、すぐに冷静さを取り戻したようだ。

『フクロウフクロウと言うでない。 わしは≪クリストロン・マスター≫じゃ』

「クリストロン・マスター? 聞いたこと無いぞ……」

「ウチも初耳やで」

『それもそのはずじゃ。 わしらはこの島からしばらく出ておらんからの。 ≪クリスタリア≫のやつらが口を滑らさん限り、存在すら知られないじゃろうし』

「つまり、この島にしか≪クリストロン≫ってのはいないってことか?」

『いや、存在自体はしておったじゃろうが、認知されておらんかっただけじゃろう。 お主らがそうであるようにな』

「……あの、隊長さん。 クリストロンって……?」

「それを俺も今から聞こうとしていたんだよ」

『では、それを先にハッキリさせておこうかの』

「よ、よろしくお願いします……」

そんなに畏まらなくても……

『……クリストロンと呼ばれる存在は、クリスタルモンスターどもと違い、実体を媒介にして生まれるものじゃ。 だからこそ、死んだら死体が残ってしまうんじゃ』

「……今の話が本当だとすると、モンスターが消えるのは、クリスタルで体を構成しているから……ってことか……?」

『そうなるの。 だからこそ、実際には存在し得ない存在も、存在出来てしまうわけじゃな』

「……えっと、もう一回言ってくれへん?」

「お前は後で俺が改めて教えてやるから、黙って聞いててくれ」

「あ、はい……」

シュン、と項垂れるステラ。

『クリスタリアのやつらとわしらの違いは、分かってもらえたかの?』

「ああ。 それはいいんだが、クリスタリアってのは……?」

『お主らがモンスターと呼んでおるそれじゃ。 憎きクリスタリアのマスターが創り出した偶像どもじゃ』

「……な、なんか、えらい恨み買ってるみたいやけど……」

「……何かあったのか?」

『それがの……クリスタリアのマスターが、人類を粛清するなどと言って聞かなくての。 ……世界の変革のためにわしらがおるのに、全てを無に還そうなどとは……』

「全てを……」

「……無に?」

その言葉がさすのは、≪リベリオン≫のことだろうか。

それとも……

『……あやつらは、言わばただの侵略者じゃ。 あんな奴らとは付き合ってられんわい』

「……それで、ここに?」

『そうじゃ。 わしらクリストロンは無干渉ということで手を打ったんじゃ。 あやつらを手伝わないで、人類にも手出ししないとな』

「……つまり、鉱山にいるモンスターたちは、人類を侵略しようとしてるってことか?」

『まぁ、そうなるかの』

……マジかよ……また起きるのか、リベリオン級の内戦が……

『最近聞いた話じゃと、また何やら動いておるみたいじゃぞ。 執拗に人類を襲っているようじゃが……』

……まさか……

「……ジークフリートか?」

『確かにそう呼んでおった覚えがあるの。 今はあまり目立った動きはないが、被害が少なからず出ているのは確かじゃろう』

度々聞いていた、"悪魔の復活"。

そして、リリがまた会う約束をしてきたこと。

それらが何を意味していたのか、これでハッキリしたわけだ。

ーージークフリートは、何者かによって封印が解かれている。

『じゃがお主。 どうしてお主がそのジークフリートのクリスタルを持っておるんじゃ?』

「え……?」

「……!!」

『その腰につけておるそれじゃ』

俺のビームサーベルを杖でさす。

「これが……ジークフリートのクリスタル?」

『気配は感じられぬが、あやつのと同じ音がしておる』

「音……?」

『そうじゃ。 音じゃ。 勇ましくも、残酷で狂気的な音じゃ』

「…………」

ステラの方を見た。

「…………」

視線をそらされてしまった。

……ってことは、マジ……なのか……?

でも、どうしてクリスタルが足りていない状態なのに封印が解かれているんだ……?

「……俺たちは、どうすればいい? 俺たちは、この事実を聞かされて、何をすればいいんだ……?」

『もちろん決まっておるじゃろ。 あやつらを、止めるんじゃ』

「止める……?」

『わしらは確かに干渉しないと言ったが、人類が滅んでしまうのは不本意なのじゃ』

「……どうして、そこまで人類を気にかける……?」

『当たり前のことじゃ。 わしらが生きていけるのは、人類がいたからこそなんじゃからの』

「どういう意味だよ……そもそも、どうしてクリスタルがこの世に存在するんだよ」

『……人類が、望んだからじゃ』

理解が追いつけなかった俺は、ここにきて考えるのをやめた。

モンスターを倒し、人類を救う。

そんな任務を、俺たちは引き受けることになってしまった。

その事実だけが、頭を埋め尽くした。

それがどのような結果を生もうと。

それが実現不可能かもしれなくても。

俺たちの運命は、この場所に来た時から……いや、この身体を手に入れたあの日から、決まっていたのかもしれない。

そう思えるほど、絶望的に、理不尽な事実だった。




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