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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第六章 「真夏の海と輪廻の華《ファイアーワークス》」
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チャプター 8-9

前回のあらすじ

→クリストロンに絡まれて、島の探索終了

9



「えー……、じゃあ、今日の戦果を報告してくれ」

結局、昼に集まるという予定は大幅に変更になり、再び集まれたのは日が暮れてからだった。

「まずはトラシャイの3人から」

「はい!」

アカリが手を挙げる。

「島を一周してきました!」

「まぁ、途中でオレたちと会ってるから、それはわかってる」

「それとー、見たことないモンスターがいっぱい居ました!」

「朱雀と玄武で応戦したんだけど、どれも消えずに残ってたね」

「うん……。 持って帰るわけにもいかないし、そこに埋めてきました……」

やはり死骸が残ることに抵抗があるのか、アカリのテンションが下がった。

「……それから先は天海先輩と一緒に行動してたので、省略でいいですよね?」

アカリにつられてか、アキラもテンション低めだ。

「……わかった。 ありがとう」

ケンは頷くと、ヒヨの方を見る。

「ヒヨ。 一応報告を」

「え? うん。わかった」

チラッとステラの方を盗み見たヒヨは、

「私たちも島を回ったんだよ。 アカリちゃんたちとは逆の海岸をね」

と、諦めて話し始めた。

「途中でモンスターに会ってからしばらくは記憶がないんだけど……」

「あぁ、そこは大丈夫だ。 ローザがなんとかしてくれたから。 な?」

「え? えぇ、そうね」

急に振らないでよ……

「……意識が戻ってからは、特に何もないままアカリちゃんたちと合流して、森を突っ切って帰ったんだよね」

「そうね。 途中でライトに会うかと思ったけど、どこかですれ違ったみたい」

「……はぁ。 それで、そのライトはどうしたんだ?」

「…………」

ステラは黙ったままだ。

「ヒカリもいないし……何かあったんだろ? ステラ」

「…………はい」

「話してくれるか?」

ステラは迷ったように視線を外したが、

「……わかりました」

やがて前を向き、首を縦に振った。

「ウチと隊長さんはあの森で、クリストロンって言うモンスターたちに会ったんです」

「クリストロン……?」

「はい。 クリストロンは通常のクリスタルモンスターと違って、"命亡き者に命を宿す"ことでモンスター化させている……とかなんとかで。 死体が残るのも、それが原因やって言ってました」

「……そんなこと、誰から聞いたんだ?」

「フクロウさんに」

「「「「フクロウ!?」」」」

「…………」

……なるほどね……

「……と、とにかく、フクロウさんと仲間達にその情報とクリスタルを貰って、イマイチようわからんまま帰ってきたんです」

「……そうか。 ありがとう」

ケンはメガネを外し、眉間を押さえた。

「……どうなってんだよ……聞いてねぇって……」

独り言がだだ漏れだ。

「はぁ……。ステラ」

「は、はい」

「あとでライトに、レポートを提出するように言っておいてくれ。 学校にじゃなくて、オレにだ」

「わ、わかった」

「やれやれ……とんでもない情報が入ってきたが、とりあえず晩飯だ。 そのあとはお待ちかねの花火大会だぜ!」

「やったー! 花火だ、花火!」

「アカリ、落ち着いて! はしゃぎすぎだよ」

「じゃあ、私は準備してくるから」

「あ、ヒヨさん! ウチも手伝いますよ!」

思い思いの場所へ散っていった皆。

あとに残ったのは、あたしとケンだけ。

「……まぁ、その、なんだ。 元気出せよ、ローザ」

「え……?」

「あいつが落ち込んでるときは、無理にでも傍にいてやるのが一番だ。 ヒカリがそうしてるようにな」

「…………」

「悪いけど、あいつがああなったら、オレにはどうしようもない。 だから、頼む」

「……わかってるわ」

……そう、あたしはわかっている。

今、彼に伝えるべき言葉も。

彼が持っているクリスタルが何であるかも。

そして……

「これでもあたしは、ライトのパートナーなのよ?」

……未来を変える、パートナーなのよ、あたしは!

「……そうだったな。 まったく、うらやましい限りだぜ」

ケンは誰に言うでもなく呟くと、背を向けて手を振った。

「……さて……ここからは、間違えるわけにはいかないわよ……」

自分に言い聞かせるようにそう言うと、立ち上がった。

「ようやく、未来への切符を掴んだんだから……!」



*********


*********



「…………」

日はほぼ沈んでしまったが、それでも部屋を申し訳程度に赤く照らしている。

「≪イクリプス≫……か……」

そんな中、手の中のクリスタルに視線を落とす。

大きさからして永続クリスタルであろうこれは、≪イクリプス≫というもの。

これを使えば、クリスタルを取り込む……捕食することが出来る。

育成場時代につけていた腕輪と、同じ効果を持つクリスタルだった。

「なにが『モンスターの根絶』だ……。 どうして俺があいつらの尻拭いをしないといけない……」

本当はわかっていた。

俺自身、どこかでモンスターの根絶を願っていた事ぐらいは。

モンスターを消し去れば、世界は変わる。

ずっとそう思っていた。

「……でも、その先に何がある? クリスタリアを滅ぼして、クリストロンはどうなる?」

正直、モンスター間のいざこざなんて、どうでもよかった。

でも、それでは納得がいかなかった。

まるで俺が、対モンスター兵器かのように……

――ピンポーン……

部屋のチャイムが鳴った。誰かが来たらしい。

「......兄さん?」

と思ったら、ヒカリが入ってきた。

おっかしいな……ロックしていたはずなんだけど……

「......何してるの?」

「い、いや……」

瞬間、ヒカリが視界から消えた。

「......兄さん、これは?」

「……≪神速≫か?」

「......質問してるのはわたし」

いつの間にか俺の隣に座っていたヒカリが手に持つのは、≪イクリプス≫。

今の一瞬で奪い取ったらしい。

「……もらったんだよ」

「......誰に?」

「……クリストロンに」

「......?」

ヒカリは首をかしげる。

当然だ。 何も説明していないのだから。

「......よくわからないけどさ」

「ひ、ヒカリ?」

突如俺の体を、温かい何かが包んだ。

鼻孔をくすぐる汗とシャンプーの甘ったるい匂い。

「......兄さん。 一人で悩まないで。 わたしがいるから」

「…………」

「......ね、教えてよ。 何があったのかを、さ」

耳元で囁くように、ヒカリはそう言ってくる。

「……わかった。 話すよ……」

ギュッとされて気が緩んだのか、気付けばそう呟いていた。

それを聞いてヒカリはホールドを解除し、隣に座り直した。

「実はそのクリスタルは……」



「......へぇ。 そんなことが」

全てを話し終えた時、ヒカリはそれだけしか言わなかった。

「……やけに冷静だな」

命を奪うクリスタルを渡されたと言うのに。

「......だって、やることが決まったんでしょ? だったら、それをやればいいだけ」

「……え?」

「......くよくよ悩むよりは、即行動! でしょ?」

違うの? と向けられた視線は、

「…………」

俺にはただ、逸らすことしかできない。

「…………」

嫌な沈黙が、その場を満たした。

「......わたしが出来るのはここまで」

やがてヒカリは諦めたように立ち上がった。

「......でも、一人でやろうとしないで。 わたしが居ることを、忘れないで……」

寂しげに微笑むと、背を向けて出て行ってしまった。

……言われてみればそうだ。 俺は何も考えず、言われたことをやればそれで……

――ジャキッ……

ん? なんの音だ……?

「≪プラズマ≫!!」

扉の向こうから声と電流の走る音が聞こえたと思ったら、ドアが勢いよく開け放たれた。

「ライト。 そのツラちょっと貸しなさい」

「……急にどうした」

「もう、いいから行くわよ!」

そう言ってローザは強引に俺の腕を引っ張り、外へ俺を引きずり出す。

「行くって、どこに?」

ローザはニヤリと笑うと、

「屋上よ!」

俺の腕を引いたまま、走り出した。


*********



「話は聞かせてもらったわ!」

日は完全に落ち、あたりは真っ暗だ。

月が出ていなかったら、何も見えなかっただろう。

「何の話だ」

「もちろん、あんたが今日、クリストロンから聞いた話よ!」

「……っ! だ、誰から……?」

「忘れたの? あたしには、これから先のことが書いてある日記帳があるのよ?」

やけに喧嘩腰なローザはそうまくし立てる。

「……それで?」

「ふふん。 ズバリ言っておいてあげるわ」

ローザは自信たっぷりに、こう言い放った。


「そんな依頼、なかったことにしなさい!」


「……は?」

「聞こえなかったの? クリスタリアなんて倒さなくて良いって言ったのよ」

「……本気で言ってるのか?」

「もちろんよ。 あたしを信じて」

ローザは真っ直ぐに俺を見た。

俺の心の内を全て見すかすように澄んだ瞳が俺を貫く。

……ローザが本気でこう言ってるんだ。俺が信じてやらなくてどうするんだ……

「……わかった。 信じるよ」

そう言ってやると、ローザは嬉しそうに頬を緩めた。

「さすがはあたしのパートナーね。 そうでなくっちゃ」

「……でも」

「うん?」

「これは、どうするんだ?」

俺はイクリプスを取り出してみせた。

「もちろん、あんたの強化に使うわ」

「え……?」

「それは未来に繋がる、大切なカードなのよ」

ローザは目を輝かせて、イクリプスをまじまじと見つめた。

「必ず必要になるわ。 向こうに帰るまで、大切に持っておきなさい」

「あ、ああ」

拍子抜けしてしまった。

モンスターを消し去るなんていうリスクの高い依頼を、やらなくて良くなったのだから。

それでも未来が変わると、そう思えたから。

「……ありがとう、ローザ」

「へ?」

それしか言えないけど、思いを素直に伝えた。

「え、べ、別に、ただあんたが悩んでるみたいだったから、ちょっと気を楽にしてあげよーって、そう思っただけなんだから!」

相変わらず、わかりやすいな……

俺は返事の代わりに、ローザの頭を撫でてやった。

「ちょっ……うぅ……」

暗くてもわかるぐらい真っ赤になって、ローザは俯いてしまった。

……まさか、ローザに助けられちまうとは……

下手に悩み過ぎていたのかもしれない。

……それに、悪夢の一因が未来に必要なんて……

――ヒュー……ドンッ!!

「「うわっ!?」」

炸裂音が辺りに響き渡った。

何事かと空を見上げれば、

「……綺麗……」

2発、3発と打ち上げられて行く花火たち。

咲いては消え、咲いては消え……そんな輪廻を繰り返す花が、空を彩っていた。

儚くも活き活きとした花。 存在を忘れられまいと、空で光る花。

……でも、これは逆なんだよな。

手元のイクリプスに視線をやる。

……存在を消したいほどのものなのに、こうして巡り巡って希望に返り咲くなんて……

運命じみたものを感じてしまう。

例えこれが意図された巡り合わせだとしても、俺たちもいつかああやって散ってしまうとしても。

……それでも、俺はこの運命を信じる。 ローザを、信じるよ……

「…………」

シャツの裾を引っ張るのは、未だ顔が赤いままのローザ。

花火の音でよく聞こえないけれど、彼女が何を求めているのか、何となくわかった気がした。

「…………」

静かに彼女の手を握り、何も言わず、彼女を抱き寄せた。






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