↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/22

偶然を装ってお引き合わせ

汐見さんは、仕事を終えて帰宅し、くつろいでいた。そこにメールの着信の通知があった。

メールは、恋愛相談サイトのチャットへの呼び出しだった。

汐見さんは、さっそく恋愛相談サイトのチャットをはじめた。


「こんばんは、汐見さん、お久しぶり。お約束通り、日向さんとお引き合わせする計画を立ててまいりました」


「よろしくお願いします」


「計画の実行には、汐見さんにご足労いただきますので、よろしくお願いいたします」


「汐見さんは、次の土曜日にご予定はありますか? 日向さんはその日、外出する可能性が高いので、そのときに偶然を装ってお引き合わせすることを考えています」


「次の土曜日は、一日予定はありません。しかし、日向さんがその日に外出すると、どうしてわかるのですか?」


「日向さんと私は、以前はかなり親しい関係にありました。関係を絶った今も、なぜか多くの個人情報にアクセスすることができます。この情報を使って推測しました」


「日向さんの個人情報には、日向さんのスマホの位置情報も含まれますので、これも使って汐見さんを日向さんのところまで誘導します」


「偶然を装うと言っても、勤め先や自宅から尾行してきたストーカだと怪しまれませんか?」


「その点に関しては心配ありません。彼女は既に、ストーカーの被害にあっており、警察の『ストーカー監視システム』の保護対象になっています。ストーカー行為と判定されなければ、日向さんと警察に警報は発せられません」


「その『ストーカー監視システム』とは、どういうものですか?」


「移動する保護対象の周辺を並走する人物をスマホの電波を使って特定します。スマホの電波を発していない人物は、防犯カメラを使ってさらに厳重に監視するしくみになっています」


結城さんは、話を続けました。


「偶然を装って日向さんに会うには、このシステムに検知されないように注意して接近することが鍵になります。お二人の位置情報をもとに、汐見さんを誘導しますので、必ず指示に従って動いてください」


「ちゃんと指示できるのかな、結城さん。大丈夫かな」

汐見さんは、思った。


「よろしくお願いします」



結城さんの「汐見さんに日向さんを引き合わせる」作戦を決行する土曜日の当日の朝。


汐見さんは、朝早くに起きて、外出の準備をすまして、結城さんからのチャットの連絡を、スマホの画面を見ながら待っていた。

そこに、結城さんからチャット(文字)で連絡が入った。


「おはようございます、汐見さん。お久しぶり。日向さんは、予想通り外出の準備をしています」


「汐見さん、外出の準備はできていますか? ここからは音声で誘導します」


「準備はできています。大丈夫です」


汐見さんは、スマホのワイヤレスイヤホンを片耳だけ付けた。


「汐見さん、聞こえますか?」


「おはようございます、結城さん。聞こえます。こちらの声は聞こえますか?」


「ええ、聞こえます」


「日向さんが外出するのは、ほぼ間違いありませんが、行き先は確定できません。駅近くのショッピングモールか、その駅から都心へ出る可能性が高いです。そのまま待機してください」


汐見さんは、指示に従って待機した。

数分して、結城さんからさらに連絡があった。


「日向さんが駅に向かいました。駅のショッピングモールで買い物して、そのまま帰宅してしまうかも知れません。すぐに JR✕✕駅へ向かってください。汐見さんのご自宅は、日向さんの自宅と逆方向にあるので、『ストーカー監視システム』に警報が発せられる心配はありません」


JR✕✕駅は、汐見さんの自宅の最寄り駅から乗り換えなしで電車で20分ぐらいのところにあった。

汐見さんは、急いで家を出て、最寄りの駅に着くと、ちょうどやって来た電車に乗った。


汐見さんが、電車で移動しているとき、さらに連絡が入った。


「日向さんは電車で都心に向かいました」


都心は、汐見さんが乗っている電車の行き先と逆方向であった。


「今乗られている電車を次の駅で降りて、都心行きに乗り換えてください。くれぐれも同じ電車に乗らないでください」


汐見さんは、結城さんに言われたとおり「次の駅」で降りた。そこは、快速電車が止まらない乗降客の比較的少ない駅であった。

汐見さんは、すぐに反対方向行きのホームに向かった。


間もなく電車が来たが、その前に結城さんからの指示があった。


「この電車には乗らないでください。日向さんが乗っています。今後の成り行きによっては『ストーカー監視システム』が作動する危険性があります」


駅で電車を待っていた他の人は、みんな電車に乗り込んでいった。

そして、ドアが閉まると、日向さんを乗せた電車は、汐見さんの目の前でゆっくりと動き始めた。


「さえぎるものは何もないのに、向こうに行けないなんて…、まるで駅の黄色の点字ブロックみたいだな」


電車を降りた人もいなくなり、ひとり取り残された汐見さんは、電車が行った方向をしばらくじっと見つめた。

そして、汐見さんは、少したってからやって来た次の電車に乗った。


電車の中で、結城さんからの連絡が入った。


「日向さんは〇〇駅で降りました。汐見さんも同じ駅で降りてください。駅を出たところで、日向さんの行き先が分かるまで待機してください」


汐見さんは、結城さんから伝えられた駅で電車を降り、改札を出て、そこで結城さんの指示を待った。


そのときであった。


「申し……」と、後方から女性の声がした。

聞き覚えのある声、いや今聞いている声と同じだ。


汐見さんが振り返ると、そこには、日向さんより年下にも見える、落ち着いた服装の女性が、物静かに微笑んで立っていた。


「こんにちは、汐見さん、お久しぶり」


「ええっ! 結城さん!? どうして?」


汐見さんは、さすがに驚きの表情を浮かべた。


「実は、お渡ししたいものがありまして」


結城さんは、カードを1枚取り出し、汐見さんに手渡した。

カードには、QRコードが書かれていた。


「これは?」


「当サイトの招待カードです。QRコードにアクセスしていただくと、日向さんは、当サイトで汐見さんと、この結城とチャットできるようになります」


結城さんは、続けました。


「めでたく、日向さんとお付き合いすることになったら、これを日向さんにお渡しください。当サイトでお付き合いされている方が、チャットできないのはおかしいので。」


「はあ」


「それでは、結城はこれで失礼させていただきます。ご同行はできません。行ってらっしゃい」


結城さんは、そういうと、その場を去っていった。


ところが、すぐに、結城さんから音声チャットの連絡が入った。


「日向さんの位置情報が更新されました。今、お店に入りました。買い物のようです。お店の中で日向さんに声をかけてください」


結城さんは、さらに続けた。


「『ストーカー監視システム』の警報を避けるため、日向さんとは違う経路で反対方向から店に入ります。買い物が終わると声をかけられないので、急いでください」


汐見さんは、結城さんの指定した経路で日向さんがいるお店の前にたどりついた。


「すぐ左手のお店です。だいぶ時間がかかってしまいました。すぐにお店に入って、日向さんが買い物を終える前に、偶然を装って声をかけてください」


「本当にこのお店に入るのですか?」


お店を見た汐見さんは、結城さんに問いかけました。


「はい、このお店です。急いで入ってください」


「わかりました」


汐見さんは、深く息を吸って、お店に入りました。


お店の中には、日向さんがいました。

日向さんは、手に取った商品から目を離し、お店に入って来た汐見さんを不思議そうに、少し驚いた表情で見つめた。


汐見さんは、日向さんに真っ直ぐ近づいて行きました。


「どこかでお会いしませんでしたか?」


「え?」


日向さんが手に持っていた”商品” は、女性の下着でした。

そのお店は、下着専門店でした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。