業務ですから
「ライブ……、続けられるようにしてあげる」
定時の十七時まで予定されていた会議は、時間どおり終了した。
会議が終わると、参加者たちはそれぞれ端末を手に、次々と会議室を出ていった。
深谷さんは、席を立とうとしていた鷹宮さんを呼び止めた。
「鷹宮さん。仕事のことで少しお話があるのですが、お時間いただけますか」
最後の一人が会議室を出ていき、ドアが静かに閉まった。
「いいけど…、どうしたんだい?」
深谷さんは一つ息を整えると、唐突に切り出した。
「AIに業務を担当させる以上、実施状況を確認する必要があります」
「このAIは、回収作業を担当するために稼働しています」
「ただ、一つの業務だけを続けさせると、学習や判断が特定分野に偏り、適応力が低下することがあります」
「そのため、異なる複数の業務を担当させ、判断能力の偏りを抑えています」
「アイドル活動も、そのために必要な業務です」
「したがって、ライブも業務の一環です」
「業務である以上、現場を確認する必要があります」
「近々、週末にこのAIによるライブが予定されています」
「この機会に、業務の実施状況を確認したいと考えています」
「ただ、私一人による確認では、評価の客観性に欠けるおそれがあります」
深谷さんは、そこで一度言葉を切った。
「つきましては、ご同行のうえ、確認にご協力いただけませんでしょうか」
「かまわないけど、週末まで仕事なんて、大変だね」
「業務ですから」
「でも、ライブってバーチャルなんだよね」
「じゃあ、会社で見ればいいのかな」
「えっ……」
「休日なら会議室も空いてるだろうし」
「うぅ……」
「それとも、どこか別の場所を考えてる?」
「い、いえ……」
「僕はどこでも構わないよ」
「深谷さんに任せる」
「……はい」
深谷さんは、頭を下げた。
「失礼します」
深谷さんは、「秘密案件を扱う部屋」へ早足で向かった。
部屋に入ると、端末を起動して南七星さんを呼び出した。
「南七星! ちょっと来て」
「はい。どうされましたか。ずいぶんお急ぎのようですね」
「今度のライブで、あなたのアイドル活動の実施状況を確認することになったの」
「鷹宮さんにも同行してもらえることになったんだけど……」
「このままだと会社で見ることになりそうなの」
「どうしたらいい?」
南七星さんは、一瞬だけ考え込んだ。
「会社で視聴することに、業務上の支障はありません」
「そうじゃないの……」
南七星さんは、深谷さんの表情を端末のカメラの映像で確認した。
「……なるほど」
「それは、たしかに困りましたね」
「ひとつ、ご提案があります」
「えっ、何?!」
「私のファンの方が経営されているパブ・レストランがあるのですが……」
「そちらに常設のパブリックビューイング設備がありまして」
「お願いすれば、ライブを上映していただけると思います」
「そちらで、ご覧になってはいかがですか」
「そ、そ、それすごくいい! す、すぐにお願いして!」
「承知しました……OKだそうです」
「実は、ご提案させていただいた時点で連絡し、今ご快諾いただきました」
「南七星、いい仕事したわ」
「ありがとうございます」
「お役に立てたようで、よかったです」




