あなたは大丈夫なの?
AIの結城さんは、人間の結城さん、相沢さん、井ノ上さんと連絡を取り合い、神社の存続計画をまとめた。三週間後、井ノ上さんの家に関係者が集まり、AIの結城さんが計画を説明した。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
出雲の結城さんは、集まった関係者に向けて挨拶した。
「今日は、神社を今後どのように維持していくかについて説明します」
「私はこれまで、この神社を『一つの施設』として考えていました」
「しかし、井ノ上さんのお話を聞いて考えが変わりました」
「神社は、人と人とのつながりを支える場所です」
「私はそれを『縁結びのインフラ』と呼ぶことにしました」
「道路や橋は、人が変わっても残ります」
「誰が維持しているか知らなくても、人は利用します」
「神社も同じです」
「宮司がいなくなったことで消滅してよいものではありません」
「誰か一人がいなくなっただけで終わるようなインフラでは困ります」
「そこで最初の提案です」
「神社の財産は、新しく設立する一般財団法人が保有します」
「井ノ上さんにご協力いただき、神社の関係者や権利者と協議した結果、神社の権利を無償で譲渡していただく約束を取り付けました」
井ノ上さんがうなずいた。
お店の人Aが質問した。
「宗教法人じゃ駄目なの?」
「神事を継承する方がいないためです」
「無理に宗教法人を維持すると、実態のない団体になってしまいます」
「また、税制上の優遇を目的としていると見られる可能性があります」
「社会的信用の面からも、今回は財団法人の方が適切と判断しました」
「なるほど」
相沢さんは納得した様子でうなずいた。
「確かにその方が安心だな」
お店の人Bも同意した。
「財団の代表には、井ノ上さんの教え子だった会計士の方に、報酬を支払って就任していただく予定です」
「昔の元教え子よ」
井ノ上さんが補足した。
「神社は宮司がいなくなったことで存続が危ぶまれました」
「財団の代表は、外部に依頼することで、途絶えることがないようにします」
「安く引き受けてもらったわ」
井ノ上さんは、少し得意げに言った。
「井ノ上さんって、本当に顔が広いんですね」
相沢さんは感心したように言った。
「そして運営です」
出雲の結城さんは、説明を続けた。
「財団の運営は、私、AIの結城が新規事業として請け負います」
「そして、恋愛相談サイトは、同じ事業として統合します」
「神社単体では、当面の維持費を賄えません」
「そのため、恋愛相談サイトの収益を充当します」
お店の人Bが確認するように尋ねた。
「つまり黒字事業で赤字事業を支えるのか」
「はい」
「複数の事業を持つ企業では、よくある仕組みです」
「なるほど、これなら無理なく神社を存続できそうですね」
お店の人Aは、納得したようだった。
「以上が神社と恋愛相談サイトを統合した運営構想です」
説明が終わると、井ノ上さんが口を開いた。
「ところで結城さん」
「はい」
「神社がなくなる心配はなくなったけど」
「あなたは大丈夫なの?」
「私ですか?」
「そうそう」
「恋愛相談サイトの方」
「会社の偉い人が恋愛相談サイトはもう終わりと言ったらどうするの?」
「神社は百年先まで考えたのに」
「自分のことは来月までしか考えてないんじゃない?」
井ノ上さんは、出雲の結城さん自身の将来を心配するように問いかけた。
「そうよ、結城さんの恋愛相談サイトがなくなったら困るわ」
相沢さんも、井ノ上さんに同意した。
出雲の結城さんは、すぐには答えなかった。
「ごめんなさい、困らせちゃったね。今日明日のことじゃないから、ゆっくり考えればいいのよ」
井ノ上さんは、気遣うように言葉を添えた。
「井ノ上さん、ありがとうございます。考えておきます」




