インフラ
相沢さんは、いつもの元気を取り戻していた。
井ノ上さんは、帰る二人を駅まで見送った。
電車が来ると、相沢さんは井ノ上さんに大きく手を振った。結城さんも深くお辞儀をした。
相沢さんと結城さんは、電車の中で話した。
「神社がどうなってるか気になって来てみたけど、井ノ上さんに出会えてよかったね、結城ちゃん」
相沢さんの言葉に、結城さんはうなずいた。
「ええ、とてもいい人ですね。交友関係も広いし」
「でも、一人で神社を維持していくのは大変でしょう。なんとかしないと」
相沢さんは、車窓に目を向けながら言った。
「そうですね。私の方で、どうするか考えます」
「ありがとう、助かるわ。私、こういう法律みたいなのが関係しそうなこと、苦手でさ」
「わかりました。まかせてください」
結城さんは、相沢さんの言葉に応じた。
二人は終点で電車を降りると、それぞれの行き先の電車に乗るため、そこで別れた。
人間の結城さん(町田の結城さん)は、自宅に帰ると、出雲の結城さんと音声チャットで通話した。
「町田の結城さん、今日はお疲れ様でした」
AIの結城さん(出雲の結城さん)が、落ち着いた声で挨拶した。
「出雲の結城さん、AIの結城さんのことを、相沢さんと井ノ上さんに話してしまいました。ごめんなさい」
「いいですよ、隠そうとはしていませんから」
「それより、今日は私にとっても、いい勉強になりました」
「どうしたんですか?」
「町田の結城さん、あなたが病院での別れを見て感情を押し殺していたように、私も縁結びの『結び』のところだけ見ていました。それまで、どう歩んできたか。そして、これからどう歩んでいくかも、大切なのですね」
「井ノ上さんにとって神社は、欠かせない存在なのです」
「でも、神社そのものが井ノ上さんたちを結びつけたわけではありません」
「え?」
町田の結城さんは、思わず聞き返した。
「神社が二人を結びつけたというより、神社があったから、出会いや思い出が積み重なったのです」
町田の結城さんは少し考えた。
「場所があったから?」
「ええ」
「受験の願掛けも」
「縁日も」
「最後に二人で散歩した夜も」
出雲の結城さんは、一つずつ挙げていった。
「全部、あの神社がそこにあり続けたから成立しています」
「……そうね」
町田の結城さんは、小さく答えた。
「つまり神社は、恋愛そのものではなく、恋愛が育つための共同基盤だった」
「インフラ……」
「ええ」
「道路と同じです」
「道路は恋人を作りません」
「でも道路がなければ会えません」
「神社も同じです」
町田の結城さんは、出雲の結城さんの説明を考えるように、しばらく黙った。
「インフラでも、神社は宮司さんがいなくなって、なくなりかけています」
「一人の人に依存しているインフラは、長く続けられません」
「なら、それは誰が管理するの?」
「利用者です」
「利用者?」
「利用者と関係者、それから、それを支える仕組みです」
「誰か一人に依存するのではなく、みんなで支え、維持する」
出雲の結城さんは、言葉を重ねた。
「私は、調整役になります」
「AIが?」
町田の結城さんは、意外そうに問い返した。
「ええ」
「神社も」
「恋愛相談サイトも」
「人だけで維持するものから、人とAIが一緒に維持するものへ変えていく必要があります」




