縁結び神社
相沢さんと結城さんは、神社の前に到着した。神社は平地にあるが、境内は十段ほどの階段を上ったところにある。鳥居は見えるが、社殿は見えない。神社の前には、車が五、六台停められそうなアスファルトの駐車スペースがあった。
相沢さんは、階段を段飛ばしで駆け上がった。結城さんはその後を一段ずつゆっくりと上がった。
「うわ……結構荒れてるね」
境内には低い雑草が広がり、鳥居から社殿正面の賽銭箱まで、踏み分け道ができていた。また、右端の掲示板に行くまでにも、同じように踏み分け道ができていた。
結城さんは柱の角、屋根の反り、土台の石を順に見た。
「そうですね……。でも、社殿に、ひどく壊れているところはありませんね」
「手入れさえされれば、すぐに持ち直せそうです」
相沢さんは社殿を見上げた。
「なるほど……確かに、建物そのものはしっかりしてる感じがする」
「なんだろ。荒れてるのに、ちゃんとここに“残ってほしい”って気持ちだけは伝わってくるっていうか」
結城さんも境内を見渡しながら頷いた。
「わかります。放置されているようで……完全には見捨てられていない感じですね」
「とりあえず、一周してみよっか」
結城さんは社殿の周囲に目を向けた。
「そうですね。社殿の周りや玉垣、掲示物に何か手がかりが残っているかもしれません 」
相沢さんは、神社全体を見渡した。
「うん。荒れてるけど、博物館の裏庭と同じぐらいの広さだから、私一人でも掃除くらいできそうだし……再興も、なんかイメージできるかも」
「ええ、“思ったより小さい”のは、むしろありがたいですね。手をかける範囲が把握しやすいですから」
結城さんは淡く微笑んだ。
「……きっと、まだ間に合いますよ」
「……ねえ、ここ見て。賽銭箱、落ち葉とかが全然入ってない」
相沢さんが指差した賽銭箱は、底の口が板で丁寧に塞がれていた。
しかも、その板の上にも、風で飛んできたはずの落葉や細かいゴミすら、ほとんどない。
「本当ですね。口を塞いだのは、たぶん……ゴミが内部に落ちないようにでしょう」
結城さんはかがんで、板の固定具を確かめた。
「この釘、あまり錆びていませんね。そう古いものではなさそうです」
「やっぱり、誰かいるんだ。完全に放置ってわけじゃないんだね……」
さらに奥へ進むと、ひとつだけきれいな掲示板があった。
そこには、縁結び神社の伝承が丁寧な字で書かれていた。周囲に雑草はなく、落ち葉が丸く取り除かれている。
「ここ……さっきまで人が掃いてたみたいな感じだね」
「ですね。掲示されている文字も、最近書き換えられたように見えますね 」
結城さんは、神社の各所を写真に収めながら、端末を操作していた。
すると相沢さんが不思議そうに身を寄せてくる。
「何してるの? 写真、誰かに送ってるの?」
「ああ、ええ。……ちょっと調査用に、AIサービスに送ってみようと思って」
結城さんは、もう一人の結城さん――AIの結城さんに写真を送っていた。
「へえ、便利だね。どんなAI?」
「一般的な情報解析ですよ。最近は対象が劣化してても画像から読んでくれるので。まあ、頼れるところは頼っておこうって感じです。万能ではないですけどね」
「そっか。なんか、結城さんって、そういうの使い慣れているて感じあるよね」
相沢さんは素直に感心した様子で頷いた。
「ええ、まあ……仕事柄、慣れてますから」
相沢さんも、ふとスマホを取り出し、画面をタップし始めた。
「え?」
結城さんが覗き込む。
「さっきの、伝承を紹介してたHPあるでしょ? あそこのコメント欄。たぶん何年も動いてないけど……ダメもとで書いとく」
相沢さんは、写真を数枚添付しながら、指を止めずに文章を打つ。
――本日、訪問しました。
――神社は荒れていますが、確かに人の手の痕跡がありました。
――もし関係者の方が見ていたら、再建に協力したいです。
「よし、送信っと」
「……見てくれるといいですよね」
結城さんは、スマホをちらりと確認した。
先ほど送った玉垣の写真について、AIの結城さんから、すでに返信が来ていた。画面には簡潔な文章が表示されていた。
《解析結果:玉垣の寄進者の中に、現存する商店名が複数確認されました。
最寄りの〇〇商店と□□酒店は現在も営業中です。
神社の代表者・管理者を知っている可能性が高いため、優先して問い合わせることを推奨します》
「どうかした?」
相沢さんが覗き込む。
「あ、ええ。──さっきのAIサービスから返事がきました」
結城さんは、自然にスマホを傾けて相沢さんに見せる。
「ほら、玉垣の寄進者を読み取って、ネットの公開情報から、まだ続いてるお店を割り出してくれたみたいです」
「えっ……そんなことまでするの? 最近のAIってすごいね……!」
「で、どうやらこの二軒のお店は、昔から地域の行事にも関わってるみたいです。 神社の代表者を知っている可能性が高いって」
「じゃあ、まずはそのお店に行ってみよう!」
「ええ、そうしましょう。まずは、神社の代表者がどこにいるのかを聞いてみましょう 」




