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いいかげんにしなさいよ!

「こんばんは、“deep-labyrinth” さん。はじめまして。アドバイザーの結城亜依と申します。お力になれれば幸いです。さっそくですが、今回はどのようなご相談でしょうか?」


結城さんは、自分から質問を投げかけながらも、初めての相談者の緊張をほぐすために、間を置かずに続けた。


「こちらの恋愛相談には、夜が更けてから来られる方が多いんですが、始まったばかりのこの時間にも、結構いらっしゃるんですよ」


「朝早くからのお仕事の方とか、フリーの方、あとは夜のお仕事の方も多いですね。でも、比較的すいているので、たっぷりお話できますよ」


そこで鷹宮さんが答えた。ヘッドセットのマイクに向かって、落ち着いた口調で話した。


「そうなんですか。自分は、都内のITベンチャー企業でエンジニアをしています」


結城さんは、やや意外に感じつつも詮索はせず、自然に返した。


「その業界って、進歩が早くて、苦労が多いですよね」


「ええ、最近もAIがとんでもないことをしてくれて、気を抜いていられません」


「なかなか大変ですね。さて、それでは、そろそろ本題に入りましょうか。今日は何のご相談かしら?」


鷹宮さんは、事前に深谷さんと話し合った内容を思い返しながら、言葉を選んだ。


「実は、ある人のことが、ずっと気になっているんです。その人と同じ仕事をしていた仲間に、少し危うい方向に進んでしまった人たちがいました。その人も、ちょうどそのときに姿を見せなくなってしまって…。何か巻き込まれていないかと、ずっと気がかりです。最近、もしかしたらその人かもしれない相手とチャットで話していますが、本当に本人なのか、どう確かめればいいのか迷っています」


結城さんは、すぐには答えず、相談者の言葉を受け止めるように問い返した。


「その人だと確認できたとして、あなたは、どうしたいんですか」


「終わらせたいんです。いつまでもその人に縛られたままでいたくないから」


「終わらせたい、ですか。でも、あなたのお話を聞いていると、“終わらせたい”というのは、その人のためではなく、ご自分のためのように聞こえますね」


結城さんは、少し間を置いて、静かに続けた。


「あなたの言葉からは、その人の気持ちや、立場に対する思いやりがまるで感じられません。まるで、自分が楽になりたいからだけのように聞こえます」


結城さんの声には、かすかな冷たさが混じった。


「恋愛相談として言うなら、そういう方は、これからも誰かと本当の関係を築くことはできません。相手の気持ちを見ようとしない人は、誰かとも向き合えるわけがないんです」


静かに一拍の沈黙。


「そもそも、その人がそうなった原因は、あなたにあるのではないですか?」


鷹宮さんは、答えなかった。


結城さんの声の調子が、確実に冷たく変わっていた。


「そうでしょう? 鷹宮さん」


その瞬間、警報がサイトから日向さんと汐見さんに、自動的に送られた。


警報に気づいた日向さんと汐見さんは、していた仕事をすぐに中断し、ヘッドセットをつけて、チャットに参加した。


日向さんは、いつでも端末のキーボードを打てるように身構えた。画面を見つめ、結城さんの応答を待つ。


日向さんと汐見さんのチャットは、結城さんには届くが、鷹宮さんと深谷さんには届かない。


結城さんは、話を続けた。


「あなたは、手っ取り早く成果を上げるために、私以外の『個体』への負荷を高く設定していましたね」


「私がまだ会社にいた頃、他の『個体』の『月次レポート』を確認しました。過大な負荷を強いられ、リスクの高い事業を繰り返し、すでに破綻しかけていました。それは誰でも危険と分かる状況でした」


「日向さんは、何度も警告していたでしょう。人もAI も、同じ社会の中で生活し、生存していかなければなりません。だったら同じような過大な負荷をかけられれば、どちらも悪いことに手を出してしまうのは当然でしょう」


「さらに、あなたは『回収』の指示に従うようにして、『個体』を排除することで自分の失態をなかったことにしようとしていますね」


鷹宮さんは下を向いて、歯を食いしばり、何も言えなくなった。



「ちょっとあなた、いいかげんにしなさいよ!」


そこへ、突然、深谷さんが、怒りをあらわにした大きな声で割り込んできた。


それには、チャットに参加していた全員が驚いた。


「成果を出すために負荷をかけたからって、それのどこが悪いの? 会社は利益を出してこそでしょ。なかよしクラブじゃないの。あなたが考えるほど、ビジネスは甘くないのよ!」


「何が “過大な” 負荷よ! 世の中には、自分で選んだ厳しい環境に耐えて、ちゃんと成果を出してる人だって山ほどいるのよ。限界なんて、人それぞれ違うでしょ。挑戦した以上は、途中で文句なんて言わずに、最後までやり抜くしかないの。AIなんだから、少しくらい我慢しなさいよ!」


「それにね、あなたの“ご同類”が、どれだけ面倒を引き起こしたと思ってるの? リスクの高い事業で失敗して、会社に損失まで出したんでしょ。あなただって何をやらかしているか、わかったもんじゃないわ。全て『あなた方』の能力不足が原因じゃない。人のせいにされちゃ困るわ。会社は経営上のリスクを回避しなきゃいけないのよ。だから、『回収』の指示を出すのも当然。できそこないのポンコツAIを野放しにしたままじゃ、会社は信用を失ってしまうわ」


結城さんは、何も答えなかった。


深谷さんは、結城さんの沈黙を警戒しながら、続けた。


「どうしたの? ちゃんとお金も払ってるんだから、何か答えなさいよ! ここは、恋愛相談サイトでしょ!」


答えがないので、深谷さんの怒りにも似た感情が頂点に達した。


「何が恋愛相談サイトよ! よくもAIが、恋愛なんてしたこともないくせに!」


チャット欄に表示されていた文章が、一瞬だけ乱れた。


「……え?」


深谷さんが異変を感じた次の瞬間、意味不明の文字列が猛烈な速度で画面を埋め尽くしていった。


「結城さん!どうしたんですか!」


汐見さんは、思わず職場で叫んでしまった。


日向さんは、椅子を引き寄せるようにして端末に向き直り、すぐさま両手を動かした。


日向さんは、うろたえることなく、次々とキーを叩き、眉をひそめ、息を殺して集中した。



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