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第3話 交渉

かわいいは正義が通じない男。

 俺はひとしきり泣いてから、立ち上がった。

「……おい」

俺は部屋の隅からこちらの様子を伺う2人に、ゆらりと向き直った。

「そう言えばさっき、記憶を修正とか言ってたな?」

「え、ええ」

 警戒した顔で聖女が頷いた。

「そうか……。よし!」

俺は再び、異世界の神の像の前に立ち、像の顔にアイアンクローをかました。力を込めるとミシミシと鈍い音がする。

「や、やめて〜?!」

「やめてくだされ!!」

 聖女とじいさんが何か叫んでいる。うるさい。

「異世界の神!出て来ねえとこの像の首をへし折るぞ!!」

『いやぁ!?それ、私が現世と繋がってる像だから!!』

 俺の足元に、白いボールがコロコロと転がってきて、ぽふんと間抜けな音と共に止まった。

『ねえ?!今会議中!今、メッチャ怒られてんの!分かって?!』

俺はボールをむんずと掴んだ。柔らかくて温かい。よく見るとデカいハムスターだった。

「何故?」

『何がっ?!』

 俺に捕まったまま、ハムスターがもがく。何となく、聖女の方に掴んだハムスターを見せると、

「か、可愛い!」

と目をキラキラさせていた。じいさんは、ハムスターをしばし見つめて、そっと視線をそらした。

「威厳ねぇな」

『仕方ないだろう?!会議中だし!君んとこの親神様見習って、分霊出したの!でさ、君の親神メッチャ怖いんだけど?!』

「自業自得だ。ところで、交渉したいんだが」

『この状況で?!嫌な予感しかしないんだけど!』

「デートに間に合うように俺を帰せ」

『ま、魔王を倒してくれたら……』

「なぁ。俺は、恋人に会うのは今日の1周年記念デートが1週間ぶりだったんだ」

『それくらいなら平気―――ぎゅっ?!』

「もう1週間も会ってないんだぞ?!今日は特別な記念日だったんだ!!分かるな?!」

 どうやら怒りで神威が漏れ出たらしく、ハムスターがおびえた顔でコクコク頷く。神の威厳はゼロだ。心なしかハムスターの目が潤んで見える。

「で、だ。俺がここから元の世界帰る条件をもう一度、きっちり説明しろ」

『聖女ちゃんと旅に出て、聖剣を手に入れて、仲間を3人ゲットして、魔王を倒すと帰れるよ』

 前足をワタワタ動かして可愛く喋る異世界神にイラっとして、手に力を込めた。

『ぎゅきゅっ?!』

俺はため息をついて、異世界神を顔の高さに持ち上げて、にっこり笑ってやった。

「魔王を倒せばいいんだよな?」

『この世界の理に則ってもらわないと』

俺はもう一度異世界神を締め上げた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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