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魔王とかめんどくさ  作者: 空白
世界のうねり
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第20話 変わっていく人々

穏やかな日常の中で、五人の距離は少しずつ変わっていきました。

笑い合って、ぶつかって、眠って、目覚める――そんな毎日が、あたりまえになっていた頃。


第二章、ついに最終話です。

小さな変化が積もった先で、“そのあたりまえ”がほんの少しだけ揺れます。


これは、変わっていく人々の物語。

そして、変わらざるをえない世界の話でもあります。

アルムは、久しぶりにひとりで眠ることができた。


ベットに入った瞬間、体の力が抜けて、まるで意識を吸い取られるように眠りに落ちた。

誰もいない、静かな夜。

それは、何よりも心地よかった。


「……アルム……」


かすかな声とともに、肩をさする優しい感触があった。

こすられるような小さな手のひらのぬくもりが、夢の奥から意識を引き戻してくる。


「アルム……あさ、だよ……」


目を開けると、ぼんやりとした光の中に、ともえの顔が浮かんでいた。

すこし眠たげな目で、でもしっかりと肩を撫でている。


ゆっくりと体を起こす。


(……しびれてない!)


手足が軽い。

全身が自由に動いて、違和感もない。

誰かが乗っていたわけでも、腕をつかまれていたわけでもない。


(やった……! だれも、乗ってない……!)


心の中で、こっそりガッツポーズ。

声には出さなかったけど、思わず口元が緩んだ。


誰もいない。

静か。

ちゃんと眠れた。


(最高……。これが“普通”なら、毎日これがいい……)


でも――


視線をゆっくり巡らせたとき、小さな違和感が胸に灯った。


(……いない)


シンも、サディも。


その空白が、どうしようもなく気になった。


「ねえ……ともえ。ふたりは?」


「えっと……もう、した に いる……」


アルムは、何も言わずに早足で部屋を出る。


ともえがふわふわとそのあとを追っていく。


理由は分からない。

ただ――


二人の姿が見たくなった。

それだけだった。


階段を降りきって、中央ホールに足を踏み入れると、

そこにはすでにノンナ、シン、サディの三人が席についていた。


静かに湯気を立てる食器。

まだ手をつけていない料理。


(……待ってた?)


三人とも、何かを話していたような気配はない。

けれど、アルムが来た瞬間に、自然と目線が集まった。


ノンナはふわりと笑って、


「おはようございます、アルムさん。ぐっすり眠れたようですね」


「……うん」


ほんの少しだけ頷いて、アルムは席に向かう。


ともえも、その横にちょこんと座った。


それだけで、場の空気がほんのり温かくなる。


そして、また。

五人で朝ごはんを食べる。


誰も喋らない時間があっても、気まずくはなかった。

パンのちぎれる音、スープをすする音、そんな音だけが、食卓に静かに流れていた。


(……この感じ、きらいじゃない)


誰かが一緒にいて、

自分の場所がある気がして、

朝が始まる。


それが、ただの「日常」になっていくのが――

なんだか、少しだけ不思議だった。


そうして、日々が流れていった。


ノンナが家にいるときは、

リュサニア、カリュディア、アストロ――

三つの国の言語と文化を学んだ。


ノンナがいない日は、

魔法と剣の訓練。

時に真剣に、時にふざけながら、

ただ、ひたすらに積み重ねていく。


そうして――

七年が経った。


夜になると、決まって部屋に集まるようになった。

ベットはひとつしかないのに、

気づけば四人で並んで眠っている。


(……こいつら、ずっと一緒に寝てくる……)


(ぐっすり寝れないわ)


手足はしびれるし、寝返りもうてない。

毛布の取り合い、足が顔に乗ってくることすらある。


(……でも、まあ。嫌じゃないけど)


朝日が差し込む窓辺で、

そのまま目を開けた。


今日もまた、同じようで――

少しずつ、変わっていく日が始まる。


ベッドから足を下ろそうとしたとき、背後から声がした。


「アルムは、毎日朝早いね」


振り返らずに、アルムはぼそっと返す。


「……とっも、毎回わたしが起きるときに起きてくんの、やめてって言ってるでしょ」


「えっ……?」


「気持ち悪いって言ったじゃん。

寝てるときくらい感覚魔法、オートオフにしとけよ……」


ぶつぶつと文句を言いながら、アルムは机に向かう。


ノンナに頼んで取り寄せてもらった本が、整然と積み上がっている。

そこに記されているのは――


ヴァノス連邦とゼルトナ王国。


四つある大国のうち、

ノンナですら詳しく知らない二つの国だった。


言葉も文化も、断片的にしか伝わってこない。

けれど、だからこそ、そこには知る価値がある。


アルムは椅子を引き、腰を下ろした。

開いたページの向こうにある世界を、静かに見つめながら――


今日という日が、また始まる。


とっもが、椅子の背もたれに腕をかけて言ってくる。


「そんなこと言って……ほんとは、

わたしが毎日起きるの、期待してるんじゃないの?」


口元にニヤニヤした笑みを浮かべながら、

いつも通りのだる絡み。


(……うるさい。静かにゼルトナ王国の歴史、読ませろや)


アルムは返事をしない。

本のページをめくる指だけが、淡々と動いていた。


場所は変わり――

ゼルトナ王国とヴァノス連邦の国境線、


地上では、800年にも及ぶ“鉄血戦争”が終わることなく続いている。

もはや誰が始めたのかも忘れられ、争いは日常と化していた。


だがその一方で――

誰の記録にも残らない、

誰の耳にも届かない“地下”では、

別の何かが静かに進行していた。


重たい空気の中、男女が言葉を交わす。


「……この力があれば、鉄血戦争どころか……四つの大国すべてを征服できるな。なぁ、レイよ」


「ついに……ついにザビ様が作る世界が見られるんですね!!」


熱のこもった声が、冷たい岩壁に響き渡る。


その奥には、まだ誰も知らぬ“力”が目覚めの時を待っていた。

アルムは、知らなかった。


五人で、寿命を迎えるその日まで――


ずっと、ずっと一緒にいられると、本気で思っていた。


それができなくなるなんて……


夢にも、思わなかった。

第二章、ついに完結です!

アルムたちの7年間の積み重ね――小さな変化、日常の絆、そしてまだ知らぬ世界の気配。

今回はその“ほんの終わりの始まり”を描いたつもりです。


ちなみに7年後の現在、年齢はこんな感じ↓

アルム:10歳/ともえ:9歳(もうすぐ10)/シン:13歳/サディ:28歳(あと少しで29)

みんな順調に育ってます。(たぶん)


サディとシンの心の動きについては、三章でじっくり描いていく予定です。

二人の“内側”は、あえてまだ見せてません。お楽しみに。


あと地下の“あれ”や、“ザビ様”についても、次章から本格的に動き出します。

ついにアルムたちが「外の世界」とつながるときが来るかも……?

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