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魔王とかめんどくさ  作者: 空白
世界のうねり
20/25

第19話 戦闘開始

いつも読んでくださってありがとうございます。

今回は、ちょっとだけ汗をかくような一日。

まだぎこちない四人の関係が、少しずつ、でも確かに動き出していく、そんなお話です。

何かが始まりそうで、何かが揺れている――そんな空気の中、

一人ひとりの“違い”が、ちょっとだけ見えてきます。

それでは、どうぞ。

夜中、部屋は静まり返っていた。

床に横になっていたアルムは、小さく寝息を立てて眠っていた。きっかけは、自分のベッドに三人が雪崩れ込んできたせいで、仕方なく場所を譲った結果だった。


そのアルムの体温がないことに、ともえがふと気づいた。

目をうっすらと開け、寝ぼけてあたりを探る。

そして、ベッドの隣、冷たい床に眠っている小さな背中を見つける。


「……」


何も言わず、ともえは静かに起き上がり、アルムの腕を取る。

そのまま引き上げるようにしてベッドへ戻すと、自分もその隣に横になった。


アルムは一度身じろぎしたが、目を開けることはなかった。

そのまま、また深く呼吸を整え、再び眠りの中へ落ちていった。


……そして、朝。


アルムは何かに押しつぶされるような息苦しさで目を覚ました。

気づけば、なぜかベッドの上で寝ていて、しかも両脇からはともえとサディ、足元にはシンがしっかりと張りついていた。

三人の寝相は、もはや抱きつくというより「捕まえる」に近い。


「……また痺れるやつ、か……」


小さくつぶやきながら体を動かそうとしたが、がっしりとホールドされていて脱出は難しそうだった。

昨日よりさらに熟睡しているようで、ゆすってもピクリともしない。


やがて朝の気配が部屋に差し込んでくる。

誰一人起きてこないことを不審に思ったのか、ノンナが部屋の扉を開けて入ってきた。


アルムはノンナに目を向け、わずかにまばたきしながら助けを求める。


(たすけろー……)


その目の合図を受け取ったノンナは、ほんのり笑みを浮かべて三人に声をかけた。


「そろそろ起きましょうか。朝ですよ」


ようやく三人はむにゃむにゃと目を覚まし、順にベッドから体を起こす。


アルムはというと――

やっぱり手足がしっかりと痺れていた。


シンは眠たそうにまぶたを擦りながら、ぼそっと呟いた。


「すいません……ノンナ様。付き人なのに、起こしてもらって……」


気まずそうにしながらも、なんとか礼を言おうと声を振り絞っていた。


そのまま五人は、ノンナが用意していた朝食を囲んで席につく。

ともえは、昨日サディに教わったマナーを必死に思い出しながら、こぼさないようにゆっくりと食べていた。

小さな手で器を持ち、慎重に口元に運ぶ姿はまるで修行僧のようだった。


四人が先に片付けを済ませた頃、ともえだけがまだ真剣な表情で朝食を続けていた。


そのタイミングで、ノンナがふっと立ち上がり、声をかける。


「今日は、剣の訓練をしてもらおうと思います」


一拍置いて、続ける。


「実は、私は今日一日、外に出なければならなくて……」


そして最後に、優しくシンとサディに視線を向ける。


「シンさん、サディさん。お願いできますか?

二人とも剣の訓練経験があると思うので、地下を使ってください」


「はい」とシンがしっかりと返事をしたが、

その横ではまだ、ともえが一口ずつ、真剣な表情で食事を続けていた。


ともえが……ゆっくりと朝ごはんを食べ終えるみて、ノンナは静かに家を出ていった。


「わたし……きょうも……ちゃんと……たべれた……!」

ともえは、サディの隣を歩きながら、少しだけ誇らしげに声を漏らした。


「……えらい、よ……」

サディは、いつもの調子でぽつりと返す。


四人はそのまま地下の訓練場へ向かう。涼しい空気が、石の階段を通って肌を撫でてくる。


「アルムは剣、触ったことある?」

地下へ降りながら、シンが振り返って尋ねた。


「魔法の研究はしてたけど……剣は、ないかも」

アルムは少し考えたあと、肩をすくめて答えた。


すると、シンが無言で剣を一本渡してきた。次の瞬間、迷いなく斬りかかってくる。


アルムは体をひねり、その一撃をかわした。

「急に切りかかってこないでよ……危ないじゃん」


シンは剣を握ったまま、動けなくなった。

(なんで……今の一刀が外された?)

(まっすぐ振り下ろした。重さも距離感も悪くなかったはず……なのに、この子は——)

(剣なら勝てると思ったのに……)


悔しさがこみ上げ、もう一度構えようとする——


「……しん…… それ、 くんれん……じゃ ない……」

サディが、前に出て静かに言った。

「くんれん……なら、 もぎとう……で いい……し」


シンははっと我に返り、剣を下ろす。

「……ごめん」


アルムは何も言わず、手にした剣を眺めていた。

(剣術か……べつに、剣術じゃなくてナイフくらいの刃渡りでいいんだけどな……)


ともえは模擬刀を持って、やる気満々だった。

サディは、剣の持ち方や振り方を、ゆっくりと教えていた。


「これ……にぎって……こう、ふるの……わかる……?」

「うん……わかった……!」


その様子を横目に、シンはアルムのところへ来て、少しだけ頭を下げた。


「さっきはごめん。俺、焦ってた」

そのまま、少し間を置いて尋ねた。


「握り方とか、振り方とかわかる?」


アルムは、手に持った刀を眺めていた。


「だいたい……今の一刀見て、わかった気がする」

「刀に魔法って混ぜていいの?」


「混ぜていいけど……まずは基礎から、だな」


(基礎とかめんどくさいな……)

そう思いながらも、アルムはシンの言う通り、黙って基礎から教わっていた。


そうして、しばらくの時間が過ぎたころ――


「ねぇ……シン、と サディって……どっちが つよいの……?」


ともえが、刀を抱えながら首をかしげて聞いた。

サディはすこし考えてから、ふわっと答えた。


「たぶん……わたし、だと おもう……」


それを聞いたシンが、すぐに笑って返した。


「エルフに剣で負けるわけないよ」


その言葉に、サディの眉が少しだけピクリと動く。


「じゃあ……もぎせん、する……?」


「いいよ。怪我しても知らないよ?」


ふたりは模擬刀を持って、互いに正面へ向かい合った。


シンはゆるく構えた。


(いつも通りと手抜いても勝てるでしょ。相手エルフだし)


サディはまっすぐな構えで、真剣な眼差しをしていた。


その少し離れた場所で、アルムは刀を眺めながら、魔法を試していた。

(剣に魔法かけるって、こうかな……)

柄に触れて軽く魔力を流すと、刃が青くきらめいた。

(ふむ、筋力上げて振ってみるか)


アルムは何度か感触を確かめるように、模擬刀を振っていた。


サディが、視線から消えた。


(どこだ!? 下か!)


シンは瞬時に足元を見て、剣を振り下ろし――サディの一撃を防いだ。ギリギリだった。

距離をとる。(手を抜いてる場合じゃない……!)


でも――


「えっ……!?」


さっき距離をとったはずなのに、サディはもうそこにいた。

一瞬で間合いを詰めてくる。シンは反射的に剣を構える。


(防げ――)


だが、フェイント。

剣がつられたその瞬間、もう一方の手がくる!


(フェイント!?)


とっさに前へ出て、体ごとぶつかるようにサディをはじき飛ばす。


アルムは剣に魔法をかけて何度か振ってみたあと、興味を引かれたように、ともえの隣に腰を下ろした。


シンは(エルフって速いって聞いてたけど……ここまでとは……それに剣もうまい。サディ、普通に強いな)と思い少し驚いていた。


目の前では、再び距離を潰して詰めるサディに対し、シンが前に出る。


つばぜり合い――剣が互いにぶつかり合い、火花が散る。

力ではシンが優勢だった。だが――


サディが、ふっと力を抜いた。


(えっ?)


シンは、無意識にサディに体重を預けていたせいで、よろめく。

その隙に、サディが腰の短剣の模擬刀を抜き、切りつけようとする!


(くそっ――!)


ぐらついた足を踏み出し、サディの足を払う。

そのままサディを地面に倒し、馬乗りの体勢になり、剣の切っ先を首元へ――。


静寂が訪れた。


「……はい、シンの勝ち」


アルムが呟いた。サディは小さく息を吐き、微かに唇を尖らせていた。



サディは地面に座ったまま、少し唇を尖らせてつぶやいた。


「……あなたの いったとおり、ね……」


シンは息を切らしながら、額の汗をぬぐった。


(……久しぶりに、本気出したな。サディ、正直侮ってた。いつもふにゃふにゃしてるから……余裕で勝てると思ってた)


すると、ともえがアルムのそばに寄って、袖をちょこんとつまんだ。


「ふたり……つよい……。アルムも、もぎせん……やってみたら?」


アルムは剣を見下ろしながら、面倒くさそうに返した。


「なんで、私……。多分、魔法使っちゃうよ。」


シンは、肩で息をしながらアルムのほうを振り返った。


「じゃあさ……魔法使ったら負けってルールでやる? 

それなら、少しはフェアになるでしょ」


アルムは剣を持ったまま、じとっとした目でシンを見た。


「……それ、私が勝てるわけないじゃん。

今日、初めて剣、握ったんだけど?」


シンは少し笑み浮かべた。


「じゃあ、勝ったら“好きなお願い”ひとつ聞くってのは?」


その瞬間、アルムの表情がわずかに変わった。

さっきまでの“面倒そうな顔”が、ほんの少しだけ鋭くなる。


「……わかった。それならやる。

さっきのふたりの戦い見て、だいたい分かったし」


そう言って、アルムは剣を構えながら、ゆっくりと一歩前に出た。

その目は、先ほどまでとは違っていた。


アルムは、剣を構えたままぼそっと口を開いた。


「……ねぇ、魔法って、“攻撃魔法だけ”なしでいい?

それなら……別にいいけど」


シンは剣を持ち直しながら、苦笑い気味にうなずいた。


「反撃してこないなら、いいよ。

あとは――手加減してくれたら、ね」


その瞬間だった。


「……えっ?」


シンが言い終えるよりも早く、アルムの姿がふっと視界から消えた。

気づいたときには、目の前にいた。


「――っ!」


ドンッ――。

アルムの横なぎの一撃が、胴体めがけて飛び込んでくる。

シンはとっさに模擬刀を横に構え、防御に回る。


ガキィン――!


重く乾いた衝突音が、地下に響いた。

間一髪で防いだが、体が少し後ろに押し込まれる。


(なにこれ……速っ! しかも、重い!)


サディは、巻き添えを警戒してすぐにともえの近くへ駆け寄った。

ともえも目をまんまるにして、じっと戦いを見守っている。



「……チッ、仕留められなかった」


すぐに、次の動きを読んだ。

(このあと、距離を取るために――蹴りがくる)


予測は的中した。

腹に鋭い蹴りが飛んでくる。


しかしアルムは、蹴りの威力よりも、その“軸足”に注目していた。


「――そこっ」


支えになっていた足を、低くすくうように蹴る。

さっきシンがサディにやったように。


シンの身体が一瞬浮いた――

けれど後ろにとんでいた。そして転がるように着地した。


(……!? 蹴りはブラフ!?)


アルムは剣を持ち直す。

息が、少しだけ乱れていた。


(私……今まで、いつも初撃で終わらせてた)


魔物もいつも、最初の一撃で仕留めてきた。


それは、自分の魔法が強かったから。

相手が動く前に、終わらせることができたから。


でも今は――

その魔法は使えない。


(どうやって……勝てばいいの)


初めて、そう思った。


シンは、間合いを詰めてきた。

アルムは落ち着いていた。シンが何をしてくるのか、じっと見極めようとしていた。

(さっきのシンみたいに、攻撃を受けて返せば――)


だが、シンはただ突っ込んできた。

剣に意識がいっていたアルムは、一瞬だけ反応が遅れた。吹き飛ばされる。


「っ……!」


その瞬間、シンは(アルムでも始めてだとこの程度か)と心の中でつぶやきながら、勝ちを確信して模擬刀を大きく振りかぶった。


だが、空中に投げ出されたアルムは即座に魔法で身体を浮かせ、体勢を立て直す。

振りかぶったシンの模擬刀が見えた瞬間、アルムはすっと足を伸ばした。


(それ、やると思った)


空中からの勢いを乗せて、アルムはシンの模擬刀を蹴り飛ばした。

剣が手から離れる。

そのまま、アルムは空中を滑るように移動して、シンのすぐ目の前まで来る。


シンがまだ何もできないうちに、アルムは模擬刀の切っ先を、シンの首もとにすっと当てていた。


「……しょうぶ、あり だよ」


静かに、サディが言った。

ともえは、ぽかんとした顔で二人を見ていた。


アルムは、地面に着地したあとも、その場で膝に手をついて息を整えていた。

(……こんなに息切れたのはじめてだ)


シンは、少し離れた場所で座り込みながら笑っていた。

「まさかあの状況で、体勢立て直さずに模擬刀に蹴りを入れてくるとはな。……アルムの発想力には完敗だな」


ともえが、横でぽそっと呟いた。

「……わたしも、できるかな……三人みたいなこと……」


それに気づいたサディが、ともえに近づいて、

「……できる、よ。ゆっくり、やれば いい……」

と、小さく微笑んだ。


そのやりとりを見ながら、アルムは立ち上がって言った。

「……勝ったから……はい、約束。今日の夜は、各自、自分の部屋で寝ること……」


息を切らしながら、それでもいつもの口調で念を押す。


ともえは目を丸くして、

「ふぇ~~~……」

と、情けない声をあげて、肩を落とした。


サディは少し笑いそうになって、手で口元を押さえていた。


そしてアルムが地下から上がろうとすると、三人も後を追うように階段をのぼってきた。

そのまま四人で並んで風呂に入り、湯気の中で笑い声を交わしながら一日の疲れを流した。

風呂から上がったあとは、ノンナが帰ってくるまでの時間を使って、皆でリュサニア語の勉強をすることにした。

やがて玄関の扉が開き、ノンナがひとり静かに帰宅する。

それを合図に、五人は、揃って食卓につき――温かな夕食を囲んだ。


その夜。

三人が、いつものようにアルムの部屋に向かおうとするとアルムが言った。


「今日は、自分の部屋で寝る約束でしょ」


その一言に、三人は揃って顔を見合わせ、ほんの少しだけ残念そうな表情を浮かべた。

しぶしぶとそれぞれの部屋へと引き返し、今夜は久しぶりに、誰にも邪魔されない静かな夜が訪れた。

今回も最後まで読んでくださってありがとうございました!


ちょっとだけ裏話を――

アルムが一瞬で間合いを詰めてきたあの動き。

実は、風魔法などの複数の魔法を併用して、移動速度を強化していました。

サディ(エルフ)並、あるいはそれ以上の速さで距離を潰せたのは、その応用によるものです。


また、シンが“重たい斬撃”を受け止めたときの衝撃。

あれは筋力を増強する魔法(筋繊維活性)の効果で、アルムは瞬間的に筋力を底上げしていました。

いわば魔法によるドーピングのようなもので、慣れてない人が使えば確実に筋肉痛、最悪翌日は動けなくなります(笑)


こうした魔法の応用や“複数魔法の組み合わせ”は、今後の戦闘や日常でも少しずつ出てきますので、

「どこまで応用が効くのか」「アルムはどこまで狙ってるのか」、ぜひ想像しながら楽しんでもらえたら嬉しいです!

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