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その後73 (十二の使徒と御守の力)


 午後二時――カミラ山の麓。


 他と比べれば標高が高いが、それでもひたすら森が続き雪が積もった、何の変哲もない田舎の山。


 そんな場所に急に十六芒星と円が光とともに浮かび上がり、その中からセオドリックとノートン。近衛兵が現れる。


 コーラたちについては冷徹に足手まといと判断したセオドリックが、近衛兵数名に護衛させ、現在、仮住まいの屋敷に彼女たちを送るよう命令した。


(あのままロウリュにいれば敵がまた接触しないとも限らないからな……?)


 王太子の自分がいなければ、相手にとって余計に動きやすくなる。

 ……ならば完全に安全といえる場所で控えてもらうのが一番だろう。


「――よし、では始めるかな」


 セオドリックは彼らを呼び出す。

 それは彼の忠実なる下僕。

 


(私の使い魔、十二匹の揃い踏みだ)



 いつもなら一度に動かすのは最高三匹まで、……それを全員呼び出すのはセオドリックですら初めての試みだった。

 すぐ近くに居たものから、遠く王都で留守番をしていた者すら呼び出す。

 そんな使い魔が千里を星の尾を引いて駆け、一瞬にして忠誠を誓うセオドリックの元へと集結する。


 セオドリックがパチンッと指を鳴らせば、不可視状態は解除され、一見愛らしい小動物十二匹が姿を現した。


「……………………」


 なのに、近衛兵達からは本能的な緊張が走る。

 そう彼らは、ただの小動物ではない。

 本来は立派な、魔獣……或いは魔物なのだ。


「殿下……もしや……」


「ああ、彼らに捜索してもらう」


「しかし、秀でた使い魔といえど十二匹では……!」


「ああ、十二匹では心許ないな……」


 セオドリックはそう言い、古ローゼナタリア語で使い魔に命じる。


「ピュウピュウ……ピ、ピュウ!」

「プルるるる」

「フィン……フィン……」


 それにそれぞれの鳴き声で返事をする彼ら。

 そうしてシュンとどこへ行ってしまった。


 ――二十分後。


 カミラ山麓に軽い地震のような地響きが鳴り、現れたのは――。


 山ねずみ数千から数万、山烏や山中のあらゆる小鳥、ウサギや狐などのあらゆる山を覆い尽くさんばかりの動物たち!!

 その動物たちはどれも金や赤、緑などに目を光らせ操られている――。


(……動物は本能的に“魔”に魅せられる……。ゆえに私の使い魔はいずれも野生動物を長くない時間なら服従させ、使役することが可能……)


 が、その負担は勿論、術者のセオドリックへと返ってくる。


(ぐっ……頭がガンガンして息がしづらい……早すぎる不整脈に、身体中が軋んで痛い。これでは世紀の天才魔法使いでもある私が形無しだな? ……とはいえ――)


 ――今使わずにいつ使う!?


 残されていたアニエスの鞄を放り投げると、一斉に動物たちが匂いを嗅ぐために鞄を囲い、目に見える地面が全て毛に覆われ、そこから動物が風の様に走り出す。


 見つけたら従属している各使い魔に知らせ、使い魔に同期したセオドリックが一瞬にして状況を把握する仕組みだ。


「はあ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 十二匹のコントロールと同期にセオドリックの息が上がる。

 そんなセオドリックの大粒の額の汗をノートンが(ぬぐ)う。


 そんな中、入り口がついに見つかった!


「……みつけたぞ!」


 直ちに近衛兵複数に転移陣を作らせ、そこまで移動する。だが――。


「……こ、これは」


 ノートンが絶句する。

 その出入り口は湖の底に沈んでいた。

 どうやら昔はこの水が抜ける仕組みがあった痕跡が見えるが、わざとシステムが破壊されもう二度と水が抜けないようになっている。


「おまけに湖は半分凍っているし……しっちゃかめっちゃかな結界が無秩序に張られております!」


 犯人グループの規則性ない素人の下手くそな結界が幾重にも重なり、意図せず逆に解くのが困難になっている。

 ここが元々の出入り口だったのは間違いない。


「ロドリス嬢の予想どおり、他の人間が二度と使えぬ様に潰したんだろう……」


「正式な出入り口はもう残されてはいないんでしょうか!?」


 絶望を覚える中、別の使い魔からの信号をセオドリックはキャッチする。


「ノートン! 諦めるのはまだ早い……他の入り口を発見したぞ!?」


 セオドリックたちはさらに転移陣で飛んだ。

 だが、それは……!


「……何て魔圧でしょうか!?」


「廃ダンジョンすら珍しいのに、まさか一部が完全に

生きてるとは」


 入り口はあった。

 しかし扉には厳重な鍵が掛かっていた。

 鍵の条件はただ一つだけ……それはエルフの血!


「けれど片方は開いてた……いろいろ試すだけ試すぞ!」


 セオドリックはそう言い、部下に命じ、魔法の連射、銃火器の連射、体当たりなど思いつくだけのこと全てやってみる。

 ……だが、エルフの作りし扉はそんなことではビクともしない。

 それどころか傷の一つ付けられない……。



(万事――休すなのか――!?)



 セオドリックはうな垂れて目を固く閉じ、扉に拳をどんと打ちつけた。

 

(―――アニエス……!)


 彼女の顔が脳裏に浮かぶ。


 微笑む彼女。

 怒る彼女。

 驚く彼女。

 それから―――。



(殿下のその御身と御心にいつでも光と―――)



 ハッと目を見開く。


(…………今浮かんだ顔と言葉は、あの時の)


 セオドリックは懐に忍ばせたロケットを取り出して開いた。

 そこには、何時ぞやアニエスから御守代わりに貰った一房の白金髪。


(エルフの血が鍵と言うのであれば………もしや!?)


 アニエスはクォーター・エルフだ。

 エルフの血そのものが濃くない上、ましてや髪の毛ならその痕跡は血よりもかなり薄いだろう。

 

 それでもセオドリックは一縷(いちる)の望みに賭け、扉の真ん中に付いた青い石に、ロケットを強く押し付ける。



「………………」



 反応が無い。



「やっぱり………………無理か?」



 そう諦めかけたその時……青い宝石がキラリと煌めき、シュルンとロケットに収まる髪の毛をあっと言う間に吸い込んだ。


「…………!?」


 ゴゴゴゴゴと地響きが辺りに鳴り響く。

 扉の模様が……パズルのように動き出す。

 ガチャガチャガチャと色や形が揃うごとに扉の一部が消えた。


 そうして全部が揃ったその時。


 眩しい光が放たれた、扉そのものが浄化するようにパーッと消失し……扉がなくなると、そこは無防備な先へと続く入り口だけとなった!



「殿下……入り口が……!」



 ノートンが息を飲む。



「全く……アニエスはまた一つ、非常識をやりおおせたみたいだな?」 



 そうセオドリックは呆れたように笑うと、その足をダンジョンへと大きく一歩、踏み出したのだった。


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