表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/87

第七十四話「焼き付きと暴走」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第七十四話「焼き付きと暴走」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 三日目の朝。


 渉が壁面の打音検査を終えた。


「昨日の対処が効いています。変化が止まりました。今日は重機を稼働させても問題ない」


 DTSの先頭の男が「稼働の許可をいただけますか」と言った。


「稼働してください。ただし今日も俺が打音確認を続けます」


「了解です」



 重機が動き始めた。


 高周波の振動が第八層に広がる。


 渉は壁を確認し続けた。


 一時間、問題なかった。


 二時間目に入った。


 その時、勇馬が走ってきた。


「渉さん! 重機から変な音がしてます!」


「どんな音ですか」


「キィィィという、高い音です。ベアリングが……」


「重機を止めてください!」



 しかしDTSのオペレーターが止める前に。


 重機の側面から、白い煙が噴き出した。


 ベアリングが焼き付いた音がした。


 ガリガリガリ、という金属が削れる音。


 その後、重機の出力が突然上昇した。


 制御系が損傷した。


「制御不能です!」とオペレーターが叫んだ。



 重機が過出力状態に入った。


 高周波パルスが無制御で放出され始めた。


 第八層の床が、熱を帯びた。


 壁面の金属が、高周波で振動を始めた。


 コアが共鳴し始めた。


「コアが反応してます!」とメイが叫んだ。「エネルギーの吸収が……追いつかない!」


 渉は重機を見た。


 過出力の重機。損傷した制御系。


「電源を物理的に切断します。誰かコアを離れてください! 高圧になってる!」



 DTSの作業員たちが後退した。


 渉は重機に近づいた。


「マスター、危険だ」とゴールドが言った。


「わかってます。でも電源を切らないとコアへの汚染が進みます」


「俺が行く」


「お前が近づくと共鳴が起きる。俺が行きます」



 渉は重機の側面に回った。


 熱気が強い。作業手袋が必要だ。


 バッグから耐熱グローブを出した。


 重機の外装を確認した。


 電源系統のアクセスパネル。ボルト四本で固定されている。


「勇馬、このパネルを押さえてください。俺が外します」


「わかりました!」



 渉がインパクトレンチを当てた。


 ヴィィィィ。


 熱い。グローブ越しにも熱が伝わる。


 一本、二本、三本。


 四本目。


 ぎぎぎ……パキィッ。


「外れました!」と勇馬が言った。


 パネルが開いた。


 内部に、主電源のブレーカーが見えた。



 渉は電源ケーブルを確認した。


 コアに近い側から電力が供給されていた。


 バール(中)を取り出した。


 ケーブルの固定クランプに当てた。


「離れてください!」


 渉はバールを叩きつけた。


 ガン。


 クランプが外れた。


 ケーブルが抜けた。


 重機の唸りが、急に静まった。



 高周波パルスが止まった。


 コアの共鳴が、収まり始めた。


 渉は立ち上がった。


 グローブを外した。


 耐熱グローブの表面が、少し焦げていた。


「……止まりました」


「渉さん! 手は!?」とメイが駆け寄った。


「問題ないです。グローブが守ってくれました」



 DTSの先頭の男が来た。


「……申し訳ありませんでした。我々の機器の管理が……」


「起きたことは仕方がない。今はコアの汚染度を確認します」


「汚染?」


「高周波が過出力でコアに入りました。エネルギーの変質が起きているかもしれない。メイさん、確認をお願いします」


「今すぐやります」



 メイが三分かけて確認した。


「……汚染は軽微です。コアの自浄機能が対応できる範囲内です。ただし」


「ただし?」


「この程度の汚染が、週に一度以上起きると自浄が追いつかなくなります」


 渉はメモ帳に書いた。


「わかりました。記録しておきます」



 DTSの先頭の男が「この重機は修理できますか」と言った。


 渉は重機の損傷状態を確認した。


「ベアリングの焼き付き。制御系の基板の過熱損傷。電源ケーブルの接続端子の焼け。修理に必要な部品を調達すれば、三日から五日で直せます」


「……あなたが直せるんですか、これも」


「機械です。直せます」


 男が渉を見た。


「……なぜ、自分の現場を荒らした重機を直そうと思えるんですか」



 渉は重機を見た。


「機械は悪くないです。使い方が間違っていただけです。直せば、正しく使える機械になります」


「我々のことも……そう思っていますか」


「使い方が間違っていた、ということであれば、そうです」


 男がしばらく黙った。


「……正直に言います。今回、渉さんの言うことを聞かなかったのは、上から圧力があったからです。現場の我々は、止めるべきだと思っていた」


「それを、上に伝えましたか」


「伝えました。でも聞いてもらえなかった」


「石倉さんに相談してください。データがあれば、石倉さんは動けます」



 その夜、渉は損傷した重機の修理計画を立てた。


 必要な部品のリスト。調達先。作業時間の見積もり。


 全部、メモ帳に書いた。


 勇馬が「なんで修理するんですか」と聞いた。


「壊れてるから」


「DTSの機械ですよ」


「関係ないです。壊れてるものを放置するのは、俺には無理です」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           〈第七十四話 了〉

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【次話予告】

 渉が重機を直し始めた。

 DTSの若い技術者が横で見ていた。

 「……弟子にしてください」

 渉は手を止めずに言った。

 「先に部品を取ってきてください。そこのバッグの中に部品リストがあります」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【あとがき】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 第七十四話、お読みいただきありがとうございました。


 重機の焼き付きと暴走のシーンは、現実の機械トラブルをベースにしています。ベアリングが焼き付くと、機械は制御不能に向かいます。正常な機械は適切な負荷と温度管理の上で動く。それを超えると、まず音が変わる。勇馬がその音を聞き分けました。打音検査の訓練の成果です。


 「機械は悪くない。使い方が間違っていただけです。直せば、正しく使える機械になります」という渉の言葉。これは重機だけの話ではないですね。DTSの人間たちへの渉の評価も、同じです。使い方を間違えていた。でも、直せる。


 「壊れてるから」という修理の理由。これが渉の全てです。DTSの機械だろうが、先代の装置だろうが、ゴールドだろうが、渉の目には全部同じに見える。「壊れているなら直す」。それだけです。


                   (作者)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ