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第六十七話「JDAの黒い工務店」

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第六十七話「JDAの黒い工務店」

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 渉が帰還した三日後。


 第八層に、見慣れない集団が降りてきた。


 作業服を着た十二人。全員、同じロゴの入った服だ。「ダンジョン・テクノロジー・ソリューションズ(DTS)」と書いてある。高機能な測定機器、大型の工具ケース。どれも値段が高そうな機材ばかりだ。


 先頭の男がゴールドに向かって言った。


「JDA技術開発部・応用チームの委託企業です。この装置の解析を開始します」



 勇馬が前に出た。


「待ってください。この装置は渉さんが整備した管理物件です。許可なしには……」


「渉氏は地上に帰還済みです。当装置の管理権は失効しています」


「失効なんてしていません。整備記録があります。管理棟の田所さんに……」


「田所さんの管理権限は第七層まででした。第八層は我々が直接管轄することになりました」


 書類を出した。


 JDAの公印が押された文書だった。



 メイが来た。


「何の作業をするんですか」


「装置の解析と最適化です。帰還装置としての機能より、エネルギー抽出システムとしての利用可能性を検討します」


「エネルギー抽出……」


「ダンジョン内のエネルギーを地上に供給するシステムです。国家インフラへの応用が検討されています」


「そのために、今の設定を変えるんですか」


「最適化します」



 DTSの作業員が装置に近づいた。


 ツールケースを開いた。


 高価なソケットレンチセット。インパクトドライバー。


「まずサスペンションユニットを取り外します。振動吸収の機能はエネルギー抽出には不要です」


 勇馬が「待ってください」と言った。


「何を待つんですか」


「そのサスペンションは、ゴールドの維持エネルギーを守るために設置されています。外したら、起動時の振動でゴールドが消えます」


「ゴールド……あの守護者ですか」


「そうです」


「守護者の維持については……別途対応します。今は装置の解析が優先です」



 作業員がボルトに手をかけた。


 ソケットを当てた。


 右回りに回した。


 バキン、という音がした。


 ボルトの頭が削れた。


「……あ」と作業員が言った。


「左ネジです」とメイが言った。


「……え?」


「そこは左ネジです。渉さんがそう設計しました。左に回さないと外れません」


 作業員が手を止めた。



 メイは続けた。


「渉さんの整備した装置には、随所に左ネジや特殊トルクのボルトが使われています。設計図を見ないで作業すると、必ずどこかで失敗します」


「設計図は……」


「NDIの研究部門で管理しています。私の部門です」


 先頭の男がメイを見た。


「それは開示できますか」


「開示の申請は受け付けますが、審査に二週間かかります」



 作業は一時停止になった。


 DTSのチームが上と連絡を取り始めた。


 勇馬がメイの横に来た。


「……二週間、稼ぎましたね」


「渉さんに倣いました。私のできる範囲で、書類で時間を稼ぐ」


「石倉さんの真似ですか」


「石倉さんと渉さんの両方から学びました」



 しかし問題があった。


 DTSがゴールドのサスペンションを「不審な外付け部品」と判断して、上層部に報告を上げていた。


 翌日、勇馬のスマートフォンに通知が来た。


「JDA技術部からです。サスペンションユニットは二日以内に撤去すると」


「二日……」


「設計図の審査より、撤去の方が早く決まった」



 夜、勇馬は一人で第八層に降りた。


 ゴールドが壁際に立っていた。


「ゴールド、聞こえてますか」


「聞こえている」


「サスペンションが外されるかもしれません。そうなったら、起動時に……」


「わかっている」


「怖くないですか」


 ゴールドが少し間を置いた。


「我が恐れを感じるかどうか、難しい問いだ。しかし、消えることより、渉の仕事が壊されることの方が……なんと言うか、腑に落ちない」


「腑に落ちない」


「そうだ。あれほど丁寧に直してくれたものを、理由も確認せず外す。それが……気に入らない」



 勇馬はメモ帳を取り出した。


「渉さんに連絡する方法、今はないですか」


「帰還装置を逆走すれば、渉の元に連絡が届く可能性があるが、現状は封印されている」


「……別の方法は」


「マスターが工夫すれば、何かあるかもしれない。あの者はそういう人間だ」


 勇馬は少し考えた。


「渉さん、もう動いてる気がします」


「そうだな」とゴールドは言った。「あの者が、完成していない現場を放っておくはずがない」



 品川の夜。


 渉はコンビニで買ったコーヒーを飲みながら、廃工場の前に立っていた。


 田中と並んで、外から建物を見ていた。


「やっぱり気になるのか」と田中が言った。


「気になります」


「ニュースで、第三ダンジョンの活性化がさらに増えてるって言ってた。何かあったのか向こうで」


「わかりません。でも、俺がやった仕事に何かが起きてる感じがします」


「職人の勘か」


「そうです」


「……どうする」


 渉はコーヒーを一口飲んだ。


「まず向こうと連絡を取る方法を作ります。それから判断します」


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           〈第六十七話 了〉

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【次話予告】

 渉はホームセンターと電子部品店を回った。

 「アマチュア無線の周波数帯を、ダンジョンの固有振動数に合わせれば……」

 田中が「頭おかしくなったか」という顔をした。

 「理屈は通ってます」と渉は言った。



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【あとがき】

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 第六十七話、お読みいただきありがとうございました。


 「左ネジです」というメイの一言が今回の核心です。


 渉の整備は、単に機能するだけでなく、勝手に触れないための工夫が随所に入っている。これは整備士の「現場の知恵」です。自分が管理する装置に、後から素人が乱暴に触れないための設計。左ネジはその一例です。渉は自分が去った後のことも考えて整備していた。


 「腑に落ちない」というゴールドの言葉。感情豊かな表現ではないですが、これがゴールドなりの「怒り」だと思います。自分が消えることより、渉の仕事が雑に扱われることの方が気に入らない。これは渉から受け取ったものだと思います。仕事を大切にすること。


 「あの者が、完成していない現場を放っておくはずがない」というゴールドの言葉。誰よりも渉のことを理解している。


                   (作者)

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