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第四十四話「現場の錬金術:廃盤パーツのニコイチ修理」

現在同時連載で「 詠唱破棄?いいえ、即興フリースタイルです。  〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜 」を1日1話投稿しています。よろしければそちらも読んでください。

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第四十四話「現場の錬金術:廃盤パーツのニコイチ修理」

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 管理センターの大型空調が止まったのは、五月の初旬だった。


 気温はまだそれほど高くなかったが、地下のダンジョンから戻ってくる探索者たちにとって、休憩室の空調は重要なインフラだ。


 修理業者が来て、三時間かけて診断して、見積もりを出した。


「基幹コンプレッサーユニットの交換が必要です。メーカー取り寄せで、工賃込みで三百二十万ほど」


 田所が青ざめた。


「……三百万」


「はい。このモデルはもう廃盤なので、対応する互換品を探すことになります。納期は最短で三ヶ月」


「三ヶ月……」


「ご予算や納期の都合が難しければ、全交換という選択肢もありますが、そちらはさらに費用がかかります」



 渉はそのやりとりを、廊下の端で缶コーヒーを飲みながら聞いていた。


 業者が帰った後、田所が疲れた顔で渉に言った。


「聞いてましたよね」


「聞いてました」


「三ヶ月、空調なしは……この夏は地獄ですよ」


「廃盤ってことは、同じ設計のものが他にあるかもしれないです」


「同じ設計?」


 渉はスクラップ置き場の方向を見た。


 管理センターの裏手に、回収した機兵の残骸を一時保管しておくヤードがある。


「……あそこの機兵の残骸、コンプレッサー部分が生きてるやつがいくつかあったな」


 田所が渉を見た。


「……まさか」


「見てきます」



 スクラップヤードで、渉は残骸を一つずつ確認した。


 機兵のコンプレッサー部分は、エネルギーを機械的な圧力に変換する機構だ。原理は現代の空調コンプレッサーと基本的に同じだった。圧縮→循環→熱交換。やっていることは同じだ。


 三体目の残骸で、目当てのものを見つけた。


 胴体部分は潰れているが、右側面のコンプレッサーユニットだけが無傷で残っている。サイズも、管理センターの空調の基幹ユニットと近い。


 渉はノギスを取り出した。


 計測した。


「……接続部のフランジ径が合わない。でも、ここを加工すれば……」



 工房に持ち帰ったコンプレッサーユニットを、渉は作業台に置いた。


 メイが来ていた。


「また面白そうなことをしてますね」


「空調の修理です。コンプレッサーを流用できるか試してます」


 メイがユニットを見た。


「これ、機兵の動力系のパーツですよね。空調に使えるんですか」


「原理は同じです。ただ、接続部の規格が合わない。エネルギーの入力系も、空調側はAC電源想定で、こっちはエネルギー直結型です。そこをどう繋ぐかが問題で」


 メイが少し考えた。


「入力系のコンバーターを作ればいいんですか」


「それができれば解決します。でも俺には電気系の精密な組み替えは難しい」


「……私にはできます」



 メイが研究用のバッグから精密工具を出した。


「エネルギーの入力制御は、私の専門の一つです。変換効率を合わせれば、理論上は動くはずです」


「本当にできますか」


「試してみないとわかりませんが……一緒にやりましょう」


 渉はメイを見た。


 メイは眼鏡を直して、真剣な顔をしていた。


「渉さんが機械を加工して、私がエネルギー制御系を整える。得意分野が違うから、どちらか一人ではできない作業です」


「……頼みます」



 作業は翌日の朝から始まった。


 まず渉が接続フランジの加工をした。


 バラムから借りた小型旋盤と、自作のアダプタープレートを使って、フランジ径を管理センターの空調配管に合わせて成形する。


 削っては計測する。削っては計測する。


 ノギスを当てるたびに、コンマ数ミリの差を確認して、また削る。


 四時間かけて、フランジ加工が完成した。


 次にメイが入力制御系の組み替えをした。


 精密はんだごてを使って、エネルギー変換回路を新たに設計する。渉のユニットに適した電力変換効率になるよう、何度も数値を調整する。


「……ここ、0.3ボルト足りないですね」


「どうします」


「抵抗を一個追加します。渉さん、この端子に半田を流してもらえますか」


「場所は?」


「ここです」メイが指した。「細かいですよ」


「わかりました」



 渉がコテ先を当てた。


 メイが隣でエネルギーを安定供給する。


 ハンダが静かに流れて、端子が接合した。


「……きれい」とメイが呟いた。


「普通のハンダ付けです」


「普通じゃないです。この精度で0.5ミリ以下の端子に……」


「集中してるだけです」



 組み上がったコンプレッサーユニットを、管理センターの空調配管に接続した。


 渉が接続部のボルトを全数締めた。


 カチッ、カチッ、カチッ。


 メイが変換回路の電源を入れた。


 ユニットが唸り始めた。


 最初は荒削りな音だった。しばらくして、落ち着いてきた。


 安定したコンプレッサー音。


 渉は空調の吹き出し口に手を当てた。


 風が出てきた。


 冷たかった。


「……動いた」



 田所が駆け込んできた。


「動いてる!?」


「試運転中です。一週間様子を見て、問題なければそのまま使えます」


「三百万の修理が……」


「部品代はゼロです。加工の時間は二日かかりましたが」


 田所は吹き出し口に手を当てた。


 確かに風が出ていた。


「……材料費は?」


「残骸はどうせ廃棄するやつなんで」


「工賃は?」


「俺の仕事のついでです」


 田所がしばらく渉を見た。


「……あなた、本当に何者なんですか」


「清掃員です」



 その夜、工房でメイが言った。


「今日の作業、楽しかったです」


「そうですか」


「私だけではできないことを、渉さんがいてできた。渉さんだけでもできないことを、私がいてできた」


「そうですね」


「こういう仕事、好きです」


 渉は道具の手入れをしながら答えた。


「俺も好きです」


 メイが少し顔を赤くした。


 渉は気づかなかった。


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           〈第四十四話 了〉

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【次話予告】

 空調が直り、管理センターに「日常」が戻ってきた。

 ダンジョン内に自生する発光植物が一斉に花を開く季節。

 勇馬が渉の前に立った。

 「……掃除のやり方を、教えてください」


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【あとがき】

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 第四十四話、お読みいただきありがとうございました。


 今回のテーマは「ニコイチ」です。


 ニコイチとは、壊れた同型品二台の使える部品を組み合わせて、一台を完動品にする技術のことです。自動車整備や家電修理の現場では昔から使われる手法で、今もプロの間では現役の技術です。


 渉とメイの共同作業を書きたかった話でもあります。二人の「得意なことが違う」からこそ、一緒にやることで初めて完成する。これは今後の二人の関係性を象徴するシーンでもあります。


 「こういう仕事、好きです」→「俺も好きです」という短い会話が、この話のすべてだと思っています。渉は道具の話として言っている。メイは二人で作る時間として言っている。同じ言葉が、全く違う意味を持っている。それに気づかない渉がいる。


 三百万の修理が廃材でゼロ円になる、という展開は、現実の工場や整備現場でも起きることです。「捨てるパーツに価値を見出す目」は、本物の職人の持つ最大の武器の一つだと思っています。


                   (作者)

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