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第四十二話「機兵の持病と、バール一本の検品」

現在同時連載で「 詠唱破棄?いいえ、即興フリースタイルです。  〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜 」を1日1話投稿しています。よろしければそちらも読んでください。

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第四十二話「機兵の持病と、バール一本の検品」

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 翌日。


 渉が第四層への降下ルートを歩いていると、前方から爆発音が聞こえた。


 続いて怒声。


 続いて、何かが金属壁を叩く音。


 渉は缶コーヒーを一口飲んで、足を速めた。



 広間に出ると、勇馬たちがいた。


 機兵は一体。高さ三メートルほどの四腕型。胸部のエネルギー制御回路が赤みがかった発光をしており、動力は充填されている。


 問題は、勇馬たちの攻撃が全く通っていないことだった。


 最新鋭の魔導アーマーに換装したスキル出力が、機兵に当たって弾かれる。物理攻撃も同様だ。機兵の外装が、高密度に帯電しているらしく、あらゆる攻撃を表面で受け流している。


「くそっ、なんで効かないんだ!」


「センサーは反応してる。出力は十分なはずなのに……!」


 渉は広間の入り口に立って、機兵を見た。



 聞こえた。


 機兵の関節部分から、かすかな異音が。


 コツン、コツン、という微細な打音。動作するたびに、わずかなリズムのズレがある。


 渉は缶コーヒーを飲み干して、ポケットに入れた。


「ちょっとすみません」


 勇馬が振り返った。


「また来たのか清掃員! 邪魔するな!」


「邪魔しに来たんじゃないです」


 渉は機兵を見ながら言った。


「それ、2番シリンダーのパッキンがイカれてる」


「……は?」


「エネルギーが内部で漏れてる。だから外装が帯電して攻撃を弾く。今の状態で出力を上げたら、エネルギーが逆流してバックファイアが起きる」


「バックファイア……?」


「自爆だ」



 勇馬が渉に詰め寄った。


「根拠は何だ。センサーは正常を示してるぞ」


「音です」


「音?」


「動くたびに関節から変な音がしてる。コツン、コツン、って。パッキンが歪んでクリアランスが変わると、こういう音が出る」


 勇馬が自分のセンサー端末を見た。数値は正常域だった。


「……数値は問題ないぞ」


「数値に出る前に、音が出る。機械はそういうもんです」



 その時、機兵が動いた。


 勇馬の仲間の一人が出力を上げたスキルを放った瞬間だった。


 機兵の胸部が、一瞬ゆがんだ。


 次の瞬間、機兵の右腕の関節部分から、白い蒸気が噴き出した。


 バン、という爆発音。


 機兵が右腕を失って、よろめいた。


「ほらな」


 渉は静かに言った。



 勇馬たちが後退した。


 機兵は右腕を失って制御が乱れていた。動きがぎこちなく、エネルギー制御回路の光が点滅している。


 渉はバッグを下ろした。


 バールを取り出した。


 機兵に近づいた。


「待て! まだ動いてるぞ!」と勇馬が叫んだ。


「わかってます」


 渉は機兵の左脚の外装に近づいた。


 バールの先端を、外装の継ぎ目に当てた。


 コン、コン、コン、と三回叩いた。


 音を聞いた。


「……左脚の駆動軸も怪しいな」


 バールの角度を変えて、軽く差し込んだ。


 ぎっ、という音。


 外装パネルが浮いた。



 そこからは三分だった。


 インパクトレンチで五本のボルトを外し、主動力ケーブルを一本切断した。


 機兵が静止した。


 渉は立ち上がって、バールを仕舞った。


 勇馬がぽかんとした顔で立っていた。


「……バール一本で……」


「急所がわかれば、どんな機械でも止まります」


「なんで急所がわかるんだ」


「音と、光の当たり方と、振動です。二十五年やってたら自然とわかるようになりました」



 渉は解体した機兵の部品を分類し始めた。


 ルーティンの作業だった。


 勇馬が渉の横に来た。


「……センサーより正確なのか、その耳は」


「センサーは数値を測る道具です。俺の耳は変化を聞く道具です。どちらが優れてるとかじゃなくて、用途が違います」


「変化を、聞く……」


「エンジンでも機兵でも、壊れる前に必ず音が変わります。その変化を聞き続けることが整備士の仕事です」


 勇馬がしばらく黙った。


「……俺、あんたに失礼なことを言いました」


「別に気にしてないです」


「気にしてくれた方が俺は楽なんですが」


「そうですか」


 渉は作業を続けた。



 夕方、管理センターに戻ると、田所が「今日も派手にやりましたね」と言った。


「普通の作業でした」


「第四層の機兵を単独で……しかも缶コーヒー飲みながら、って目撃情報があって」


「飲み干してから作業しました」


「それが問題なんですよ……!」


 田所は報告書のフォーマットを眺めて、額に手を当てた。


「どう書けばいいのか……『飲料を消費した後、バール一本で神話級機兵を無力化』?」


「正確な記述だと思います」


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           〈第四十二話 了〉

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【次話予告】

 JDA本部から視察官がやってきた。

 「清掃員の作業効率が通常の六倍というのは、データの入力ミスでは?」

 渉の工房の壁を、白いスーツの男がノックした。

 渉はコーヒーを飲みながら言った。

 「その壁、コンコンって叩いてみてください。空洞でしょう?」


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【あとがき】

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 第四十二話、ありがとうございました。


 今回書きたかったのは「センサーより耳が正確」という場面です。最新の機器が「正常」と言っている時に、職人の耳だけが「おかしい」と感じている。そしてそれが正しい。


 これは実際の整備士や機械系の職人さんたちに、本当にある話です。数値は「今この瞬間の状態」しか測れないけれど、音は「変化の傾向」を教えてくれる。この違いを書きたかった。


 勇馬が謝るシーンを入れました。彼は素直な子です。プライドが高くて言葉がきついけれど、間違っていたと思ったら謝れる。今後、少しずつ渉の「現場目線」を学んでいく役割を担う予定です。


 田所さんの「報告書どう書けばいいの」は、この作品を通じて一番書いていて楽しいセリフかもしれません。


                   (作者)

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