第四十二話「機兵の持病と、バール一本の検品」
現在同時連載で「 詠唱破棄?いいえ、即興です。 〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜 」を1日1話投稿しています。よろしければそちらも読んでください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第四十二話「機兵の持病と、バール一本の検品」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
翌日。
渉が第四層への降下ルートを歩いていると、前方から爆発音が聞こえた。
続いて怒声。
続いて、何かが金属壁を叩く音。
渉は缶コーヒーを一口飲んで、足を速めた。
◆
広間に出ると、勇馬たちがいた。
機兵は一体。高さ三メートルほどの四腕型。胸部のエネルギー制御回路が赤みがかった発光をしており、動力は充填されている。
問題は、勇馬たちの攻撃が全く通っていないことだった。
最新鋭の魔導アーマーに換装したスキル出力が、機兵に当たって弾かれる。物理攻撃も同様だ。機兵の外装が、高密度に帯電しているらしく、あらゆる攻撃を表面で受け流している。
「くそっ、なんで効かないんだ!」
「センサーは反応してる。出力は十分なはずなのに……!」
渉は広間の入り口に立って、機兵を見た。
◆
聞こえた。
機兵の関節部分から、かすかな異音が。
コツン、コツン、という微細な打音。動作するたびに、わずかなリズムのズレがある。
渉は缶コーヒーを飲み干して、ポケットに入れた。
「ちょっとすみません」
勇馬が振り返った。
「また来たのか清掃員! 邪魔するな!」
「邪魔しに来たんじゃないです」
渉は機兵を見ながら言った。
「それ、2番シリンダーのパッキンがイカれてる」
「……は?」
「エネルギーが内部で漏れてる。だから外装が帯電して攻撃を弾く。今の状態で出力を上げたら、エネルギーが逆流してバックファイアが起きる」
「バックファイア……?」
「自爆だ」
◆
勇馬が渉に詰め寄った。
「根拠は何だ。センサーは正常を示してるぞ」
「音です」
「音?」
「動くたびに関節から変な音がしてる。コツン、コツン、って。パッキンが歪んでクリアランスが変わると、こういう音が出る」
勇馬が自分のセンサー端末を見た。数値は正常域だった。
「……数値は問題ないぞ」
「数値に出る前に、音が出る。機械はそういうもんです」
◆
その時、機兵が動いた。
勇馬の仲間の一人が出力を上げたスキルを放った瞬間だった。
機兵の胸部が、一瞬ゆがんだ。
次の瞬間、機兵の右腕の関節部分から、白い蒸気が噴き出した。
バン、という爆発音。
機兵が右腕を失って、よろめいた。
「ほらな」
渉は静かに言った。
◆
勇馬たちが後退した。
機兵は右腕を失って制御が乱れていた。動きがぎこちなく、エネルギー制御回路の光が点滅している。
渉はバッグを下ろした。
バールを取り出した。
機兵に近づいた。
「待て! まだ動いてるぞ!」と勇馬が叫んだ。
「わかってます」
渉は機兵の左脚の外装に近づいた。
バールの先端を、外装の継ぎ目に当てた。
コン、コン、コン、と三回叩いた。
音を聞いた。
「……左脚の駆動軸も怪しいな」
バールの角度を変えて、軽く差し込んだ。
ぎっ、という音。
外装パネルが浮いた。
◆
そこからは三分だった。
インパクトレンチで五本のボルトを外し、主動力ケーブルを一本切断した。
機兵が静止した。
渉は立ち上がって、バールを仕舞った。
勇馬がぽかんとした顔で立っていた。
「……バール一本で……」
「急所がわかれば、どんな機械でも止まります」
「なんで急所がわかるんだ」
「音と、光の当たり方と、振動です。二十五年やってたら自然とわかるようになりました」
◆
渉は解体した機兵の部品を分類し始めた。
ルーティンの作業だった。
勇馬が渉の横に来た。
「……センサーより正確なのか、その耳は」
「センサーは数値を測る道具です。俺の耳は変化を聞く道具です。どちらが優れてるとかじゃなくて、用途が違います」
「変化を、聞く……」
「エンジンでも機兵でも、壊れる前に必ず音が変わります。その変化を聞き続けることが整備士の仕事です」
勇馬がしばらく黙った。
「……俺、あんたに失礼なことを言いました」
「別に気にしてないです」
「気にしてくれた方が俺は楽なんですが」
「そうですか」
渉は作業を続けた。
◆
夕方、管理センターに戻ると、田所が「今日も派手にやりましたね」と言った。
「普通の作業でした」
「第四層の機兵を単独で……しかも缶コーヒー飲みながら、って目撃情報があって」
「飲み干してから作業しました」
「それが問題なんですよ……!」
田所は報告書のフォーマットを眺めて、額に手を当てた。
「どう書けばいいのか……『飲料を消費した後、バール一本で神話級機兵を無力化』?」
「正確な記述だと思います」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
〈第四十二話 了〉
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次話予告】
JDA本部から視察官がやってきた。
「清掃員の作業効率が通常の六倍というのは、データの入力ミスでは?」
渉の工房の壁を、白いスーツの男がノックした。
渉はコーヒーを飲みながら言った。
「その壁、コンコンって叩いてみてください。空洞でしょう?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【あとがき】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第四十二話、ありがとうございました。
今回書きたかったのは「センサーより耳が正確」という場面です。最新の機器が「正常」と言っている時に、職人の耳だけが「おかしい」と感じている。そしてそれが正しい。
これは実際の整備士や機械系の職人さんたちに、本当にある話です。数値は「今この瞬間の状態」しか測れないけれど、音は「変化の傾向」を教えてくれる。この違いを書きたかった。
勇馬が謝るシーンを入れました。彼は素直な子です。プライドが高くて言葉がきついけれど、間違っていたと思ったら謝れる。今後、少しずつ渉の「現場目線」を学んでいく役割を担う予定です。
田所さんの「報告書どう書けばいいの」は、この作品を通じて一番書いていて楽しいセリフかもしれません。
(作者)




