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第四十一話「第三ダンジョンの死神」

現在同時連載で「 詠唱破棄?いいえ、即興フリースタイルです。  〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜 」を1日1話投稿しています。よろしければそちらも読んでください。

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第四十一話「第三ダンジョンの死神」

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 春になると、ダンジョンに新顔が増える。


 JDAが毎年四月に行う「新規探索者登録キャンペーン」の時期だ。ライセンス取得費用の補助制度が適用されるこの時期だけ、管理センターの受付に行列ができる。


 田所が「今年も来たわね」と窓の外を見ながらコーヒーを飲んだ。


 渉は今日の回収ルートのメモを確認しながら、ヘルメットを被った。


「新人が多いと、通路が混むんで気をつけてください」と田所が言った。


「わかりました」


「あと……去年も言いましたけど、佐藤さんの担当エリア、魔物の密度が低すぎると上から指摘が来てます」


「掃除してるんで」


「それが問題らしくて」


 渉は少し考えた。


「清掃員が清掃をして何が問題なんですか」


「生態系への影響が、と」


「機械の残骸が積み上がってる状態が自然なんですか」


 田所は困った顔をした。


「私に言わないでください」



 第二層の回収ルートに入ると、声が聞こえてきた。


「は? 何もいないんですけど!?」


 若い男の声だった。


 角を曲がると、三人組の探索者がいた。全員、真新しい装備だ。最新モデルの耐衝撃スーツ、JDA支給の高機能センサー端末、手入れが行き届きすぎていて逆に現場感のないブーツ。


 先頭の男が渉を見た。


 二十歳前後。顔が整っている。装備が高い。自信があることが全身から出ている。


「あんた、清掃員?」


「そうです」


「このエリア担当?」


「今日はそうです」


「何で何もいないんだよ! センサーがどこも反応しない!」



 渉はメモ帳を確認した。


「第二層の残骸回収は昨日終わってます。活性化していた個体も先週に三体対処しました」


「対処って……清掃員が?」


「仕事ですから」


 男が渉に近づいた。


「俺は神田勇馬かんだ ゆうま。今期のJDA新人Aランク、最高評価取得者だ。このエリアを俺のホームにしようと思ってたのに、なんで何もいないんだよ。獲物を独り占めしてるつもりか」


 渉は男を見た。


 若かった。


 怒っていた。


 本気で怒っていた。


「独り占め?」


「そうだろ! 魔物の核は換金できる。お前が全部取ってたら俺たちが稼げない」


 渉は少し考えた。



「ゴミを拾うのがそんなに羨ましいのか」


 渉は言った。


 勇馬が「は?」という顔をした。


「俺がやってるのは残骸の回収と清掃です。魔物の核も、処分対象のジャンクパーツと一緒に拾って分別してます。ゴミとして」


「……ゴミって言うな、換金できるのに」


「換金価値があるものでも、適切に処分しないと現場が荒れます。そっちの方が問題です」


「現場? ここはダンジョンだぞ」


「だから現場です」



 渉はバッグを下ろして、本日の回収分を取り出した。


 パーツクリーナーで清掃した残骸部品、サイズ別に分別された核の断片、腐食した金属片のまとめ袋。


 全部きれいに仕分けされていた。


「これ……全部核か」勇馬の仲間の一人が呟いた。「相当な量だ」


「三日分です。古いものから順に回収して、品質が落ちてるものは別袋に入れてます」


「なんでそこまで丁寧に……」


「現場に余計なものを残したくないんで」



 渉は袋を整理しながら、勇馬に向いた。


「今日の担当エリアを変えます。第三層の奥に、まだ手をつけていない区画があります。そちらに行ってください。センサーは反応すると思います」


「……お前が決めることじゃないだろ」


「管理センターに確認してもらえれば、俺の担当エリアのマップがあります。そこ以外は全部行けます」


 勇馬がスマートフォンを取り出した。


 JDAのアプリを開いて、マップを確認した。


 渉の担当エリアが黄色でハイライトされていた。


 そしてその隣に、小さな文字で注記があった。


 「※当エリアはEランク清掃員・佐藤渉の超高効率清掃により、通常の六倍速で整備が進んでいます。探索者の方は隣接エリアをご利用ください」



 勇馬が顔を上げた。


「……六倍速って何だよ」


「早く終わると次に進めるんで」


「Eランクが何でそんな……」


「二十五年やってたんで」


 渉はヘルメットを被り直して、奥に向かって歩き出した。


「第三層の奥は第六区画まであります。順番に行けば一週間は稼げると思います」


 勇馬は何も言わなかった。


 ただ、渉の背中を見ていた。



 その夜、管理センターのカフェテリアで、勇馬は仲間に言った。


「あのおっさん……何者だ」


「調べたんですけど」仲間の一人がスマホを見ながら言った。「Eランクの清掃員です。元は自動車解体工場の人だそうです。ダンジョン歴は……約一年」


「一年で六倍速?」


「それだけじゃないですよ。第六層の格納庫で神話級機兵を七体、一人で……」


「は?」


「しかも工具だけで」


 勇馬は少し黙った。


「……そんなやつが、なんで清掃員やってるんだ」


 誰も答えなかった。



 渉は工房で道具の手入れをしていた。


 バールを磨く。インパクトレンチを確認する。


 リーニャが来て、「今日の新人さん、怒ってましたよ」と言った。


「そうですか」


「かわいそうとは思いませんか」


「思いません。仕事してただけです」


「佐藤さんって、たまに怖いですよね」


「そうですか」


 渉は何も言わずにバールを拭き続けた。


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           〈第四十一話 了〉

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【次話予告】

 翌日、勇馬たちが中層で機兵に挑んでいた。

 どんな攻撃も通らない。

 通りがかった渉が、缶コーヒーを飲みながら立ち止まった。

 「……あれ、異音がしてるな」


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【あとがき】

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 第四十一話、いかがでしたでしょうか。


 新章の幕開けとして、新キャラクター・神田勇馬を登場させました。彼は「強くて、正しくて、なのに的外れ」な若者として書いています。悪い人間ではないんです。ただ、渉のいる現場の「文脈」が全く読めていない。


 渉にとって核は「ゴミの分別項目のひとつ」です。勇馬にとって核は「稼ぎ」です。同じものを見ていて、見えているものが全く違う。これが今後の二人の関係の核心になります。


 「六倍速」という注記は、管理センター側がこっそり渉を評価していることの表れです。渉本人は全く気にしていません。


 次話では、勇馬がはじめて「渉の耳」を目撃します。お楽しみに。


                   (作者)

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