第三十八話「バラムの加勢と、職人の結託」
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第三十八話「バラムの加勢と、職人の結託」
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バイパス回路の設計は、その日の夜に終わった。
渉はメモ帳に回路図を描いた。
装置の起動信号をバイパスに逃がして、コアへの伝達を遮断する。シンプルな設計だ。ただし部品を一つ、バラムに作ってもらわないといけない。
翌朝、バラムの工房に向かった。
◆
図面を見せた。
バラムが一通り確認した。
「……できる。ただし」
「ただし?」
「事情を話せ。なぜこれが必要になった」
渉は特務部のことを説明した。
王命、装置の接収または破壊の命令、第七層でのやりとり、ロックでの合意。
バラムは黙って聞いていた。
渉が話し終えると、しばらく何も言わなかった。
それから工具箱を持って立ち上がった。
「俺も行く」
◆
「なぜですか」
「お前の仕事にケチをつける奴がいるなら、俺も口を出す権利がある」
「特務部は合意しています。もう問題は……」
「合意した、というのは今の話だろう。次に上から別の命令が来ないとは限らん」
渉は少し考えた。
「……バラムさんが来てくれるなら、助かります」
「当然だ。部品も現地で作った方が早い。炉を借りられるか」
「田所さんに聞いてみます」
「聞け。行くぞ」
◆
管理棟前に戻ると、カルロスとディルクが待っていた。
バラムを見て、カルロスが「この者は」と言った。
「鍛冶師のバラムさんです。バイパス回路の部品を作ってもらいます」
「……また増えるのか、関係者が」
「腕のいい職人です。必要な人間です」
バラムがカルロスを一瞥した。
「特務部とやらか」
「そうだ」
「お前ら、この男の仕事の価値がわかるか」
カルロスが少し表情を変えた。
「……わからん。だから現場に来ている」
「正直でよろしい」バラムは工具箱を担ぎ直した。「ついてこい」
◆
昼過ぎ、リーニャ、メイ、フィオナが来た。
田所から連絡が行ったらしい。
三人は装備を整えて来た。戦闘態勢ではない。しかし全員、正式な立場で来ていた。リーニャは特務部隊の制服、メイはNDIの正装、フィオナはパーティの識別章をつけていた。
カルロスが三人を見た。
「……また増えた」
「佐藤さんの仕事を守りに来ました」とリーニャが言った。
「渉を守るためではない、という顔ですね」とカルロスが言った。
「渉さんは守られなくていいんです。渉さんの仕事が、守られないといけない」
◆
カルロスが渉を見た。
「……あなたの周囲は、変わった人間ばかりだ」
「そうですか」
「普通、人間を守ると言う。仕事を守る、というのは……」
「俺が最も嫌なのは、仕事を台無しにされることです。周りがそれを知っているんでしょう」
カルロスは少し考えてから、また黙った。
◆
バラムが管理棟の資材置き場の一角を借りて、臨時の作業場を設けた。
小型の炉を組んで、バイパス用の素子を作り始めた。
渉はその横で、部品の精度を確認した。
「……ここ、〇・一ミリ薄い」
「わかった」
バラムが修正した。
渉が確認した。
「よし」
「次は?」
「この接合部、もう少し角を落としてください。基板に当たります」
カルロスが遠巻きにそれを見ていた。
ディルクが隣に来て、小声で言った。
「……あの二人、さっきからずっとあれをやっている」
「仕事です」と渉が聞こえていたのか答えた。
「聞こえていたのか」
「静かなんで」
◆
夕方、バラムが部品を一式完成させた。
渉がノギスで全数確認した。
全部、許容範囲内だった。
「完璧です」
「当然だ」
バラムは道具を仕舞いながら、カルロスの方を向いた。
「一つ言っておく」
「何だ」
「この男の仕事にまた横槍を入れるなら、今後、特務部隊への武器の納品は一切やめる」
カルロスが少し目を細めた。
「……それは、国家への脅しか」
「取引の話をしている。俺の仕事は、誠実な人間にしか提供しない。それだけだ」
カルロスは長い沈黙の後、言った。
「……肝に銘じる」
「よろしい」
バラムは工具箱を持ち上げた。渉に向かって「明日、呼べ。一緒にやる」と言った。
「ありがとうございます」
「礼はいらん。面白い仕事だからやるだけだ」
◆
その夜、工房に全員が集まった。
渉、三人のヒロイン、ゴールド、カルロスとディルク、田所。
田所がお茶を出した。
珍しく、大人数の夜だった。
渉はメモ帳を開いて、翌日の作業工程を確認した。
カルロスが向かいに座って、同じように書類を広げた。
「明日の手順を、共有してもらえるか」
「もちろんです」
渉は工程表をカルロスに見せた。
カルロスが読んだ。
「……わかりやすい」
「現場用に書いているんで」
「こういう書き方を、我々もすべきかもしれないな」
渉は何も言わなかった。
ただ、少し頷いた。
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〈第三十八話 了〉
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【次話予告】
翌日、第七層でバイパス回路の組み込みが始まった。
特務部の二人が見守る中、渉が一ミリ以下の隙間にハンダを流し込む。
カルロスが息を止めていた。
「……なぜ、あなたはそれができる」
「二十五年やってたからです」
【次話予告】
翌日、第七層でバイパス回路の組み込みが始まった。
特務部の二人が見守る中、渉が一ミリ以下の隙間にハンダを流し込む。
カルロスが息を止めていた。
「……なぜ、あなたはそれができる」
「二十五年やってたからです」




