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第三十八話「バラムの加勢と、職人の結託」

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第三十八話「バラムの加勢と、職人の結託」

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 バイパス回路の設計は、その日の夜に終わった。


 渉はメモ帳に回路図を描いた。


 装置の起動信号をバイパスに逃がして、コアへの伝達を遮断する。シンプルな設計だ。ただし部品を一つ、バラムに作ってもらわないといけない。


 翌朝、バラムの工房に向かった。



 図面を見せた。


 バラムが一通り確認した。


「……できる。ただし」


「ただし?」


「事情を話せ。なぜこれが必要になった」


 渉は特務部のことを説明した。


 王命、装置の接収または破壊の命令、第七層でのやりとり、ロックでの合意。


 バラムは黙って聞いていた。


 渉が話し終えると、しばらく何も言わなかった。


 それから工具箱を持って立ち上がった。


「俺も行く」



「なぜですか」


「お前の仕事にケチをつける奴がいるなら、俺も口を出す権利がある」


「特務部は合意しています。もう問題は……」


「合意した、というのは今の話だろう。次に上から別の命令が来ないとは限らん」


 渉は少し考えた。


「……バラムさんが来てくれるなら、助かります」


「当然だ。部品も現地で作った方が早い。炉を借りられるか」


「田所さんに聞いてみます」


「聞け。行くぞ」



 管理棟前に戻ると、カルロスとディルクが待っていた。


 バラムを見て、カルロスが「この者は」と言った。


「鍛冶師のバラムさんです。バイパス回路の部品を作ってもらいます」


「……また増えるのか、関係者が」


「腕のいい職人です。必要な人間です」


 バラムがカルロスを一瞥した。


「特務部とやらか」


「そうだ」


「お前ら、この男の仕事の価値がわかるか」


 カルロスが少し表情を変えた。


「……わからん。だから現場に来ている」


「正直でよろしい」バラムは工具箱を担ぎ直した。「ついてこい」



 昼過ぎ、リーニャ、メイ、フィオナが来た。


 田所から連絡が行ったらしい。


 三人は装備を整えて来た。戦闘態勢ではない。しかし全員、正式な立場で来ていた。リーニャは特務部隊の制服、メイはNDIの正装、フィオナはパーティの識別章をつけていた。


 カルロスが三人を見た。


「……また増えた」


「佐藤さんの仕事を守りに来ました」とリーニャが言った。


「渉を守るためではない、という顔ですね」とカルロスが言った。


「渉さんは守られなくていいんです。渉さんの仕事が、守られないといけない」



 カルロスが渉を見た。


「……あなたの周囲は、変わった人間ばかりだ」


「そうですか」


「普通、人間を守ると言う。仕事を守る、というのは……」


「俺が最も嫌なのは、仕事を台無しにされることです。周りがそれを知っているんでしょう」


 カルロスは少し考えてから、また黙った。



 バラムが管理棟の資材置き場の一角を借りて、臨時の作業場を設けた。


 小型の炉を組んで、バイパス用の素子を作り始めた。


 渉はその横で、部品の精度を確認した。


「……ここ、〇・一ミリ薄い」


「わかった」


 バラムが修正した。


 渉が確認した。


「よし」


「次は?」


「この接合部、もう少し角を落としてください。基板に当たります」


 カルロスが遠巻きにそれを見ていた。


 ディルクが隣に来て、小声で言った。


「……あの二人、さっきからずっとあれをやっている」


「仕事です」と渉が聞こえていたのか答えた。


「聞こえていたのか」


「静かなんで」



 夕方、バラムが部品を一式完成させた。


 渉がノギスで全数確認した。


 全部、許容範囲内だった。


「完璧です」


「当然だ」


 バラムは道具を仕舞いながら、カルロスの方を向いた。


「一つ言っておく」


「何だ」


「この男の仕事にまた横槍を入れるなら、今後、特務部隊への武器の納品は一切やめる」


 カルロスが少し目を細めた。


「……それは、国家への脅しか」


「取引の話をしている。俺の仕事は、誠実な人間にしか提供しない。それだけだ」


 カルロスは長い沈黙の後、言った。


「……肝に銘じる」


「よろしい」


 バラムは工具箱を持ち上げた。渉に向かって「明日、呼べ。一緒にやる」と言った。


「ありがとうございます」


「礼はいらん。面白い仕事だからやるだけだ」



 その夜、工房に全員が集まった。


 渉、三人のヒロイン、ゴールド、カルロスとディルク、田所。


 田所がお茶を出した。


 珍しく、大人数の夜だった。


 渉はメモ帳を開いて、翌日の作業工程を確認した。


 カルロスが向かいに座って、同じように書類を広げた。


「明日の手順を、共有してもらえるか」


「もちろんです」


 渉は工程表をカルロスに見せた。


 カルロスが読んだ。


「……わかりやすい」


「現場用に書いているんで」


「こういう書き方を、我々もすべきかもしれないな」


 渉は何も言わなかった。


 ただ、少し頷いた。


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           〈第三十八話 了〉

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【次話予告】

 翌日、第七層でバイパス回路の組み込みが始まった。

 特務部の二人が見守る中、渉が一ミリ以下の隙間にハンダを流し込む。

 カルロスが息を止めていた。

 「……なぜ、あなたはそれができる」

 「二十五年やってたからです」

【次話予告】

 翌日、第七層でバイパス回路の組み込みが始まった。

 特務部の二人が見守る中、渉が一ミリ以下の隙間にハンダを流し込む。

 カルロスが息を止めていた。

 「……なぜ、あなたはそれができる」

 「二十五年やってたからです」

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