第三十二話「呪われたガラクタと、宝の山」
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第三十二話「呪われたガラクタと、宝の山」
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道具のリストを消化しながら、渉は街をまわっていた。
材料の調達だ。
いくつかは市場で手に入った。いくつかはバラムが在庫を持っていた。しかし一つだけ、どうしても見当たらないものがあった。
帰還装置の端子固定ネジだ。
マニュアルの図面に寸法が書いてあるが、この世界の標準規格には存在しないサイズだった。
◆
街の端に、古い道具屋があった。
田所が「あそこは古いものを扱う店で、たまに変なものが出てくる」と教えてくれた場所だ。
扉を開けると、店内が暗かった。
棚に雑多なものが詰め込まれている。壊れた魔道具、古い農具、由来不明の金属片。
渉は棚を一つずつ見ていった。
奥の棚に、木箱があった。
中に金属片がまとめて入っている。
渉は一つ取り出した。
小さな金属の棒。螺旋状の刻みがある。
ノギスを出した。
径を測った。
M3。
「……JIS規格のM3ボルトだ」
◆
箱の中身を全部、光の当たる場所に並べた。
M3ボルト、十二本。M3ナット、十本。M2.5の小ネジ、六本。ワッシャー数枚。そして、小さな基板の切れ端が二枚。
全部、見覚えのある規格だった。
店主が近づいてきた。
「お客さん、そのガラクタに興味があるんですか」
「あります。全部いくらですか」
「全部?」店主が少し驚いた。「呪われたガラクタですよ、あれは。何年も売れ残りで……」
「呪われてないです。ただのネジと基板の部品です」
「ネジ……?」
「金属同士を固定するための締結部品です」
店主がきょとんとした。
「買い取ってもらってもいいです、全部。値段はそちらで決めてもらえれば」
◆
値段は安かった。
渉はまとめて受け取り、バッグに入れた。
帰ろうとした時、扉が引っかかった。
渉は蝶番を見た。
錆びて、固着している。
「すみません、この扉、蝶番が錆びていますね」
「ああ……長いことそのままで。雨の日は特にひどくて」
渉はバッグからラスペネを取り出した。
蝶番の固着部分に吹きつけた。シュッ。
三十秒待って、扉を動かした。
するりと開いた。
「開閉を何度かやって、油を馴染ませてください。定期的に植物性の油を差せば、しばらくもちます」
「ゴマ油でも?」
「ゴマ油でも案外持ちます。最善ではないですが」
◆
帰り道、渉はバッグのネジを確認した。
M3ボルト十二本。M3ナット十本。M2.5小ネジ六本。
帰還装置の修理に必要な数の、ほぼ半分が揃った。
渉はメモ帳のリストに線を引いた。
まだ全部は埋まらないが、半分は消えた。
仕事は、少しずつ前に進む。
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〈第三十二話 了〉
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【次話予告】
道具が揃い始め、帰還装置の内部を本格的に開けた。
基板の裏に、何かが貼り付けてあった。
紙だった。
日本語で、びっしりと書かれていた。
「……日記だ」
規格品の再会回です。
異世界でJISマークやM3ボルトに出会うのは、砂漠で一円玉を見つけるような場違い感がありますが、渉にとってはこれ以上ない救いだったはずです。ラスペネ(潤滑剤)の万能感についても少し触れましたが、結局、機械を救うのは魔法よりも一滴の油だったりするんですよね。




