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第二十三話「俺の許可なく動かすな、焼き付くぞ」

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第二十三話「俺の許可なく動かすな、焼き付くぞ」

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  その朝、管理棟前が騒がしかった。


 渉が工房のシャッターを開けると、庭越しに見える管理棟の方向から、金属音と馬蹄の音が混ざって聞こえてきた。


 作業着を整えて外に出た。


 管理棟前の広場に、騎馬が六頭。その後ろに歩兵が二十名ほど。全員、正式な王国軍の装備だった。


 先頭の将校が渉を見て、馬を下りた。


「佐藤渉氏ですか」


「そうです」


「国家緊急命令書です」


 書類を差し出された。



 渉は書類を受け取って読んだ。


 「国家安全保障上の緊急措置として、古代守護者(通称ゴールド)および佐藤渉氏の保有する特殊洗浄液類・特殊潤滑剤類・古代文書類を、王国軍の管理下に移行する。本命令は即日執行とする」


 署名は国防大臣だった。


 NDMの神崎の名前は、ない。


 神崎より、さらに上から来ていた。



 渉は書類を折り畳んで、将校に返した。


「受け取れません」


「これは命令書です。拒否する法的根拠は……」


「法的な話じゃないです」


 渉は将校の後ろ、兵士たちの方を見た。


「ゴールドを動かす前に、整備状態を確認しないといけない。今の状態で無理に動かしたら、焼き付く可能性がある」


「焼き付く、とは」


「機械用語です。潤滑不足で金属が熱膨張して、部品が固着して動かなくなる。最悪、破損する。ゴールドの動力系はまだ整備途中です。俺の許可なく動かすな」



 将校が少し考えた。


「整備が終われば、引き渡せますか」


「それは別の話です」


「……どういうことですか」


「整備が終わっても、ゴールドは俺の言うことしか聞きません。設計上の問題なんで、どうしようもないです」


 将校が眉間に皺を寄せた。


「それはつまり……」


「あなたたちが連れていっても、ゴールドは動きません。俺がいないと整備もできない。意味がないということです」



 そこに神崎が来た。


 将校より少し遅れて、車で到着した。顔色が悪かった。


「佐藤さん、今回は……上からの命令で、私には止められなかった」


「知ってます」


「でも……正直に言います。私も反対しました。あなたの言う通り、整備もわからずに動かすのは危険だと」


 渉は神崎を見た。


 神崎の目は、真剣だった。


「……あなたは、機械のことをわかろうとしてる人だな」


「……わかりたいとは思っています。私には技術がありませんが」


「それで十分です」



 渉はゴールドの前に立った。


 将校と兵士たちが、距離を置いて見ている。


「ゴールド、今から俺が言うことを聞け」


「はい」


「これから俺が動力系の最終確認をする。動くなよ」


「了解した」


 渉はバッグからトルクレンチを出した。


 ゴールドの足首の接合部。ここが今の整備状態で一番応力がかかる箇所だ。


 ボルトに当てる。


 カチッ。


 規定トルク。問題なし。


 次、膝関節。


 カチッ。


 こちらも問題なし。



 渉は腰を上げて、将校に向き直った。


「動力系の確認が終わりました。今の状態であれば短距離の移動は可能です。ただし」


「ただし?」


「ゴールドは俺の指示以外には従いません。あなたたちが命令しても動きません。これは設計上の問題で、俺にも変えられない」


 将校が神崎を見た。神崎が頷いた。


「……それは、実証できますか」


「やってみてください」



 将校が部下のスキル使いを前に出した。


「守護者に指示を出せ。前進せよ、と」


 スキル使いが構えて、ゴールドに向かって命令スキルを放った。


 ゴールドは微動だにしなかった。


 将校が別の部下を出した。


「直接、声で命令しろ」


 兵士が一歩前に出て、「前進せよ」と告げた。


 ゴールドは微動だにしなかった。


 将校が渉を見た。


「……わかりました。あなたに聞こえるように言います。どうすればいい」



 渉は少し考えた。


「ゴールドの整備が終わるまで、管理棟の区画内に留まる、ということなら受け入れます。その間、私が管理者として状態を保証します。どこかへ連れて行くのはその後、話し合ってから」


「国家管理下には置けないと?」


「整備の主体は俺じゃないといけない。それは変えられない。管理という言葉の定義によります」


 将校はしばらく考えた。


 神崎がそっと耳打ちした。


 将校がため息をついた。


「……今日のところは、現状維持で上に報告します。回答は後日」


「ありがとうございます」



 軍が引いた後、田所がお茶を持ってきた。


「……また追い返したんですか」


「状況を説明しただけです」


「説明で軍隊を追い返せる人間が、どこにいますか」


 渉には返す言葉がなかった。


 リーニャが渉の横に来て、小声で言った。


「……かっこよかったです」


「かっこよくなかったです。機械の状態を正確に伝えただけです」


「それが……」


「リーニャさん」


「……はい」


「機械は嘘をつかない。俺も、同じでいたいです。それだけです」


 リーニャが、静かに頷いた。


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           〈第二十三話 了〉

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【次話予告】

 三日後の夜、管理棟に緊急警報が鳴った。

 「守護者が暴走している!」

 第二の国家命令で、渉の不在中にゴールドを強制起動させた者がいた。

 渉がダンジョンに駆け込むと、ゴールドが全システムエラーを起こしていた。

 「……言ったろう。焼き付くと」

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