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第二十一話「聖なる呪文、あるいは識別票」

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第二十一話「聖なる呪文、あるいは識別票」

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 翌朝。


 渉はゴールドの背部パネルの整備に取り掛かった。


 背中の装甲は前面より複雑な構造で、パネルが入れ子になっている。外側を外すと内側が出てくる。内側を外すと、また奥に層がある。


 三枚目のパネルを外した時だった。



 隙間から、何かが落ちた。


 金属の板だった。


 薄く、長方形。縦十五センチ、横三十センチほど。


 渉はそれを拾った。


 かなり錆びていた。表面の塗装はほとんど剥がれている。しかし下地の金属はまだ生きており、そこに何かが印字されていた。


 渉はパーツクリーナーをウエスに吹いて、表面を拭いた。


 茶色い錆と汚れが取れていく。


 数字が現れた。


 「品川」という文字。


 渉は動かなくなった。


「……ナンバープレートだ」



 ゴールドが頭を向けた。


「マスター、それは……」


「日本の自動車登録プレートだ。品川ナンバー。東京都品川区とその周辺の車に付いてたやつだ」


 渉は錆の下の数字をもう一度拭いた。


 「品川 530 あ 12-34」


 年式から見ると、昭和五十年代の登録だ。


「……古いな。五十年は経ってる」


「それは……重要なものですか」


「日本では、車に必ず付けなければいけない識別票だ。車の持ち主や登録地域がわかる」


「識別票……」ゴールドが繰り返した。「なぜ、我の中に」


「設計者が持ち込んだんでしょう。俺が今、ポケットにバールとラスペネを持ってるのと同じで、慣れ親しんだものを持ってきてたんじゃないですか」



 昼に三人が来た。


 渉がナンバープレートをメイに見せた。


「これ、読めますか」


 メイが拡大鏡で見た。


「……文字と数字の組み合わせですね。文字は……佐藤さんの故郷の文字と同じ体系ですか?」


「そうです」


「数字は?」


「数字は同じです。アラビア数字と呼びます、元々は」


 メイが手帳を出した。


「つまりこれも設計者が……。品川、というのは地名ですか」


「東京の地名です」


「東京……コアの基板のJIS刻印と合わせると、設計者は東京の出身者……ということに……」


 メイが震える手でメモを走らせた。



 フィオナがナンバープレートを手に取って、表裏を確認した。


「これ、かなり古いですよね」


「昭和五十年代の登録だと思います。今から五十年近く前です」


「五十年前……」


「俺が生まれる前の話だ」


 リーニャが静かに言った。


「つまり設計者は……今から、相当昔にここに来ていた……?」


「そうなります」


 部屋に少しの沈黙が落ちた。



 そこにメイが戻ってきた。


 興奮で眼鏡が曲がっていた。


「佐藤さん、大変です! 私、先週から解読を試みていた古代語の碑文があるんですが……今日、コアの刻印と比較したら、共通する文字パターンが……!」


「それは後でいいです、今は整備中なんで」


「後でよくないです!!」


 渉は手を止めた。


「……わかりました。五分だけ」



 メイが広げた資料には、壁の碑文の写しと、基板の刻印の拡大図が並んでいた。


「ここと、ここです。同じ文字列が出てきます。これを設計者の言語(日本語)で音写すると……」


 メイが手帳に書いた文字を渉に見せた。


「……『てすと』、と読めませんか?」


 渉が見た。


「テスト、ですね」


「テスト……? どういう意味ですか」


「試験、とか確認作業、という意味です。機械を作った時に、ちゃんと動くか確かめる作業を『テストする』と言います」


 メイが固まった。


「……つまりこの碑文は、設計者が機械の動作確認をした記録……?」


「可能性はあります」


「「古代の神が世界の真理を試した記録」として、神学者たちが解読しようとしていた碑文が……」


「テストの記録ですね、おそらく」



 フィオナが吹き出した。


 リーニャが額に手を当てた。


 メイは手帳を閉じて、しばらく天井を見ていた。


「……学会に論文を出してしまったんですが」


「何と書いたんですか」


「『古代守護者の試練に関する神学的考察』というタイトルで……」


「訂正した方がいいかもしれないですね」


「取り下げます……今すぐ……」



 その夜。


 渉はナンバープレートをウエスで丁寧に拭いて、工房の棚の隅に立てかけた。


 品川 530 あ 12-34。


 五十年前の、どこかの誰かの車のナンバーだ。


 その車は今頃、どこにあるのか。


 もうとっくに廃車になっているだろう。


 渉は少し考えて、棚から取り出してまた拭いた。


 これも、ちゃんと手入れしてやった方がいい。


 そういう気がした。


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           〈第二十一話 了〉

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【次話予告】

 第七層の奥に、誰も気づいていなかった小部屋があった。

 ゴールドに案内されて入ると、棚に古い冊子が並んでいた。

 渉がそれを開くと、日本語で書かれていた。

 「……整備マニュアルだ」


感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


ブクマなどもしていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
実際の昭和50年代だと分類番号の部分は二桁かと 野暮なことを言って申し訳ない 少しずつ進んでいく物語にわくわくしてます
数百年固着してたとか書かれてたと思うけど、設計者が来た時と時間的にずれがあるのかな
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