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第二十話「JIS規格に似た刻印」

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第二十話「JIS規格に似た刻印」

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 冷却系の修理から三日が経った。


 コアの温度は順調に下がっており、ゴールドの報告では「安定域まであと二割」とのことだった。


 渉はその間、ゴールドの外装整備を続けていた。


 黄金色の装甲パネルを一枚ずつ外し、内部の状態を確認して、必要なら洗浄して戻す。地道な作業だ。解体屋の仕事と、基本は変わらない。


 その日の午後、渉は胸部の中央パネルを外した。



 パネルの裏側に、基板があった。


 渉はヘッドライトで照らした。


 基板の素材は見慣れない合金だが、構造はよく知っている形だった。回路が整然と並んでいる。半田付けに相当する接合がある。端子が規則正しく並んでいる。


 渉はそれを眺めながら、何かが引っかかった。


 角に、刻印があった。


 小さな、金属に直接刻まれた印。


 渉は顔を近づけた。


 円の中に、アルファベットと数字の組み合わせ。


 J、I、S。


 そして数字の羅列。



 渉は動かなくなった。


 三十秒ほど、その刻印を見続けた。


「……JIS規格か」


 声が、少し違った。


 ゴールドが頭を向けた。


「マスター?」


「この刻印、JIS規格に似てる」


「……JIS、とは」


「日本の工業規格だ。日本産業標準調査会が定めた、製品の品質や寸法や性能の基準。ボルトのサイズも、電気の規格も、全部これで統一されてる」


 渉は刻印をもう一度見た。


「お前の基板に、日本の工業規格マークに酷似した刻印がある」



 ゴールドが少し間を置いた。


「……それは、設計者に関係するかもしれない」


「設計者というのは」


「我々守護者を作った者だ。コアを設計した者でもある。我が知る限り、その者は……この世界の者ではなかった」


「どういうことだ」


「言葉が、違った。文字が、違った。道具が、違った」


 渉は基板から目を離さずに聞いた。


「その道具は、どんなものだったか」


「金属の棒で、先に星形の刻みがあった。回転させると、金属の螺旋が動いた」


「……ドライバーか」


「もう一つは、持ち手が長く、先端が挟む構造になっていた」


「スパナかペンチか」


「それに、金属の缶から液体を噴霧していた。それが当たった金属は、固着が解けた」


 渉の手が止まった。


「……浸透潤滑剤か」



 渉は基板をそっと外した。


 裏側を見た。


 同じ刻印がもう一か所。そしてその横に、もっと小さな文字が刻まれていた。


 渉は目を細めた。


 日本語だった。


 かすれていて、半分読めないが。


「……設、計、者……名……」


 その先が読めなかった。


 腐食で消えていた。



 夕方、メイを呼んだ。


 基板の刻印を見せた。


「これ、読めますか」


 メイが高精度ルーペで見た。


「……この文字は古代語でも魔導文字でもないですね。全く別の体系の……でも佐藤さんには読めるんですか?」


「JIS規格の刻印に似てます。日本の工業規格です」


「日本……佐藤さんの故郷の?」


「そうです」


 メイが基板を持つ手が、わずかに震えた。


「つまり……このコアは……佐藤さんと同じ世界から来た誰かが、設計した……」


「そうとしか思えないな」


「……それは」


 メイは少し考えて、静かに言った。


「佐藤さんがここに来たのが、偶然じゃないかもしれないということですか」



 渉はしばらく黙った。


 基板の刻印を、もう一度見た。


 J、I、S。


 二十五年間、毎日見てきた刻印と、同じ形をしていた。


「……わからないです」


 渉は正直に言った。


「でも、機械は嘘をつかない」


 渉は基板を胸部パネルの中に戻した。


「この刻印がここにあるのは、事実だ。誰かがここに刻んだのも、事実だ。それだけは確かです」



 その夜、渉は一人で工房に残った。


 道具の手入れをしながら、考えた。


 JIS規格の刻印。日本語の設計者名。浸透潤滑剤を使っていた人間。


 誰かが、ここに来ていた。


 渉と同じように、日本からここに来た誰かが。


 そしてこのダンジョンを、設計した。


 渉はトルクレンチを置いた。


 カチッ。


 いつもの音が、工房に小さく響いた。


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           〈第二十話 了〉

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― 新着の感想 ―
世界観の解説をされた方が良いのでは。 後のエピソードであるのかもしれませんが。
日本国の神奈川県で解体業をクビになり、東京都のダンジョンで作業員をする事になったんですよね。 内閣府直轄・ダンジョン管理局の略称もJDA(Japan Dungeon Administration Bu…
日本じゃないってどこから? 描写ありました?
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