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第十九話「冷却系のトラブルは、俺の専門だ」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜



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第十九話「冷却系のトラブルは、俺の専門だ」

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翌朝、ゴールドが口を開いた。


 音声が復旧してから初めて、自分の意思で、まとまった言葉を発した。


「問う」


 渉はお茶を飲んでいた。


「答えられる範囲で」


「……ダンジョンのコアが、危ない」



 渉はカップを置いた。


「詳しく話せるか」


 ゴールドは少し間を置いた。言語処理に時間がかかっているのか、あるいは何百年分の記憶を整理しているのか。


「我が眠りに入ったのは、コアの過負荷が始まった時だった。当時の守護者たちは、外部からの侵入を防ぐことしかできなかった。コアそのものには触れられなかった」


「コアというのは」


「ダンジョンの動力中枢だ。第七層の最深部にある。全ての機兵を動かし、全ての層を維持している」


 渉は少し考えた。


「エンジンみたいなものか」


「……詳しくは知らないが、そのようなものだろう」


「で、その冷却系が、という話か」


 ゴールドが頷いた。


「コアは稼働し続けることで熱を発生させる。その熱を逃がす経路が、いくつか詰まっている。我が確認できた最後の状態では、冷却効率が三十パーセントを下回っていた」


「三十パーセントか」渉は眉を寄せた。「それは、かなりまずいな」



 昼にメイを呼んだ。


 ゴールドが同じ説明をした。


 メイは途中から震えが止まらなくなった。


「冷却効率が三十パーセント以下ということは……コアの温度が臨界点を超えた場合、第七層の岩盤が……熱伝導で……街まで……」


「どのくらいの時間がある」


「わからないですが……コアの規模によっては、数週間から数ヶ月で……」


「時間はある、ということか」


「余裕がある話では全然ないですが……!」


 渉は立ち上がった。


「ゴールド、第七層の最深部まで案内できるか」


「できる。ただし、コアに近づくほど温度が上がる。人間には厳しい環境だ」


「どのくらい」


「最深部では、金属が軟化を始める温度帯に近い」


 渉は少し考えた。


「耐熱手袋が要るな」



 準備に一日かけた。


 渉は工具の選定をした。


 冷却系のトラブルは、二十五年の解体業で何度も見てきた。


 エンジンのオーバーヒート。冷却水の詰まり。ラジエーターのフィン閉塞。サーモスタットの固着。原因はいくつかあるが、対処の基本は同じだ。


 詰まりを取り除いて、流路を確保して、冷却材を補充する。


 道具は高熱環境用を選んだ。耐熱グローブ。チタン合金のドライバーセット。高温対応の潤滑剤。そして、渉が「冷却系の切り札」と呼んでいるもの。


「……これ、効きますかね」


 メイがそれを見て言った。


「わかりません。でも原理は同じなんで、やってみます」



 翌朝、出発前にリーニャが言った。


「私たちも行きます」


「温度がかなり高いです」


「佐藤さんが行くなら、私たちも行きます」


 渉は三人を順番に見た。


 全員、本気の顔だった。


「……邪魔はしないでください」


「します!」とリーニャが言った。


「……邪魔しない範囲で、ついてきてください」


「します!!」



 第七層への降下は、これまでと次元が違った。


 ゴールドを先頭に、渉、リーニャ、メイ、フィオナの順で進む。


 第七層に入った瞬間から、空気が変わった。


 熱い。


 顔に当たる空気が、ダンジョンのそれではなく、工場の炉に近い温度になってきた。


 壁の金属が、深い層に来るほど暗く輝いていた。


 蓄熱しているのだ。


「……本当に熱いですね」とフィオナが言った。


「引き返せるうちに引き返してもいいです」


「引き返しません!」と三人が同時に言った。



 最深部への通路を抜けると、巨大な空間に出た。


 天井が見えないほど高い。


 中央に、それがあった。


 直径十メートルほどの球体。


 表面が赤く熱を帯びており、光を発している。触れれば即座に火傷するだろうとわかる色と質感だ。球体の周囲に、太いパイプが幾本も伸びている。冷却配管だ。


 渉はその配管を、端から端まで目で追った。


 線が見えた。


 いつものように、急所を示す光の筋が。


 そして詰まっている箇所が、三点見えた。


「……わかった」



 配管の詰まりは、スケールだった。


 鉱物が析出して、流路の内壁に堆積する。エンジンの冷却経路で起きるのと、全く同じメカニズムだ。


 渉は耐熱グローブをはめた。


 配管に近づいた。


 配管の接合部のボルトを、耐熱対応のスピンナハンドルで緩める。


 ぎっ……ぎっ……。


 高温で膨張しているが、ラスペネを吹けば動く。


 シュッ。


 ぎぎっ……ごっ。


 ボルトが外れた。


 接合部を開くと、内部に白い堆積物が見えた。


「やっぱりスケールだ」



 渉は「切り札」を取り出した。


 スケール除去剤。酸性の洗浄液で、堆積した鉱物成分を溶かす。日本では業務用洗浄剤として広く使われている。


「それは……何ですか」とメイが汗をぬぐいながら聞いた。


「洗浄液です。詰まりを溶かします」


「魔法的な……?」


「酸性の液体です。ホームセンターで……まあ、こっちでは手に入らないので、日本から持ってきた在庫ですが」


「日本から……」


「出張に行った時に買ったんですよ。こっちに来た時にたまたまバッグに入っていた。捨てなくてよかった」


 メイが何か言おうとしたが、暑さと驚きと感情の過負荷で声が出なくなっていた。



 三か所の詰まりを順番に処理した。


 一か所目。洗浄液を流し込んで、ブラシで内壁をこする。白い堆積物が溶けて、流れ出す。配管を閉じてボルトを締める。カチッ。


 二か所目。同じ手順。詰まりがひどかったので、二度洗いした。


 三か所目。ここが一番奥で、温度が高かった。耐熱グローブが限界ギリギリだった。それでも手順は変わらない。


 ぎっ……ごっ……シュッ……カチッ。


 全部終えた時、渉は立ち上がって腰を伸ばした。



 変化は数分後に来た。


 コアの赤い光が、少しだけ落ち着いた。


 配管の中を、何かが流れ始める音がした。


 ゴールドが「……冷却流路、再開。コア温度、低下傾向」と言った。


「どのくらいかかりますか」


「完全な安定まで、数日。ただし、危機的状況は脱した」


 渉は耐熱グローブを外した。


 グローブの表面が、熱で少し変色していた。


「使い物にならなくなったな」


「そっちが心配なんですか!!」とリーニャが叫んだ。「今、街全体の危機を救ったんですよ!!」


「それはゴールドが教えてくれたことで、俺はただ詰まりを取っただけです」



 帰り道、四人で並んで第七層の通路を歩いた。


 ゴールドが後ろについてくる。


 メイがぼんやりと言った。


「……スケール除去剤で、世界の危機が回避されましたね」


「大げさです」


「大げさじゃないです」


 フィオナが渉の横に並んだ。


「佐藤さん、これからどうするつもりですか」


「まずゴールドの整備の残りを終えます。動力系がまだ完全じゃないんで」


「その後は?」


「次の詰まりが出たら、また直しに来ます」


「……それだけですか」


「それだけです」


 フィオナが笑った。


「佐藤さんらしいですね」


「そうですか」



 管理棟に戻ると、田所がコーヒーを三杯分用意して待っていた。


「なんかまたすごいことをしてきたんでしょう」


「詰まりを取っただけです」


「……報告書の書き方、教えてくれません?」


 渉はメモ帳を一ページ破いて、田所に渡した。


 「冷却配管三か所のスケール除去・洗浄液使用・ボルト再締付け完了」と書いてあった。


 田所はそれを見た。


「これじゃ上が理解できないわ絶対……」


「俺にできることはこれだけです」


 田所はため息をついて、コーヒーを一口飲んだ。


 渉も、受け取ったコーヒーを飲んだ。


 旨かった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           〈第十九話 了〉

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【次話予告】

 ゴールドが語り始めた。

 「ダンジョンのコアを作ったのは、我々守護者だ。しかし……設計者は別にいる」

 「その者は、あなたと同じ言葉を話した」

 渉は手を止めた。

 「……同じ言葉?」

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