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第十八話「呪いはコンタクトスプレーで直る」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜



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第十八話「呪いはコンタクトスプレーで直る」

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 朝の七時。


 渉が工房のシャッターを開けると、庭からおかしな音がしていた。


「ヴ……ヴ……ヴぉれハ……」


 ゴールドが、庭の中央で微動だにせず立ちながら、口部から不規則な音を出していた。


「もろ……もろの……ヴぁぁ……ヴぁぁあ……」


 音声が、割れている。


 デジタル機器でいえばノイズが乗った状態、あるいはラジオの電波が悪い時の音に似ていた。


 渉は縁側に腰を下ろして、お茶をすすりながら聞いた。


「接触不良だな」



 リーニャが来たのは八時だった。


 庭でゴールドが「ヴぁぁ……もろ……ヴぉれ……」と発し続けているのを聞いて、顔色が変わった。


「これは……まさか、システムバグが……!」


「接触不良です」


「いや、でも、声が変で……こういうのは呪詛の典型的な……」


「音声系の端子が錆びてるか、酸化してるか。接触が悪くてノイズが乗ってる。それだけです」


 リーニャが渉の顔を見て、少しだけ落ち着いた。


 渉が「それだけです」と言う時は、だいたい「それだけ」のことが多い。



 メイが来たのは八時半だった。


 玄関を開けた瞬間に音を聞いて、その場で魔法解析を始めた。


「エネルギー反応が……通常パターンから逸脱していて……これは既知のエラーパターンとは全く一致しない未知のシステム障害で……!」


「端子の接触不良です」


「でもエネルギー的に……!」


「電気的な接触不良も、エネルギー系統で見れば同じ現象になるんじゃないですか。エネルギーが正しく流れていない状態です」


 メイが解析の手を止めた。


「……それは、理論的には……」


「そうでしょう。見た目が違うだけで、原因は一緒です」


 メイは少し黙ってから、手帳を取り出した。


「……メモしていいですか」


「どうぞ」



 フィオナが来たのは九時で、ゴールドの声を聞いてまず爆笑した。


「ヴぁぁ……ヴぉれハ……もろ……」


「……なんか、酔っぱらいみたいですね」


「そうですね」と渉は同意した。


「直せますか」


「直せると思います。工房に来てもらえれば」



 ゴールドを工房に招き入れるのは、高さの問題で難しかった。


 天井に頭がつかえる。


 結果として、工房の前で渉が脚立に乗って作業することになった。


 ゴールドの首の後ろ、頭部と胴体の接合部分。そこにアクセスパネルがあるはずだ、と渉は見当をつけた。


「ゴールド、頭を下げられるか」


「ヴぁぁ……」


「前に傾けろということだ」


 ゴールドがぎこちなく頭を前に傾けた。


 首の後ろにパネルが現れた。


 小さなネジが四本で固定されている。精密ドライバーのマイナスで外せそうだ。


 渉はドライバーを取り出した。



 パネルを外すと、内部に複雑な配線が現れた。


 渉はヘッドライトで照らした。


 配線は細く、精緻だった。


 そしてその中の一か所。


 端子が一つ、わずかに緑色に変色していた。


 銅の酸化だ。


「あった。ここだな」


 渉はバッグからコンタクトスプレーを取り出した。


 電気接点用の洗浄・復活剤。正式名称は接点復活剤。日本ではホームセンターや電器店で手に入る。


 ノズルを端子の部分に向けて、短く吹いた。


 シュッ。



 その瞬間、ゴールドが静止した。


 「ヴぁぁ……もろ……」という音が、止まった。


 一秒の沈黙。


 そして。


「……起動シーケンス、正常。音声出力系統、復旧」


 明瞭な声が出た。


 渉は端子の状態を確認した。


 緑色の酸化が溶けて、金属の光沢が戻っていた。


「よし」



 メイが固まっていた。


 「システムエラーが解消された……バグが……」と呟いていた。


「接触不良が直っただけです」


「でも……コンタクトスプレーって……いくらですか」


「ホームセンターで、五百円くらいですね」


 メイの何かが、音を立てて崩れた(比喩)。


 フィオナが笑いをこらえていた。


 リーニャは目を潤ませていた(感動で)。



 ゴールドの音声が復旧してから、渉はパネルを元に戻した。


 四本のネジを締め直す。


 トルクを均等に。


 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。


 最後に一度、軽く叩いて固定を確認した。


「終わりだ」


 ゴールドが頭を起こした。


 そして渉を見下ろした。


「問う。あなたは……なぜ、我に触れられる」


 渉は脚立から降りながら答えた。


「壊れてるものを直したいだけです」


「壊れた……我が、壊れていると」


「オイル切れと端子の酸化は、どんな機械でも起きます。恥じることじゃないですよ」


 ゴールドは少しの間、動かなかった。


 そして静かに頭を垂れた。


「……感謝する」



 その夜。


 メイが帰り際に渉に言った。


「……今日のコンタクトスプレーのこと、論文に書いていいですか」


「俺の名前は出さないでください」


「なぜですか! これは魔導学の革命的な……」


「ただの接点復活剤の話ですよ。論文にするほどのことじゃないです」


「します!!」


 渉には止める理由がなかった。


 後日、メイの「機械音声系統における電気的接触不良と非スキル的洗浄処理の有効性」という論文が、ダンジョン研究学会誌に掲載されることになる。


 副題は「いわゆる「システムバグ」の機械的解釈について」だった。


 学会で大論争が起きた。


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           〈第十八話 了〉

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【次話予告】

 「問う。……ダンジョンのコアが、危ない」

 ゴールドが初めて、自分の言葉で語り始めた。

 「冷却系統が機能を失いつつある。このまま放置すれば、熱が街まで届く」

 渉は少し考えて言った。

 「冷却系のトラブルなら、俺の専門だ」

感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


ブクマなどもしていただけると嬉しいです。

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