表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/90

第十七話「国宝は、作業の邪魔だ」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第十七話「国宝は、作業の邪魔だ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 NDMの神崎が部下を十人連れてやってきたのは、昼過ぎだった。


 今回は人数が違った。前回の四人から一気に増員されており、全員が実戦的な装備を身につけている。スキル使いが三人、戦術装備が四人、残り三人はスーツ姿。総力戦の様相だった。


 渉は管理棟の前で人形の外装パネルの清掃をしていた。


 パーツクリーナーを吹いたウエスで、黄金の装甲表面を拭いている。何百年分の埃と酸化被膜が、ウエスに茶色く移っていく。


「佐藤渉さん」


 神崎が正面に立った。


「その人形を、国家管理下に置かせていただきます」



 渉はウエスを一度折り返した。


 きれいな面で、装甲の別の箇所を拭く。


「作業中なんですが」


「それは理解していますが、この人形は明らかに国宝級の古代遺物です。個人が管理できる性質のものでは……」


「俺が管理してるわけじゃないです。整備してるだけです」


「その整備権限を含めて、国家が管理すると言っているんです」


 神崎が部下に目配せした。


 戦術装備の四人が、人形に近づき始めた。



 人形が動いた。


 渉の前に立った。


 そして剣を抜いた。


 金属音が管理棟前の広場に響いた。


 JDA執行部の戦術装備の四人が即座に後退した。スキル使い三人がスキルを展開した。


 神崎の顔が、少し蒼くなった。


 渉はウエスをたたんで、人形を見た。


「作業中だ。剣はしまえ」


 人形が剣を収めた。


 広場に沈黙が落ちた。



 神崎が、数秒間、完全に言葉を失っていた。


 国家機関の要員十人が向かっても制御できない古代の守護者が、この作業着のおっさんの一言で剣を収めた。


「……あなたは今、何をしたんですか」


「邪魔するなと言いました」


「それだけで……」


「整備中の機械の前で剣を抜く理由がない、と判断したんでしょう。賢い設計だと思います」


 渉はウエスをバッグに戻した。


「神崎さん、少し聞いていいですか」


「……何でしょう」


「この人形を国家管理下に置いたとして、整備は誰がやるんですか」


「それは専門の……」


「オイル切れで固着した関節を、魔法で直せますか」


 神崎が黙った。


「外装の酸化被膜を、スキルで除去できますか」


 神崎はまだ黙っていた。


「動力系の詰まりを、魔法解析で特定できますか」



 リーニャが神崎の横に並んだ。


「探索者組合顧問規約第三条です」リーニャが書類を取り出した。「顧問の保有する専門技術・道具・管理対象物は、顧問本人の同意なく第三者が接収・管理移行することを禁じます」


 メイも横に出た。


「NDI研究協力者規約第七条です。研究協力者の研究対象・研究行為への国家機関による不当介入は……」


「フィオナのパーティ規約は短いですが」フィオナが最後に出た。「正式メンバーの業務への外部介入は全会一致でないと認めない、とあります。私は反対です」


 三人が横に並んだ。


 神崎は書類を三枚同時に見せられた。



 渉は三人の後ろで、人形の膝関節の増し締めをしていた。


 トルクレンチをボルトに当てる。


 カチッ。


 規定トルクに達した音。


「……本日のところは退きます」神崎がそう言った。声が平坦だった。「ただし、この件は上に報告します」


「どうぞ」と渉は言った。


「その人形が引き起こす問題の責任は、あなたが取ることになりますが」


「問題を引き起こすような整備はしません」


 神崎が、渉を見た。


 初めて、少し違う目で見た気がした。


 舐めているとか、敵対しているとか、そういう目ではなかった。


「……あなたは本当に、機械だけに向き合っている人なんですね」


「それが仕事ですから」



 NDMが引き上げた後、田所がお茶を持ってきた。


 渉と三人と、そして人形の五者が管理棟前のベンチに集まった。


 人形はベンチには座らず、渉の後ろに立っていた。


 立っているだけで存在感があり、通行人が全員ぎょっとして迂回していった。


「……この人、ここに住む感じになりますか」と田所が聞いた。


「工房には入れません、でかすぎて」と渉が言った。


「じゃあどこに……」


「庭でいいんじゃないですか。番犬みたいなもんで」


「番犬……」


 フィオナが人形を見上げた。


「名前、つけますか」


「機械に名前はいらないです」


「でも呼びかける時に不便では」


 渉は少し考えた。


「……ゴールドでいいです」


「安直すぎます!!」とリーニャが言った。


「わかりやすい方が、俺は好きです」



 その夜。


 渉が工房に戻ると、庭に人形が立っていた。


 月の光を受けて、黄金の装甲がかすかに光っていた。


 渉は人形を見た。


「今日はご苦労だったな、ゴールド」


 人形は答えなかった。


 しかし頭が、少しだけ渉の方に向いた気がした。


 渉はそれを気にせず工房に入り、道具の手入れを始めた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           〈第十七話 了〉

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【次話予告】

 翌朝、渉が庭に出ると、ゴールドが奇妙な声を出していた。

 「ヴ……ヴ……ヴぉれハ……もろもろの……ヴぁ……」

 メイが「システムに重大なエラーが!」と蒼白になった。

 渉は「端子の接触不良だな」と呟いて、コンタクトスプレーを取り出した。

感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


ブクマなどもしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ