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第十五話「排気漏れか、それとも」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜


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第十五話「排気漏れか、それとも」

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渉が目を覚ましたのは、夜中の二時だった。


 理由はわからなかった。


 ただ、目が覚めた。


 作業着のまま工房の作業台で少し仮眠するつもりが、思ったより深く眠ってしまったらしい。ヘッドライトが点けっぱなしになっていた。バッテリーが心配になって確認すると、充電残量は六十パーセント。問題ない。


 渉は立ち上がって、水を飲んだ。


 そして、気づいた。


 何かが、聞こえる。



 耳をすませた。


 工房の壁越しに、あるいは地面の下から、低い振動が伝わってくるような感覚。


 音というより、体感だ。


 渉は作業着のポケットを確認した。バール(小)、ラスペネ、パーツクリーナーの小缶。いつも最低限これだけは持ち歩いている。


 工房を出た。


 夜のダンジョン管理区画は静かだった。街灯の魔法光が等間隔に並んでいる。


 渉は歩き出した。


 足が、自然と第七層への入り口に向かった。



 管理棟は夜間でも守衛が一人いる。


 渉が「少し確認したいことがあります」と言うと、守衛の男は渉の顔を見て少し迷ったが、「……十五分以内に戻ってください」と通した。


 管理棟内では「あの清掃員には逆らわない方がいい」という空気が、いつの間にか醸成されていた。田所の根回しが効いているらしい。


 渉はヘッドライトを点けて、地下へ降りた。



 第七層への通路に入ると、振動が明確になった。


 ウゥゥ……という、低い音。


 人間の声ではない。機械的な、規則的な音だ。


 渉は足を止めて、壁に耳を当てた。


 一定のリズムで繰り返している。


 吸って、吐いて。吸って、吐いて。


 渉は少し考えた。


「……排気漏れか。あるいはアイドリング音だな」


 扉の前まで来ると、音はさらに大きくなった。


 封印の門の、閂部分。


 昨日ラスペネを吹いた箇所だ。


 渉はヘッドライトで照らして確認した。


 閂が、動いていた。


 昨日より、さらに数センチ。


 自分の意思で動いているかのように、ゆっくりと、少しずつ、外れる方向に。



 渉はその場にしゃがんだ。


 閂の端に指を触れた。


 金属が、かすかに温かかった。


 冷えたダンジョンの空気の中で、この部分だけが体温に近い温度を持っていた。


 エンジンで言えば、稼働直後の感触だ。


「……動いてるな、中で」


 渉は立ち上がって、バッグを下ろした。


 ラスペネを取り出す。


 閂の残った固着部分に、もう一度吹きつけた。


 シュッ。


 白い霧が金属の継ぎ目に染み込んでいく。


 ウゥゥ……という音が、少し変わった気がした。


 音程が上がった。


 まるで、気づいたような。



 渉はバール(中)を取り出した。


 閂の端に当てる。体重をかける。


 ぎっ。


 昨日より、抵抗が少なかった。ラスペネが十分浸透している。


 ぎ……ごっ。


 閂が、大きく動いた。


 あと一息だった。


 渉はもう一度、力をかけた。


 ぎっ……ごっ……かん。


 閂が、完全に外れた。


 金属の棒が床に落ちて、乾いた音を立てた。



 扉が、動いた。


 自分から、内側から、ゆっくりと。


 渉は一歩、後ろに下がった。


 蝶番が軋む音。数百年ぶりに動く金属の悲鳴のような音。


 そして、扉の隙間から光が漏れた。


 金色の、温かい光。


 と同時に、音が変わった。


 ウゥゥ……という排気音が、少し高くなった。


 そして、止まった。


 代わりに聞こえてきたのは、金属が床を踏む音だった。


 ゆっくりと、重く、確実に。


 何かが、こちらに向かって歩いてくる音だった。



 渉はヘッドライトを扉に向けた。


 光の中に、影が見えた。


 大きかった。


 人型だが、人ではない。


 背丈は渉の倍近い。全身が黄金色の金属で覆われている。関節ごとに精緻な細工が施されており、動くたびに光が反射して瞬く。


 これまで渉が見てきた機兵とは、造形が全く違った。


 攻撃のための機械ではなく、まるで……。


 渉は目を細めた。


 関節が、ぎこちなかった。


 歩くたびに、かすかに軋む。


 左膝の動きが、少し硬い。


 右腕の肘関節が、わずかに引っかかっている。


「……オイル切れだな」


 渉は呟いた。



 黄金の人形が、扉の前で止まった。


 渉を見た。


 巨大な頭部が、渉に向いた。


 そして、その膝が折れた。


 床に、片膝をついた。


 まるで、忠誠を誓うように。


 渉はその光景を見て、少し困った顔をした。


「……なんで跪くんだ」


 人形は答えなかった。


 ただ、頭を垂れていた。


 渉はもう一度、人形の関節部分を見た。


 膝をついた時の動作でも、左膝が引っかかっていた。


 このまま放置したら、関節が固着する。


 渉はバッグに手を入れた。



 翌朝。


 田所が第七層への通路に慌てて駆け込んできたのは、守衛から「封印の門が開いた」という報告を受けてのことだった。


 そこには、黄金の巨大人形が膝をついて、その隣で渉が関節部分にグリスを塗り込んでいる光景があった。


「……佐藤さん」


「おはようございます」


「おはようございます、じゃなくて……! これ、まさか昨夜、一人で……?」


「閂が外れてたんで、少し確認しました」


 田所はこめかみを押えた。


「報告書……どう書けばいいのよ、また……」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           〈第十五話 了〉

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【次話予告】

 夜明けとともに、三人が駆けつけてきた。

 黄金の守護者は、渉以外の全員に向かって剣を抜いた。

 渉は「作業の邪魔だ、少し待て」と人形に言い、人形は剣を収めた。

感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


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