第66話 海から来た少女
「大丈夫か!!」
壮真は流木につかまる少女の肩を揺さぶった。少女はぐったりしており、意識があるのかも分からない。しかし、かすかに胸が上下している。
「よかった・・・生きてる!」
少女は緑色の髪が海水で濡れ、頬に張りついている。年齢はミィより少し上か、同じくらいか。そして――
背中には大きな羽。
「・・・マジで天使かよ・・・」
驚いている暇はない。潮の流れは弱いが、放っておけばまた沖へ流される。
「よし、行くぞ!」
壮真は流木を押しながら、必死に浜へ向かって泳いだ。普段の運動不足が祟り、腕が悲鳴を上げる。
「はぁ・・・はぁ・・・!あと少し・・・!」
足が砂に触れた瞬間、壮真は少女を抱え上げ、浜へと引きずり上げた。
「おい!しっかりしろ!」
少女の顔を覗き込むと、長いまつげが震え、ゆっくりと目が開いた。
「・・・あ・・・れ・・・?」
声はか細く、息も弱い。
「大丈夫か?ここは浜辺だ。流されてたんだぞ」
少女はぼんやりと壮真を見つめ――
「・・・た、助けて・・・くれて・・・ありがとう・・・」
そう言って、再び意識を失った。
「お、おい!?寝るな!いや寝てもいいけど死ぬな!!」
壮真は少女を抱きかかえ、急いで洞窟へ戻ることにした。
「戻ったぞーーー!!」
壮真が叫ぶと、奥からサーヤの声が響いた。
「む?早かったな。貝は取れたのだ――って、誰だその娘は!?くっ!ころせ!!」
「殺すな!!」
ミィも手甲をつけたまま近づいてくる。
「・・・新しい・・・仲間?」
「いや、まだ分からん!とりあえず助けただけだ!」
壮真は少女をベッドに寝かせ、タオルで体を拭きながら状態を確認する。
「体温は・・・低いな。低体温症かもしれん。」
「・・・ん・・・」
少女がうっすらと目を開けた。
「ここ・・・は・・・?」
「俺の部屋・・・いや、洞窟だな。とりあえず安全な場所だ。」
少女は壮真の顔を見つめ、かすかに微笑んだ。
「・・・あなた・・・海で・・・助けてくれた・・・人・・・?」
「まあ、そうだな。」
少女は胸に手を当て、弱々しく名乗った。
「・・・わたし・・・リュミナ・・・風の民・・・」
「風の民?」
サーヤが眉をひそめる。
「聞いたことがない種族なのだ。だが・・・羽がある・・・天使族か?」
ミィはじっと少女の羽を見つめる。
「・・・きれい。」
壮真は少女の羽に触れようとして――
「ひゃっ・・・!」
「ごめん!!」
羽は敏感らしい。
リュミナは少しずつ体力を取り戻し、ぽつりぽつりと語り始めた。
「・・・わたし・・・落ちた・・・」
サーヤが身を乗り出す。
「落ちたとはどういうことなのだ?空を飛んでいたのか?」
リュミナは小さく頷いた。
「・・・気がついたら・・・南の洞窟に・・・自分の部屋ごと・・・あったの・・・何が起きたのか分からなくて・・・とりあえず・・・空へ・・・」
壮真は眉をひそめる。
「空へって・・・島から脱出しようとしたのか?」
「・・・うん・・・でも・・・」
リュミナは震える声で続けた。
「・・・空の上に・・・透明な壁があった・・・ぶつかった瞬間・・・魔力が吸われて・・・羽が動かなくなって・・・そのまま・・・海に・・・」
サーヤが目を見開く。
「空に障壁・・・!?そんなもの、王国の大魔導師でも張れぬぞ!」
ミィも珍しく反応を示す。
「・・・島、閉じ込められてる・・・?」
壮真は深く息を吐いた。
「つまり・・・島全体が“魔法のドーム”で覆われてるってことか。」
リュミナは不安そうに羽を縮めた。
「・・・ごめんなさい・・・勝手に飛んで・・・でも・・・怖かった・・・知らない洞窟で・・・誰もいなくて・・・空なら・・・帰れると思って・・・」
壮真は優しく首を振った。
「謝ることじゃない。誰だってそうするさ。」
サーヤも腕を組んで頷く。
「うむ!むしろよく生きて戻ってきたのだ。あの高さから海へ落ちたら普通は死ぬぞ!」
「・・・ん・・・強い・・・」
ミィがぽそりと呟く。
リュミナは少しだけ笑った。
「・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・あなたたちも・・・気がついたら洞窟に・・・?」
壮真は頷く。
「そうだ。俺は東の洞窟、サーヤは西、ミィは北。そしてお前は南・・・これで四方が揃ったわけだ。」
「・・・誰かの意思を感じる・・・」
「まあ、実際そんな感じだよな・・・」
リュミナは少し体を起こし、真剣な表情で言った。
「・・・お願い・・・しばらく・・・ここにいさせて・・・外は・・・怖い・・・また落ちたら・・・死んじゃう・・・」
壮真は即答した。
「もちろんだ。ここは安全だし、食べ物もある。ゆっくり休め!」
サーヤも胸を張る。
「うむ!我らが守るのだ!」
ミィも短く言う。
「・・・いっしょに・・・食べる。」
リュミナは涙を浮かべながら微笑んだ。
「・・・ありがとう・・・みんな・・・」




