第59話 初めてのダンジョンへ8
氷の壁画を後にし、三人と一匹はさらに奥へと進んでいった。
通路は次第に広くなり、空気は冷たさを増し、まるで“何か”がこちらを待ち構えているような圧力が漂い始める。
「・・・空気が変わったな・・・」
壮真が呟く。
サーヤは剣を握り直し、真剣な表情で前を見据えた。
「うむ。魔力の流れが一気に濃くなった。この先が“中ボス部屋”で間違いない。」
ミィは無表情のまま、しかし拳を握りしめている。
「・・・強いの、いる・・・」
「わかるのか?」
「・・・うん。さっきのゴーレムより・・・強い・・・」
ポポタヌはミィの足元にぴたりと寄り添い、「ポポッ・・・」と不安そうに鳴いた。
壮真は深呼吸し、壁画の内容を思い返す。
「雷封じの球・・・清らかな乙女しか使えない・・・そして、この階層の主が雷封じの球を持っている可能性・・・」
サーヤが頷く。
「うむ。もし本当に“珠”を持っているなら、必ず手に入れねばならん。」
ミィは静かに言った。
「・・・倒す。ライリュウ、倒すために・・・」
壮真はミィの言葉に勇気づけられ、拳を握った。
「よし・・・行こう!!!」
三人と一匹は、氷の回廊の突き当たりにある巨大な扉の前に立った。
扉には、氷の結晶と雷の紋様が絡み合うように刻まれている。
サーヤが低く呟く。
「・・・この紋様。“雷”・・・やはり、この階層の主は“雷封じの球”に関係しているのだろう・・・」
壮真は喉を鳴らした。
「つまり・・・この先にいる中ボスを倒せば、ライリュウを弱体化するための“手がかり”が手に入るってことか・・・」
ミィは扉に手を当て、目を閉じた。
「・・・強い。でも・・・倒せる・・・」
サーヤは剣を構え、壮真は松明を握り直す。
「行くぞ。気を引き締めろ・・・」
壮真は深呼吸し、扉に手をかけた。
「・・・開けるぞ・・・」
ギギギギギ・・・
氷の扉がゆっくりと開いていく。
冷気が吹き出し、視界の奥に――
巨大な影が動いた。
氷の壁画を後にし、三人と一匹は巨大な扉の前に立っていた。
扉には氷の紋様が刻まれ、冷気が漏れ出している。
「・・・この先が中ボス部屋だな・・・」
壮真がごくりと唾を飲む。
サーヤは剣を握り直し、ミィは拳を握りしめる。
「・・・倒す・・・」
ポポタヌは「ポポッ!」と鳴き、ミィの足元にぴたりと寄り添った。
壮真は深呼吸し、扉に手をかける。
「開けるぞ・・・!」
ギギギギギ・・・
扉がゆっくりと開き、冷気が吹き出した。
中は広い氷のドーム状の空間。
天井には巨大な氷柱が輝き、床は鏡のように滑らかな氷。
そして――
中央に、丸い影が座っていた。
「・・・あれは・・・?」
壮真が目を凝らす。
影がこちらを向いた。
丸い耳。
ふわふわの毛。
つぶらな瞳。
ころんとした体。
巨大なパンダだった。
ただし――
全身が氷でできている。
「・・・アイスパンダ・・・?」
壮真が呟く。
サーヤは剣を構え――
かけた瞬間、固まった。
「・・・・・・かわいい」
「え?」
「かわいいのだ・・・!!」
サーヤの目がキラキラと輝き始めた。
「いやいやいや!!敵だぞ!?中ボスだぞ!?なんでそんなテンションなんだよ!!」
「見よ壮真殿!あの丸いフォルム!あのつぶらな瞳!あのもちもちした体型!!これは・・・反則級のかわいさなのだ!!」
ミィは冷静に言う。
「・・・倒す・・・」
「待つのだミィ!!あれは倒してはいけないのだ!!」
「・・・敵・・・」
「敵でもかわいいものはかわいいのだ!!」
壮真は頭を抱えた。
「サーヤが戦闘不能になった・・・!!」
ポポタヌは「ポポポ・・・」とアイスパンダを見つめ、なぜか同族を見るような目をしている。
アイスパンダはのそのそと立ち上がり、両手を広げた。
「・・・ポォォォォォ・・・」
かわいい声で鳴いた瞬間――
ドゴォォォォォォン!!!
氷の衝撃波が走った。
「かわいくねぇぇぇぇぇぇ!!」
壮真が叫ぶ。
ミィは衝撃波を避け、拳を構える。
「・・・倒す・・・」
「待つのだミィ!!せめて話し合いを――」
アイスパンダがミィに向かって転がってきた。
コロコロコロコロコロ!!
「・・・速い」
ミィはギリギリで避けたが、床が凍りつき、足を滑らせた。
「ミィ!!」
壮真が叫ぶ。
サーヤは剣を構え――
しかし震えている。
「くっ・・・!かわいい・・・かわいすぎて・・・攻撃できん・・・!!」
「戦えよ!!」
ミィは滑りながらも体勢を立て直し、アイスパンダに向かって拳を叩き込む。
ドゴォッ!!
しかし――
「・・・硬い・・・」
拳が弾かれた。
アイスパンダはミィを見つめ、つぶらな瞳で「ポォ・・・」と鳴いた。
ミィは一瞬だけ固まった。
「・・・かわいい」
「お前までかよ!!」
壮真が叫ぶ。
アイスパンダが再び転がってくる。
コロコロコロコロ!!
サーヤは剣を構えたまま震えていた。
「くっ・・・!かわいい・・・だが・・・!」
壮真が叫ぶ。
「サーヤ!!あれ倒さないとライリュウに勝てないんだぞ!!雷封じの珠が手に入らない・・・すなわち、シマちゃんが手に入らないんだぞ!!」
その言葉に、サーヤの瞳が揺れた。
「・・・ライリュウ・・・アマゾンでシマちゃんが手に入らない・・・?」
壮真は頷く。
「そうだ!!あいつを倒さないと、俺たち全員危ない!!」
サーヤは深呼吸し、剣を構え直した。
「・・・かわいいが・・・アマゾンでシマちゃんを買う方が大事なのだ!!」
「よし来た!!」
サーヤが叫ぶ。
「ミィ!!おぬしが足を止めろ!!私が核を斬る!!」
「・・・わかった・・・」
ミィはアイスパンダの前に立ち、拳を構える。
アイスパンダが転がってくる。
コロコロコロコロ!!
「・・・止まれ!!」
ミィが拳を叩き込む。
ドゴォォォォン!!
アイスパンダの転がりが止まった。
胸の中央に、青白い“氷の核”が見える。
サーヤが跳び上がる。
「はああああああっ!!」
剣が核を貫いた。
アイスパンダは大きく揺れ――
「ポォォォォォ・・・」
かわいい声を残して、光の粒となって消えた。
消えた場所には、青白く輝く球体が残っていた。
サーヤが拾い上げる。
「これは・・・“雷封じの珠”だ!!」
壮真は息を吐いた。
「よかった・・・これでライリュウに対抗できる・・・」
ミィは無表情で言う。
「・・・かわいかった・・・」
「お前もかよ!!」
サーヤは珠を胸に抱きしめながら言った。
「かわいかったが・・・シマちゃんのためなら・・・倒すのだ・・・」
こうして三人と一匹は、雷封じの珠を手に入れた。




