第54話 初めてのダンジョンへ3
赤い結晶が照らす通路を進むにつれ、空気が重くなっていく。
まるで見えない圧力が体にのしかかるようだった。
「・・・魔力が濃い。間違いなく、この先に“主”がいる。」
サーヤが剣を握り直す。
ミィは無表情のまま拳を握り、ポポタヌは「ポポッ・・・」と不安そうに鳴いた。
壮真は喉を鳴らし、松明を握り直した。
「よし・・・行くぞ。」
三人と一匹は、通路の奥にある巨大な扉の前に立った。
扉には、昨日のカニやヤドカリと同じ“和風の家紋”のような模様が刻まれている。
「・・・これ、ボス部屋の扉だな。」
「うむ。間違いない。」
サーヤが扉に手をかける。
「開けるぞ・・・」
ギギギギギ・・・
重い音を立てて扉が開いた。
中は広い空間だった。
天井は高く、赤い結晶が無数に輝いている。
床は黒い岩で、中央には巨大な影がうずくまっていた。
「・・・あれは・・・」
壮真が息を呑む。
影がゆっくりと動き、赤い光を反射しながら姿を現した。
それは――
巨大なカニだった。
昨日のカニの十倍はある。
甲羅は岩のように分厚く、ハサミは人間の胴体ほどの大きさ。
目は赤く光り、まるで怒りを宿しているようだった。
「・・・でかっ!!」
壮真が叫ぶ。
サーヤは剣を構え、ミィは拳を握る。
「“昨日のカニのボス”・・・!まさか、こんな巨大な魔物が第一階層の主とは・・・!」
「・・・食べられる?」
「ドロップで落ちたらな!!」
巨大カニはゆっくりと立ち上がり、ハサミを高く掲げた。
そして――
ドォォォォォォォン!!!
床を叩きつけた。
衝撃波が走り、三人は思わず後退した。
「うわっ!?地震かよ!!」
「気をつけろ!あれは“衝撃波攻撃”だ!」
「・・・強い」
ミィが低く呟く。
巨大カニが突進してくる。
ミィは横に跳び、拳を叩き込む。
ドゴォッ!!
しかし――
「・・・硬い・・・」
拳が弾かれた。
サーヤが横から斬りかかる。
「はああああっ!!」
ガキィィィィン!!!
剣が甲羅に弾かれ、火花が散る。
「くっ・・・!甲羅が厚すぎる・・・!」
「ミィ!ひっくり返せ!」
「・・・無理・・・」
ミィが珍しく困った顔をした。
「大きすぎて・・・持ち上がらない。」
「えっ!?ミィでも無理なのか!?」
「・・・重い・・・」
サーヤが叫ぶ。
「どうする!?弱点を突けないぞ!」
巨大カニが再びハサミを振り上げる。
ドォォォォォォン!!!
衝撃波が走り、三人は吹き飛ばされた。
「ぐっ・・・!」
壮真は壁に叩きつけられた。
「くそっ・・・どうすれば・・・」
その時だった。
壮真の手元にあった赤い結晶が、光り始めた。
「・・・ん?」
結晶が脈動し、壮真の手のひらに熱が集まる。
「な、なんだこれ・・・?」
サーヤが驚いた声を上げる。
「壮真殿・・・!おぬし、魔力が・・・!」
ミィが目を見開く。
「・・・壮真、光ってる・・・」
壮真の手のひらが赤く輝き、まるで炎が宿ったように熱を帯びていた。
「えっ・・・ちょ、ちょっと待て!?俺、魔力を集めてないぞ!?」
「赤い結晶でそのような現象が起こるとは・・・壮真殿その結晶に手を当てながら炎系の魔法を使うのだ!」
巨大カニが再び突進してきた。
「くそっ・・・やるしかない!!」
壮真は手を前に突き出した。
「大いなる理を司る四界の守護者よ、古より世界を支えし根源の力よ、いま我が呼び声に応え、侵略者を拒む絶対の壁として顕現せよ。大地は盾となり、炎は咆哮となり、氷は静寂となり、風は刃となる。四界の力よ、我が前に集い、世界を隔てる境界を築け。揺るぎなき壁よ、我が意志を守り、敵を退けよ。その身をもって災厄を遮り、我が歩む道を照らせ。顕現せよ、四界の守護壁。《ファイアウォール》!!!!!!」
赤い光が爆発した。
ドォォォォォォォン!!!
壮真の目の前に、赤い炎の壁が出現した。
「えっ!?デカい壁が出たぁぁぁぁぁぁ!!?」
炎の壁は巨大カニと激突し、甲羅の隙間を焦がした。
「ギィィィィィィィ!!!」
巨大カニが苦しげに叫ぶ。
サーヤが叫ぶ。
「壮真殿!そのまま維持するのだ!!」
「わかった!!!!」
ミィが拳を握る。
「・・・壮真、もっと大きくなる?」
「そんな簡単に・・・!!」
だが、赤い結晶が再び光り、壮真の手に魔力が集まる。
「・・・まさか・・・いける!」
壮真は叫んだ。
「うおおおおおおおおおお!!」
ドォォォォォォォン!!!
炎の壁がさらに大きくなり巨大カニを包んだ。
甲羅が割れ、中の柔らかい部分が露出する。
「ミィ!!今だ!!」
「・・・うん!」
ミィが跳び上がり、露出した部分に拳を叩き込んだ。
ドゴォォォォォォン!!!
巨大カニが大きく揺れ、サーヤが剣を構える。
「とどめだ!!」
サーヤの剣が継ぎ目に突き刺さる。
巨大カニは痙攣し――
光の粒となって消えた。
「・・・倒した・・・?」
壮真が息を切らしながら呟く。
ミィは無表情のまま頷いた。
「・・・倒した・・・」
サーヤは剣を収め、深く息を吐いた。
「壮真殿・・・何だったのだ今のは?」
「いや、俺もビックリだよ!!なんだよ今の・・・!」
ミィが袖をつまむ。
「・・・すごかった・・・」
「お、おう・・・」
ポポタヌは「ポポッ!」と喜びの声を上げた。
消えた場所には、大きなカニの身と、金色に輝く“魔核”が残っていた。
サーヤがそれを拾い上げる。
「これは・・・“主の魔核”だ。高値で売れるぞ、しかも食材もドロップした。」
壮真は苦笑した。
「いや・・・売るところないけどな・・・けど食材がドロップしたのはうれしいな。」
ミィが頷く。
「・・・おいしい?」
「カニはうまい!!!」
「食べる!!!!」
「お前はそればっかりだな!!サーヤボス部屋はボスを倒せば安全なのか?」
「うむ、我々がここから出るまではボスは復活しないのだ。」
「じゃあここでカニ食うか?」
「・・・食べる!!!」
三人と一匹は、初めてのボス戦の余韻に浸りながら休憩の準備を行った。




