第53話 初めてのダンジョンへ2
北の海岸にぽっかりと口を開けた洞窟――
昨日、巨大なカニ型魔物を倒した場所。
その前に、三人と一匹が立っていた。
「・・・よし。準備は万端だな。」
壮真はリュックの紐を締め直し、深呼吸した。
「壮真殿、緊張しているのか?」
サーヤが横目で見てくる。
「そりゃするだろ!昨日のカニだって普通に殺しにきてたじゃん!」
「・・・大丈夫。私がいる・・・」
ミィは無表情のまま、しかし頼もしい声で言う。
腕の中にはポポタヌがちょこんと座っていた。
「ポポッ!」
「いや、お前は戦力外だからな?」
壮真が即座にツッコむ。
「・・・戦力・・・」
「違う!!」
壮真はつっこみながら洞窟の入口を見つめた。
「じゃあ・・・行くか」
三人と一匹は、青白い光が漏れる洞窟の中へと足を踏み入れた。
洞窟の中はひんやりとしていて、壁には青白く光る苔がびっしりと生えていた。
「・・・明るいな・・・」
「魔力を帯びた苔だ。ダンジョンではよく見られる。」
サーヤが壁に触れると、苔はふわっと光を強めた。
「うわ・・・すげぇ。これ、ヘッドライトいらないじゃん。」
ミィはポポタヌを抱えたまま、洞窟の奥をじっと見つめている。
「・・・音、する・・・」
「またか・・・」
壮真とサーヤが耳を澄ますと――
カツ・・・カツ・・・カツ・・・
昨日と同じ、石の床を歩く音。
「・・・来る・・・」
ミィがポポタヌを置き拳を握る。
サーヤは剣を抜き、壮真は後ろに下がった。
「昨日のカニか?」
「いや、音が違う。もっと・・・軽い。」
暗闇の奥から姿を現したのは――
巨大なヤドカリのような魔物だった。
だが、背負っている貝殻には“和風の家紋”のような模様が刻まれている。
「・・・なんだあれ!?ヤドカリ・・・だよな?」
ヤドカリはハサミを振り上げ、カチカチと威嚇してきた。
「でも、昨日のカニよりはハサミも小さいし動きも遅い、弱そうだな・・・」
「油断するな。魔物は魔物だ。」
サーヤが前に出る。
ヤドカリが突進してくる。
ミィは無表情のまま前に出た。
「・・・いく・・・」
ハサミが振り下ろされる。
ミィは紙一重で避け、そのまま拳を甲羅に叩き込んだ。
ドゴッ!
「・・・硬い・・・」
「そりゃヤドカリだからな!!」
壮真が叫ぶ。
サーヤが横から斬りかかる。
「はああああっ!!」
剣が甲羅に当たり、火花が散る。
「くっ・・・やはり硬いな!」
「ミィ!ひっくり返せ!」
「・・・わかった」
ミィはヤドカリの突進をギリギリで避け、その勢いを利用して甲羅の下に潜り込んだ。
「・・・せーの」
ドゴォォォォン!!
ヤドカリがひっくり返る。
「今だサーヤ!」
「任せろ!」
サーヤがからの中に入ったヤドカリに剣を突き立てる。
ヤドカリは痙攣し、そのまま光の粒となって消えた。
「・・・倒した・・・」
ミィが無表情のまま言う。
ポポタヌは「ポポッ!」と喜びの声を上げた。
消えた場所に、小さな光の粒が残っていた。
「・・・これは?」
サーヤが拾い上げる。
「“魔核の欠片”だな。
魔物を倒すと稀に出る素材だ」
「へぇ・・・売れるのか?」
「売れるぞ。高値だ」
「・・・食べられる?」
「食べるな!!」
壮真は苦笑しながら言った。
「でも、素材が出るってことは・・・本格的なダンジョンってことだよな。」
「うむ。間違いない」
三人は慎重に進んだ。
青白い苔の光が揺れ、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。
「・・・なんか、思ったより綺麗だな。」
「ダンジョンは危険だが、美しい場所も多い。」
サーヤが言う。
しばらく進むと、道が左右に分かれていた。
「・・・分岐か。」
壮真はチョークを取り出し、壁に印をつけた。
「これで迷わないな。さて、どっちに行く?」
サーヤは目を閉じ、魔力の流れを感じ取るように集中した。
「右だ。魔力が濃い。」
「濃いほうが危険なんじゃ・・・。」
「危険だが、正しい道だ。」
壮真はごくりと唾を飲んだ。
「よし・・・行くか。」
三人と一匹は、右の通路へと足を踏み入れた。
通路は徐々に広くなり、天井には青白い苔だけでなく、赤い光を放つ結晶も混じり始めた。
「・・・綺麗。」
「赤い結晶は“魔力の濃度が高い場所”にできる。つまり――。」
「危険ってことか・・・。」
サーヤが頷く。
「気を引き締めろ。この先、ボス部屋がある可能性が高い。」
ミィは拳を握り、ポポタヌは「ポポッ!」と鳴いた。
壮真は深呼吸し、松明を握り直した。
「よし・・・行こう。」
三人と一匹は、赤い結晶が照らす通路の奥へと進んでいった。
その先に何が待つのか――まだ誰も知らない。




