第51話 北の海の調査2
北の海でライリュウと遭遇したあと、
三人はしばらく海岸線を歩きながら探索を続けていた。
ミィの腕の中には、先ほど出会った青いタヌキ――ポポタヌがちょこんと座っている。
「・・・ポポ」
「・・・かわいい・・・」
ミィは無表情のまま、しかし明らかに嬉しそうにポポタヌを撫でていた。
「ミィ、おぬし・・・その生物を連れて帰るつもりか?」
サーヤが呆れたように言う。
「・・・ついてくる・・・」
「いや、ついてくるって・・・」
壮真が苦笑しながら言うと、ポポタヌは「ポポッ!」と元気よく鳴いた。
「・・・ほら、ついてくるって言っている。」
「いや、今のはただ鳴いただけだろ!」
壮真がツッコむが、ポポタヌはミィの足元にぴたりと寄り添い、まるで「この人についていく」と言わんばかりに尻尾を振っている。
「・・・かわいいから、いい・・・」
「うらやましいいいいい!!」
サーヤは頭を抱えた。
「まあ、危険がないならいいか・・・じゃあまたライリュウが現れるかもしれんから慎重に探索を続けるぞ。」
海岸線は荒々しく、灰色の波が黒い岩にぶつかって白い飛沫を上げている。
「・・・ほんと日本海みたいだな。」
壮真はしみじみと呟いた。
「・・・寒い・・・」
ミィが袖をつまむ。
「確かに南側より気温が低いな。海流の影響か?」
サーヤは海を見つめながら言う。
「しかし・・・この海、魔力が濃い。南側とはまったく違う」
「・・・ライリュウ、また出る?」
「いや、あれは海の主だろうから、そう簡単には出てこないと思うぞ。」
壮真が言うと、ミィは少し残念そうにした。
「・・・食べたかった」
「食べるな!!」
しばらく歩くと、海岸線の岩場にぽっかりと開いた穴が見えた。
「・・・洞窟?」
サーヤが目を細める。
「自然の洞窟にしては・・・形が整いすぎてないか?」
壮真が言うと、ミィがポポタヌを抱えたまま洞窟の前に立った。
「・・・中、暗い・・・」
「そりゃ洞窟だからな。」
壮真はスマホのライトをつけ、洞窟の中を照らした。
「・・・なんだこれ?」
洞窟の壁には、明らかに人工的な“線”が刻まれていた。
直線的な模様、四角い凹み、そして何かの文字のような刻印。
「サーヤ、ミィ、これ・・・お前達の世界の文字か?」
「いや、見たことがない。だが・・・魔法陣の一部に似ている気もする。」
「・・・私も見たことがない・・・危険?」
ミィが小さく尋ねる。
「わからん。だが・・・」
サーヤは剣を抜いた。
「この洞窟、ただの洞窟ではない。気を引き締めて進むぞ・・・」
壮真はごくりと唾を飲んだ。
三人と一匹は慎重に洞窟の奥へと進んだ。
中はひんやりとしていて、壁には青白い光を放つ苔のようなものが生えている。
「・・・明かりがある。」
「自然の光ではないな。魔力を帯びた苔だ」
サーヤが壁を触ると、苔はふわっと光を強めた。
「うわ・・・すげぇ。」
壮真は思わず見入った。
ミィはポポタヌを抱えたまま、洞窟の奥をじっと見つめている。
「・・・音がする・・・」
「音?」
壮真とサーヤが耳を澄ますと――
カツ・・・カツ・・・カツ・・・何かが石の床を歩くような音が聞こえた。
「・・・来る・・・」
ミィが構える。
サーヤも剣を抜き、壮真は後ろに下がった。
暗闇の奥から姿を現したのは――巨大なカニのような生物だった。
だが、普通のカニではない。
甲羅には“和風の紋様”のような模様が刻まれ、目は赤く光り、ハサミは刀のように鋭い。
「・・・なんだあれ!?カニ・・・だよな?」
カニのような生き物はハサミを振り上げ、威嚇するようにカチカチと鳴らした。
ミィは無表情のまま拳を握った。
「・・・戦う?」
「いや、まずは様子を――」
壮真が言い終わる前に、カニが突進してきた。
「来るぞ!!」
サーヤが剣を構える。
ミィはポポタヌをそっと地面に置き、無表情のまま前に出た。
「・・・いく」
カニのハサミが振り下ろされる。
ミィは紙一重で避け、そのまま拳を甲羅に叩き込んだ。
ドゴォッ!!
「・・・硬い・・・」
「そりゃカニだからな!!」
壮真が叫ぶ。
サーヤが横から斬りかかる。
「はああああっ!!」
剣が甲羅に当たり、火花が散る。
「くっ・・・硬いな!」
カニは怒り狂い、ハサミを振り回しながら暴れ始めた。
「ミィ!サーヤ!下がれ!」
壮真が叫ぶ。
「壮真殿、危険だ!下がれ!」
「いや、あれ・・・弱点がある!」
壮真はカニの腹を指差した。
「カニってのは腹が柔らかいんだよ!
ひっくり返せば倒せる!」
「・・・ひっくり返す?」
ミィが無表情のまま頷く。
「・・・やる・・・」
ミィはカニの突進をギリギリで避け、
その勢いを利用して甲羅の下に潜り込んだ。
「・・・せーの・・・」
ドゴォォォォォン!!
ミィはカニを持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。
「ひっくり返った!!」
壮真が叫ぶ。
サーヤがすかさず腹に剣を突き立てる。
「これで終わりだ!!」
カニは痙攣し、そのまま動かなくなった。
「・・・倒した・・・」
ミィが無表情のまま言う。
ポポタヌは「ポポッ!」と喜びの声を上げ、
ミィの足元にすり寄った。
壮真はカニの死骸を見下ろしながら言った。
「これ・・・食べられるかな?」
「・・・おいしい?」
「俺の所の世界でカニはかなり高級品でうまいんだよな。」
「・・・じゃあ持って帰る・・・」
ミィがカニを持ち上げようとするとカニは洞窟に吸収されるように消えていった。
「・・・消えた・・・」
「どういううことだ?」
「やはりな・・・・」
サーヤは剣を拭きながら言う。
「この洞窟・・・やはりダンジョンだ。魔物がいて倒したらダンジョンに吸収されるダンジョンの特徴だ!ということは、奥に何かがある。」
「・・・宝?」
ミィが小さく呟く。
「宝かどうかはわからんが・・・この島の謎に関わる何かがあるかもしれん。」
壮真はスマホのライトを強め、洞窟の奥を見つめた。
「ここがダンジョンなら、今の準備では駄目だ。サーヤ、通常ダンジョンとはどの程度の規模なんだ?」
「そうだな、通常は1キロメートル四方の大きさで1~2階層、大規模となると5階層は超えるな。」
「結構広いいな・・・となるとやっぱり今の準備では灯りや食料が足らないな。よし一旦帰るぞ!」
サーヤが頷き、ミィはポポタヌを抱え直す。
「・・・わかった・・・」
三人と一匹は、青白い光に照らされたダンジョンを後に帰っていった。
そのダンジョンの先に何があるのか――
まだ誰も知らない。




