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第50話 北の海の調査1


 畑づくりが一段落した翌朝。


 壮真は地図を広げ、島の北側を指でなぞった。


「北側はだいぶ探索できたな、森の奥は危険そうだから後回しで、次は海だな。」


「北側の海はどうなっているのだろうな?」


 サーヤが剣を磨きながら尋ねる。


「この前の探索でちらっと見えたんだけれど、なんか日本海っぽい雰囲気だった。」


「にほんかい・・・?」


「俺の世界の海だよ。荒々しくて、どこか寂しい感じの海だ。」


 ミィが無表情のまま顔を上げる。


「・・・行く?・・・海に・・・食べ物いる?」


「たぶんいるだろうな」


「行く・・・」


 即答だった。


 サーヤはため息をつきながら立ち上がる。


「仕方ない。護衛として同行しよう。」


 こうして三人は北側の探索へ向かった。


 北の森を抜けると、空気が変わった。


 湿った潮の香り。


 冷たい風。


 遠くから聞こえる波の音。


「なんだか懐かしいな・・・」


 壮真は思わず呟いた。


 目の前に広がるのは、巨大な海、だが、しかも波が荒く、灰色がかった水面が風に揺れている。


「これは・・・海なのか?西や東と全然違うではないか。」


 サーヤが驚いたように言う。


「海だ。しかも雰囲気は完全に日本海だ・・・」


 海岸の周囲には黒い岩場が広がり、松の木に似た針葉樹が風に揺れている。


「・・・寒い・・・」


 ミィが壮真の袖をつまむ。


「確かに南側より気温が低いな。・・・海流の影響か?」


 サーヤは湖面を見つめ、眉をひそめた。


「しかし・・・この海、ただ者ではないな。魔力の流れが妙だ・・・」


「魔力?」


「うむ。海の奥から・・・何か大きな気配がする・・・」


 壮真はごくりと唾を飲んだ。


「ま、まさか・・・巨大生物とか?」


「・・・食べられる?」


「絶対!近寄るなよ!!とりあえず散策しよう。」


 三人が海岸を歩いていると、岩場の上に奇妙な生物がいた。


「・・・あれは?」


 サーヤが剣に手をかける。


 岩の上に座っていたのは――


 青い毛並みのタヌキのような生物だった。


 丸い体、ふさふさの尻尾。


 しかし、目は金色に光り、額には小さな渦模様。


「・・・かわいい・・・」


「かわいいのだ!!」


 ミィとサーヤが近づく。


「おいお前たち、勝手に近づくな。危険かもしれんぞ!」


「大丈夫だ。あれは、絶対に弱い!」


「根拠は?」


「かわいいから!!!」


「根拠になってない!!」


 タヌキもどきはミィに気づくと、


「ポンッ!」と奇妙な音を立てて跳ねた。


 そして――


「ポポポポポポポポ!!」


 腹を叩きながら威嚇してきた。


「おおっ!?腹太鼓で威嚇!?」


「なんだこのかわいい生物は・・・?」


 サーヤは目を輝かせている。


「こいつは・・・“ポポタヌ”という名前にしようではないか。」


「名前をつけるな!」


 ポポタヌは威嚇しながらも近づいてくる。


 サーヤはしゃがみ手を差し出した


「ほら!こっちに来るのだ!」


 ポポタヌはサーヤを見てさらに


「ポポポポポポポポポポポポポポポポポ!!」


 とさらに威嚇してきた。


「ぬう!!!なんという屈辱!!!」


 今度はミィがしゃがみ込み、手を差し出した。


「・・・おいで」


 ポポタヌは一瞬警戒したが、ミィの手の匂いを嗅ぐと――


「ポポッ!」


 そのままミィの膝に乗った。


「・・・なついた。」


「お、おぬし・・・なんて羨ましい・・・なんでそんなに動物に好かれるのだ・・・?」


「・・・食べ物の匂いがする?」


「それは否定できないな・・・」


 壮真は苦笑した。


 そのとき――


 海の奥で水面が盛り上がった。


「・・・っ!?」


 サーヤが剣を抜く。


 海面が渦を巻き、巨大な影がゆっくりと浮かび上がってきた。


「な、なんだあれ・・・!」


 水面から姿を現したのは――


 巨大な魚のような、龍のような生物だった。


 体は鯉のように太く、鱗は黒と赤のまだら模様。


 背びれは鋭く、尾は長くしなる。


「・・・もしかしてライリュウか?」


 ライリュウは海面を割り、こちらをじっと見つめている。


「・・・食べられる?」


「ミィ!!喋るな!!」


 サーヤがミィの口を塞ぐ。


 壮真は震えながら呟いた。


「なあ・・・、あいつ・・・なんか怒ってるように見えないか?」


 ライリュウはゆっくりと口を開いた。


「グォォォォォォォォ・・・!」


 低い咆哮が全体に響き辺りに雷が落ちる。


 ドドーーーン!!!!雷があたりの空気を切り裂いた!


 サーヤが前に出る。


「壮真殿、ミィ!下がれ!あれは・・・強い!!」


 ミィも拳を握りしめる。


「・・・戦う?」


「いや、戦わない!!」


 壮真が叫んだ。


「戦ったら死ぬ!!あれは・・・たぶんこの海の主だ!」


 サーヤは剣を構えたまま、ライリュウの動きを見つめる。


 だが――


 ライリュウはゆっくりと頭を下げ、そのまま海の奥へと沈んでいった。


「・・・去った?」


「うむ。どうやら我々を敵と見なさなかったようだ・・・」


「・・・食べられなかった・・・」


「食べる気だったのかおぬしは!!」


 壮真は胸を撫で下ろした。


「よかった・・・マジで死ぬかと思った・・・」


 サーヤは剣を収め、ミィはポポタヌを抱えたまま首をかしげる。


「・・・ライリュウ、いいやつ?」


「いや、どうだろうな・・・でも、あれを倒さないと次へ進めないのか・・・」


 サーヤは湖を見つめながら呟いた。


「この海・・・何か秘密があるな。魔力の流れが不自然だ。」


「・・・また来る?」


 ミィが壮真の袖をつまむ。


「そうだな。でも次はもっと準備と探索をしてからだ。」


 壮真は海を見つめながら言った。


「この島・・・まだまだ謎だらけだな・・・」


 冷たい風が三人の頬を撫で、海面には静かな波が広がっていた。




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