Aランクになりたいトワ
「ソウちゃん昨日どこに行ってたの?」
「起きてたのか?」
起こさないようにこっそり出て行ったはずなのに気づかれているとは……
「夜風を浴びに行っていたというべきか」
何も間違ったことは言ってないが疑われるような口調だったかもしれない。
「ふーん、まぁいいや」
何とか許してもらうことができたらしい。朝の準備でトワの髪に櫛を通しながら会話する。
「ところでわたしもうBランクになったわけなんだけどさ、Aランクから昇格条件?なんてものがあるんだっけ」
「ああ、明確に定まった基準があるわけではないが相応の実力が示せる実績が必要になる」
「実績?」
寝起きで瞼が開ききっていないトワが疑問そうな顔をし続ける。
「そうだ、何か大きなことを成し遂げてもいい、小さいことを地道に続けてもいい、そうして認められることが実績になる」
「……難しいことはわからないけどとにかく優秀になればいいってことかな?」
「それが正しい」
実際トワの場合は小さなことを効率よくすることもできれば、大きなことを成し遂げる力もある。トワはSランクに余裕を持って認定されるほどの素質があることは間違いない。しかし、どちらにせよ、認定されるためには時の運というものが必要。私は『運命』ではないのでそこまで人の運勢を操ることはできないが。
「ドラゴンってやつと戦ってみたりしてみたいな~」
「ドラゴンは数が少ない、前回の人里付近での目撃例は3年前、その前は9年前にもなる」
「そんなに少ないの~~?」
少し怒ったようにトワは話す。
「ドラゴンは本来人里に近寄らない生き物なんだ」
ドラゴンは高い知能があるため、個として人類より勝っていても集団であれば負けるリスクがとても高いことを理解している。その中で人里に向かう個体はよほど自分の力に自信があるか、一種の錯乱状態になっているかだ。
「ドラゴン見てみたかったな~」
トワが残念そうな顔をする。
「今戦ったとして、経験値の差で負ける可能性の方が高いからやめておいた方がいいぞ」
「えーー、多分勝てるよ?」
トワはまだ世間の常識を知り切れてない上、自分の実力についても完全に理解するには至っていないだろう。だからこそ、危険なのだが。
「トワにはドラゴンでなくても強い魔物を討伐する依頼もあるはずだ、ひとまずそれで自分がどのような存在なのか理解しろ」
「自分の存在?」
トワが眉間に皺を寄せる。
「自分に何ができて何ができないのかを知ることが重要だと何度も言っているだろう」
「うーん、難しいことはわからないけどとりあえず依頼受けに行こっか」
……
この世界には強いと言われる魔物はたくさんいるがその中でも最も強いとされているのはドラゴンである。
ドラゴンは退けるだけで英雄扱いされる。だが、普通のドラゴンは人との接触を避ける。
……もし、複数のドラゴンが街に襲撃してきたら?
そのようなありえない話をするのは愚かなのかもしれない。
あえて答えるなら、いくら優秀な冒険者が集まっていたとしても壊滅的な被害は免れないだろう。
……だからこそ、『神』の言うとおりに私はこの街をドラゴンによって壊滅させる。
街の片隅で少し低い声で小さく笑っていた男がいた。




